8730「『開いた口が塞がらない』の意味」

2022 . 10 . 20

8730

 

 

ちょうど今から1年前の「2021年10月12日」、用語懇談会の席で、他社の委員からこんなことを指摘され、それをメモしていました。

「開いた口が塞がらない」

という言葉の意味に関してです。

「『開いた口が塞がらない』という言葉は『あきれてしまったとき』に使われる言葉で、『広辞苑』にも1番目の意味ではそれが載っているが、2番目の意味では『うっとりしている状態。我を忘れたさま』として、浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵(1748年)』から用例を取っている。」

その時は、

「え?そうなの?『うっとりとした』ときに『開いた口が塞がらない』なんて、現代では言わないよね」

と思いました。それによく見ると、

「開いた口が塞がら“ない”」

ではなく、

「開いた口が塞がら“ぬ”」

ですから。これは「現代口語」ではなく、

「文語での意味」

なのではないのでしょうか?

そう思ったのですが、1年間ほったらかしになっていました。

遅ればせながら、ここで他の辞書も引いてみましょう。

『精選版日本国語大辞典』は、「見出し」も「語釈の順番」も「用例」も『広辞苑』と全く同じでした。

『三省堂国語辞典・第八版』は、

「開いた口がふさがらない」=おどろきあきれて、何も言えなくなるようす。(例)応対のひどさにーー」

として「あきれた」ほうしか載せていませんでした。

『明鏡国語辞典・第三版』も、

「開いた口が塞がらない」=あきれてものが言えない。(例)あまりのかばかしさにーー

と書かれている上に、【注意】として、

「素晴らしい活躍に驚く意で使うのは誤り。(例)×ホームランの連発に開いた口がふさがらない」

とまで、わざわざ書いてありました。ということは、やはり、

「今はこういう使い方はしない」

ということですね。それでも「注意書き」をするということは、

「今でもそういう使い方をする人がいる」

ということかな?「ヤクルトの村上宗隆選手」なんかに使うの?いやあー、それはないですよねえ。もし使う人がいたら、それに対して私は、

「開いた口が塞がらない」

ですが。

つまり結論としては、

「江戸時代には『うっとり』する様子を指して『開いた口が塞がらない』と言ったこともあったが、現代においては『あきれた様子』を指してしか使わない」

ということで、よろしいんじゃないでしょうか。「うっとり」の意味は載せないのが正解。もし、載せるのであれば「文語」とか何か、

「注意書きをする必要がある」

と思います。勘違いする人が出てくるといけないので。

 

(2022、10、19)