「後ずさり」か?「後じさり」か?
「ず」か?「じ」か?
「両方ある」とは思うのですが。「連濁」になっているので、元は、
「す」か?「し」か?
の「清音」で、どちらも漢字で書くと、
「後退り」
というのは「退る」と書いて、
「すさる」か?「しさる」か?
なのですね。つまり、「退り」の「退」を、
「す(さ)」と読むか?「し(さ)」と読むか?
個人的には「すさる」は言うけど、「しさる」は言わないような…。
もしかして「すさる」「しさる」は「サ変動詞」の「する」なの?
またまた「三省堂国語辞典・第八版」で「すさる」を引くと、
*「すさる」(退る)【自五】=しりぞく、しさる、すざる。
と全部出ています。(「しざる」はない。)「しさる」を引くと、
*「しさる」(退る)=【文】前を向いたまま、あとへ下がる。しざる。すさる。
そうか「すさる」は【自五】つまり、現代語の「自動詞・五段活用動詞」なのに対して、「しさる」は【文】とあるから「文語」。つまり、
「『しさる』のほうが古い言葉」
ということですね。『精選版日本国語大辞典』を引くと、
*「すさる(退)」(「すざる」とも)=ひきしりぞく。後ろにさがる。しさる。<名語記(1275)>
【用例】
★「高野聖」(1900)<泉鏡花10「私(わし)は一足退(スサ)ったが」
★「大塩平八郎」(1914)<森鷗外>8「言ってのものがことごとく跡へ跡へとすざるので」
*「しさる(退)」(後世「しざる」とも)=前を向いたままでうしろにさがる。あとずさりする。すさる。
【用例】
★「歌仙本兼輔集」(933頃)「陸奥の白河越て相逢ひつしさるもゆけど遥けき」
★「平家」(13C 前)12「ぬりごめの内へしざりいらむとし給へば」
★「星座」(1922)<有島武郎>「少し座をしざった」
やはり推測通り、「しさる」が古く「すさる」はその後。しかも「清音」が「先」で、「濁音」が「後」のようですね。古い順に並べると、
「しさる」→「しざる」→「すさる」→「すざる」
かな。「(精選版)日本国語大辞典」の「用例」は物語るなあ。


