購入してから6年も経ってようやく読みました。気になっては、いたんだけど、「2段組み350ページ」に怖気づき…。
思っていたのと違って、完全に「ミステリー」小説なんですね、戦場が舞台の。
5つの話で「5つのミステリー」がある。謎が解けた後ですぐにその章が終わらないので、やや「スカッと感」が薄れる気がした。
それと私はなぜかこの著者、「女性」だと思っていましたが、読んでみると、これは「男性かも」と思いました。カバー表紙の色も「深緑」(モスグリーン、オリーブ色)で、
「あ、そうか、これはカーキ色・軍服の色なんだ」
と思いました。ペンネームもそこから?
それにしても、よくこんな詳しい軍隊や戦場の様子が書けるなあと感心しました。どうやって取材しているのだろうか?
言葉の表現で気になったものを挙げていきます。
・「アメ公の血で汚すなんて」(63ページ)
・「くずおれる」(69ページ)
・「くずおれた若い女」(280ページ)
~「崩れ落ちる」ではなく「くずおれる」を使っているのが「おっ」と思いました。
・「肝が冷えたね」(71ページ)「肝を冷やしたね」ではなく。
・「火蓋が切って落とされた」(81ページ)間違い。正しくは「火蓋が切られた」。
・ドイツ軍の戦車「虎(ティーガー)」「豹(パンター)」=70口径75ミリ主砲。アメリカのM4シャーマン戦車を撃ち抜く。(156ページ)
・88ミリ高射砲=ティーガーの主砲と同じ=「戦車殺し(タンクキラー)」=「射程距離は水平で9、2マイル(約15キロメートル)。(156ページ)
・「射程距離」(156ページ)
・「射程圏内」(265ページ)
という表現を使っていた。「射程」という言葉の中に「距離」「圏」の意味が含まれているので「重複表現」と言われるが、一般の人ではなく、戦争に関して専門的な作家でも使っているのだなと思いました。
・「大混乱、魔女の大釜が開くというやつだ」(156ページ)どこかで聞いたことがあるような…。どこだっけ?
・「由緒正しい屋敷」「いい家柄の生まれ」(219ページ)
というのも使っていて、マスコミでは「差別的表現」として使わないが(「由緒ある」は使うが)、一般では使うんだろうなと思いました。
・「立射でライフルを撃っていた」(220ページ)
・「飛びすさった」(223ページ)
・「看護婦」(267ページ)
・「榴弾砲が着弾した」(268ページ)
・「缶切り」に「ジョン・ウェイン」というルビが付いてました。(272ページ)そういう呼び方なのかな?
・「リパブリック賛歌」の替え歌(277~278ページ)、日本では「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪引いた」という替え歌が有名ですが、
「あいつは新兵 びびってた 装備は念入り パック締め
輸送機エンジン聞いている でももう二度と飛べない」
というのがありました。これは本当にアメリカでこの替え歌があって、それを日本語に訳したのか、全くの創作なのか、どうなんだろうか?と思いました。
・「給養」(336ページ)
という言葉も気になった。「広辞苑・第七版」を引くと、
★「給養」=(1)物を与えて養うこと(2)軍隊で人馬に必要な物資を供給すること。
と載っていました。
・「糧食」という言葉も聞き慣れない、軍隊用語。英語で「レーション(ration)」。これも「広辞苑・第七版」では「(1)口糧(2)行動食」とありました。
・著者の「戦術観」(290ページ)は、
「戦略的敗退は悪いことではない。生きながらえて態勢を整え、再び反撃に出た方がいいこともある。敗退するくらいなら死ねと強要するのは、貴重な戦力の無駄遣いになり、結局採算が合わない。」
「特攻」の否定ですね。
・そして「エピローグ」の最後の文章が、著者の思いが込められていて、本当に「締めくくり」として重い。以下、引用。
「人間は忘れる生き物だ。やがては明らかな過ちさえ正当化する。誰かが勝てば誰かが負け、自由のために戦う者を、別の自由のために戦う者が潰し、そうして憎しみは連鎖していく。この世は白でも黒でもない。灰色の世界だ。この曇天のように、気まぐれに濃淡を変えてしまう、陰惨で美しく、郷愁めいた灰色が、どこまでもどこまでも覆っている。しかし、それでもなお。私は祈らずにいられない」
勉強になりました!


