『民王~シベリアの陰謀』(池井戸潤、KADOKAWA:2021、9、28)

2021 . 11 . 4

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1年ぶりかな、池井戸潤の新作!「民王」の新作です!

「コロナ下」の現状を取り入れた物語。

謎のウイルスが、古代のマンモスの地層から現代によみがえるという設定で、それによるドタバタ劇は、現状の世界の様子をカリカチュアライズしたもので、笑えるようで笑えない。つまり、批判精神の毒針を含んだコメディー。

主人公は、父親が総理大臣の若者。「名探偵コナン」の周りでいつも殺人事件が起きるように、彼の周りで次々と事件が起きる。

首相官邸に暴徒がなだれ込んで来たのは、トランプが国会議事堂に彼の信者を突っ込ませたのをパロってるな。

時々、彼や周りの人々がしゃべるセリフには、作者・池井戸潤の「本音」が隠されているような、代弁させているような感じがする。総理大臣秘書の貝原が、

「日本がダメになる前に、すでに日本人がダメになっているような気がします」(224ページ)

というのは、まさしく池井戸潤の本音であろうし、主人公の父(彼も主人公ではあるが)を総理大臣にした「元老院」とでもいうお歴々・長老たちは、

「味方にしておくには便利だが、実態は旧態依然たる昭和的価値観に生きる化石のような者たちで、パワハラ、セクハラの意味すら理解していない厄介な相手である」(277ページ)

などは、

「ああ、あの人たちのことね」

と、誰もがすぐに、具体的な顔が思い浮かぶのではあるまいか。

ニンマリできること、請け合いです。

 

 

(2021、11、1読了)