新聞用語懇談会放送分科会での議題として、
「イチ押し」
の表記について質問が出ました。漢字で書くと、
「押し」?「推し」?
という問題です。
あれ?これって昔、書いた気がするな、と思って検索したら・・・2010年に書いていました。「平成ことば事情4162イチオシの漢字表記」でした。
思えば「モーニング娘。」や「AKB48」が出て来た頃、自分が応援するメンバーを「オシ」「オシメン」と呼び、「一番のオシ」が「イチオシ」。アイドルだけではなく広く使われる言葉になりました。この「おし」の表記は、当初、
「押し」
が主流でしたが、ニュアンスが違うということからか、次第にカタカナで、
「オシ」
となり、今は、
「推し」
が主流のように思います。
2020年度下半期の第164回芥川賞を受賞した、
『推し、燃ゆ』(宇佐美りん)
は、「推し」という漢字表記が定着した証しではないでしょうか。
「プッシュ(push押し)」から「レコメン(recommend推し)」に変わってきたと。
「三省堂国語辞典・第八版」では、「押し」とは別に「推し」を見出しに立て、
【一】①(…が)推薦すること。「編集部推しの商品」②(…を)支持すること。ファンであること。「ゆみちゃん推し」「推し事(ごと)(=ファンとしての活動。『推し活』とも)」【二】自分がファンである人・もの。「推しの誕生日」「推しかぶり(応援する対象がかち合っていること)」▽【一】【二】二十一世紀になって広まったことば。
と、かなり詳しく書かれています。「推し」という言葉を「推し」ている感じです。(「ゆみちゃん」って、誰でしょうかね?)
私が12年前に書いた「イチオシ」という言葉の全体の表記に関しては、2010年9月22日の「ミヤネ屋」の準備中に「AKB48のじゃんけん大会」の話題があり、その字幕に「イチオシ」という表現が出てきたと。これを漢字で書くのに、それまでは、
「一押し」
だと何の疑念もなく思っていたが、発注が、
「イチ推し」
だったようです。それを見て、
「確かにこの場合の『おし』は『推薦する』という意味の『オシ』だから、『押す』ではなく『推す』で『イチ推し』あるいは『一推し』が正しいのでは?」
と初めて気付いたと記しています。
当時(2010年9月26日)と、今回(2022年9月6日)のグーグル検索件数を比べると、
【2010年9月26日】→ 【2022年9月6日】
「イチオシ」=4150万件 → 5240万件( 1,3倍)
「一推し」 = 8万9400件 → 749万件( 83,8倍
「イチ推し」= 3万6800件 → 841万件(228,5倍)
「イチ押し」= 102万件 → 655万件( 6,4倍)
「一押し」 = 976万件 → 1420万件( 1,5倍)
でした。当時はまだ「押し」のほうが「押しが強かった」ようですが、その後「イチ推し」「一推し」が、ものすごく増えたことが分かります。でもトータルでは「全部カタカナ」の「イチオシ」も、ネット上ではかなり使われているということのようです。
国語辞典は、当時(2010年)は、
『広辞苑』(六版)=「一押し・一推し」の順で両方「見出し」に掲げていました。
『明鏡国語辞典』(二版)=「一押し」のみ。
『三省堂国語辞典』(六版)=「一推し・一押し」(「イチ押し」とも書く)の順でした。
『精選版日本国語大辞典』『デジタル大辞泉』=載っていませんでした。
今回、「三省堂国語辞典」(八版)は上に記しましたが、それ以外の辞書は、
『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016)=「一押し」のみ。
『現代国語例解辞典』(五版・2016)=「一押し・一推し」。
『広辞苑』(七版・2018)=「一押し・一推し」。(「六版」と同じ)
『三省堂現代新国語辞典』(六版・2019)=「一推し・一押し」の順。
『大辞林』(四版・2019)=「一推し」のみ。
『新明解国語辞典』(八版・2020)=見出し語に「いちおし」はなし。
『明鏡国語辞典』(三版・2021)=「一押し」に「一推し」も加わった。
『新選国語辞典』(十版・2022)=「一押し・一推し」。
でした。