8701「ひつぎと棺」

2022 . 9 . 29

8701

 

安倍元・首相、エリザベス女王と相次いで亡くなって「国葬」も行われ、その報道の中でよく出て来た言葉に、

「棺」

がありました。この「棺」という漢字は「常用漢字」なのですが、常用漢字表に載っている読み方は、

「カン」

という「音読み」しかありません。つまり、「訓読み」で「ひつぎ」と読むには、

「ルビを振って『棺(ひつぎ)』」

とするか、

「平仮名で『ひつぎ』」

と書くしかないのです。

もちろん「カタカナ」でも「ローマ字」でも書けますが、普通は書かないですよね。

新聞各紙はどうしているか?9月14日の夕刊は、

・「棺」=朝日

・「ひつぎ」=読売・毎日・産経・日経

でした。

テレビでは、私が確認した中では、

・「棺」=日本テレビ・テレビ朝日

・「ひつぎ」=NHK

でした。

「ひつぎ」と平仮名で書くと、

「ひつじ」

に見えてしまいそうではあります。

それにしても「漢字」を好んで書くことの多い「産経新聞」が、なぜ「棺」と漢字で書かないのか?もしかしたら、「棺」ではなく、本当は、

「柩(ひつぎ)」

と書きたいのではないでしょうか?

実は、「棺」と「柩」の違いに関して、

・「棺」=入れ物のみ

・「柩」=ご遺体が入った棺

という使い分けがあるというのを読んだことがあります。(本当かな?)たしかに、

「霊柩車」

では「柩」が使われていますね。それに関連して、

「ひつぎをのせた車」

という場合の、

「のせた」

というのは、

「乗せた」か?「載せた」か?

というのも気になっていました。「ひつぎ」は「物」ですから、そう考えると、

「載せた」

になりますが、ご遺体とはいえ「人」が入っている「ひつぎ」と考えると、

「乗せた」

になります。多くのメディアは、「ひつぎ」「棺(ひつぎ)」どちらでも、

「乗せた」

を使っていました。「ご遺体」を「物」ととらえるのは、ためらわれたのでしょう。

そう考えると、もし「漢字を使う」のならば、

「柩(ひつぎ)を乗せた車」

とするのが一番で、「(棺の)漢字を使わない」のならば、

「ひつぎを乗せた車」

になるということでしょうかねえ。

なお『週刊文春』(2022年10月6日号)の林真理子さんのコラム『夜ふけのなわとび』(第1763回)の「戴冠式で」で、エリザベス女王の国葬を取り上げていましたが、そこで林さんは、ルビなしで、

「棺」

を使っていました。

 

(2022、9、28)