8981「村上春樹とナイロンとスコップ」

2023 . 5 . 19

8981

 

 

「2023読書日記045」に読後感を書いた村上春樹の新作、

『街とその不確かな壁』(新潮社)

6年ぶりの長編で、なんと661ページもありました。

その中から、私が気になった言葉を「2つ」取り上げます。それは、

「ナイロン」と「シャベル」

です。この2つの言葉は、

「関西特有の使い方」

があり、この使い方から、

「村上春樹さんが関西にルーツを持っている痕跡」

が見られたのです。

まず「ナイロン」。

「ナイロン」というのは「関西」出身の「ある程度年齢の上の人(60代以上か?)」がよく使う表現だと思いました。「ナイロン」は「繊維」なので、

「テニスのラケットのガット」

は「ナイロン」と「天然」がありますが、ある時期、日本の軽産業の中心地だった「関西」では、

「『ナイロン』という言葉が、ビニールやポリエチレン製のものについても使われる傾向がある」

のです。「ナイロン袋」って言う人は、まず間違いなく「関西人」(西日本人)です。

この小説で「ナイロン」と「ビニール」が使われたのは、以下の箇所です。

・「黄色いビニールのショルダーバッグ」(8ページ・594ページ)

・「ナイロンのナップザックの中には」(66ページ)

・「足がナイロンのロープで縛られていました。」(334ページ)

 

そしてもう一つは、「シャベル」と「スコップ」。

「大きいのが『シャベル』、小さいのは『スコップ』」

というのは「関西」なのです。「関東」では「逆」で、

「小さいのが『シャベル』、大きいのは『スコップ』」

なのです!これが記された国語辞典は、まだ少ないです。そして、辞書によって記述がバラバラです。この小説で「シャベル」が出て来たのは以下のような記述です。

・「シャベルでせっせと地面に穴を掘るんですよ。そこそこの運動にはなりますが。」(104ページ)

・「平らなアルミ製の専用シャベルを持って」(360ページ)

・「シャベルで雪をすくってカートに入れながら」(361ページ)

・「頭をただからっぽにして雪かきシャベルを手に」(361ページ)

この小説で出て来た場所は「福島県」だから、本当は「雪かき」に使うのは、

「スコップ」

のはずですが、全部「シャベル」が使われています。この辺りからも、村上さんが、

「関西出身」

ということがうかがえますね。

 

(2023、5、19)