8670「イチオシの漢字表記2」

2022 . 9 . 9

8670

 

新聞用語懇談会放送分科会での議題として、

「イチ押し」

の表記について質問が出ました。漢字で書くと、

「押し」?「推し」?

という問題です。

あれ?これって昔、書いた気がするな、と思って検索したら・・・2010年に書いていました。「平成ことば事情4162イチオシの漢字表記」でした。

思えば「モーニング娘。」や「AKB48」が出て来た頃、自分が応援するメンバーを「オシ」「オシメン」と呼び、「一番のオシ」が「イチオシ」。アイドルだけではなく広く使われる言葉になりました。この「おし」の表記は、当初、

「押し」

が主流でしたが、ニュアンスが違うということからか、次第にカタカナで、

「オシ」

となり、今は、

「推し」

が主流のように思います。

2020年度下半期の第164回芥川賞を受賞した、

『推し、燃ゆ』(宇佐美りん)

は、「推し」という漢字表記が定着した証しではないでしょうか。

「プッシュ(push押し)」から「レコメン(recommend推し)」に変わってきたと。

「三省堂国語辞典・第八版」では、「押し」とは別に「推し」を見出しに立て、

【一】①(…が)推薦すること。「編集部推しの商品」②(…を)支持すること。ファンであること。「ゆみちゃん推し」「推し事(ごと)(=ファンとしての活動。『推し活』とも)」【二】自分がファンである人・もの。「推しの誕生日」「推しかぶり(応援する対象がかち合っていること)」▽【一】【二】二十一世紀になって広まったことば。

と、かなり詳しく書かれています。「推し」という言葉を「推し」ている感じです。(「ゆみちゃん」って、誰でしょうかね?)

私が12年前に書いた「イチオシ」という言葉の全体の表記に関しては、2010年9月22日の「ミヤネ屋」の準備中に「AKB48のじゃんけん大会」の話題があり、その字幕に「イチオシ」という表現が出てきたと。これを漢字で書くのに、それまでは、

「一押し」

だと何の疑念もなく思っていたが、発注が、

「イチ推し」

だったようです。それを見て、

「確かにこの場合の『おし』は『推薦する』という意味の『オシ』だから、『押す』ではなく『推す』で『イチ推し』あるいは『一推し』が正しいのでは?」

と初めて気付いたと記しています。

当時(2010年9月26日)と、今回(2022年9月6日)のグーグル検索件数を比べると、

【2010年9月26日】→ 【2022年9月6日】

「イチオシ」=4150万件     →  5240万件( 1,3倍)

「一推し」 =  8万9400件  →   749万件( 83,8倍

「イチ推し」=  3万6800件  →   841万件(228,5倍)

「イチ押し」= 102万件     →   655万件( 6,4倍)

「一押し」 = 976万件     →  1420万件( 1,5倍)

でした。当時はまだ「押し」のほうが「押しが強かった」ようですが、その後「イチ推し」「一推し」が、ものすごく増えたことが分かります。でもトータルでは「全部カタカナ」の「イチオシ」も、ネット上ではかなり使われているということのようです。

国語辞典は、当時(2010年)は、

『広辞苑』(六版)=「一押し・一推し」の順で両方「見出し」に掲げていました。

『明鏡国語辞典』(二版)=「一押し」のみ。

『三省堂国語辞典』(六版)=「一推し・一押し」(「イチ押し」とも書く)の順でした。

『精選版日本国語大辞典』『デジタル大辞泉』=載っていませんでした。

今回、「三省堂国語辞典」(八版)は上に記しましたが、それ以外の辞書は、

『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016)=「一押し」のみ。

『現代国語例解辞典』(五版・2016)=「一押し・一推し」。

『広辞苑』(七版・2018)=「一押し・一推し」。(「六版」と同じ)

『岩波国語辞典』(八版・2019)=「一押し」のみ。

『三省堂現代新国語辞典』(六版・2019)=「一推し・一押し」の順。

『大辞林』(四版・2019)=「一推し」のみ。

『新明解国語辞典』(八版・2020)=見出し語に「いちおし」はなし。

『明鏡国語辞典』(三版・2021)=「一押し」に「一推し」も加わった。

『新選国語辞典』(十版・2022)=「一押し・一推し」。

でした。

 

(2022、9、7)