スタインベック作・伏見威蕃(いわん)訳の「怒りの葡萄(下)」(新潮文庫)を読んでいたら、
「ふたりは、まじろぎもしなかった」(348ページ)
という文章が出て来ました。
「みじろぎ」
ではなく、
「まじろぎ」
です。多分この「ま」は「目」でしょう。意味は、
「まばたきもしなかった」
だと思いますが、使ったこともなければ見たのも初めてで、「まじろぎ」もせずに、この文章を見つめてしまいました。
しかし、そうなると「みじろぎ」の「み」は、これまで「身」だと思っていましたが、「見」なんですかね?
いや、「じろぎ」は、「しろぐ」という動詞(知らんけど)の連用形の連濁「じろぐ」が「名詞形」になっている。「じろぐ」は「動く」という意味なんでしょう、知らんけど。じゃあ「身を動かさずに」が、「身じろぎ」で、「まじろぎもせず」は「身」(からだ)どころか「目」も動かさないということなんでしょう。
「三省堂国語辞典」には、さすがに「まじろぎ」は載っていませんでした。古語かな。「精選版日本国語大辞典」には載っていました!
*「まじろぎ(瞬)」=【名】(動詞)「まじろぐ(瞬)」の連用形の名詞か。古くは「まじろき」)まばたき。
やっぱりね!
用例は「1590年」の「天正本節用集」と、幸田露伴の「五重塔」(1891-92)でした。
そして「しろぐ」という動詞、「三省堂国語辞典」には載っていませんでしたが、「精選版日本国語大辞典」には載っていました!
*「しろぐ」(古くは「しろく」)
(1)小さく動く。細かく動く。他の語と結合して複合動詞をつくることが多い。「まじろぐ」「身じろぐ」「立ちしろぐ」など。
(2)ふるまう、おこなう、する、を卑しめていう語。しやがる。(例)雑俳・太箸集(1835‐39)三「茶屋の『口鼻』・どふしろぐやら子も出来ぬ」
とありました。想像した通りでした。
それにしても、訳者の「伏見威蕃さん」は、これまでも翻訳物をいくつか読ませていただいていますが、こういった古語をうまく使われますね。


