「航続(距離)」
と言えば「舟へん」ですから、
「船舶・航空機」
が1回の給油で航行可能な距離を指す語ですね。ところが、最近はどうも、
「電気自動車」
にも使われているようなのです。
2021年4月の関西地区用語懇談会(オンライン開催)で
「『広辞苑』などにも、船や飛行機の例しか挙げられていないが、すでに市民権を得ているとして車に適用しても差し支えないか?『走行可能距離』などと言い換えるべきか?これについて、どう対応されていますか?」
という質問が、中国新聞の委員から出ました。
実は私は、それまで全く気にしたことがなく、目に留まりませんでした。
「電気自動車(EV)出現で自動車にも多く使われるようになった」
というのは、実際にどのくらい使われているのでしょう?
「航続距離」の「航」は「船」あるいは「飛行機」にしか使わないと思うので、「車」に使うのは私はおかしいと思います。
「船・飛行機」は「運航」で、「自動車・電車」は「運行」と使い分けていますし。
ただ、手元の国語辞典「10種類」で「航続」あるいは「航続距離」を引いたところ、
<航続>
(精選版日本国語大辞典【2006】)船舶や航空機が
(新選国語辞典・第9版【2011】)船や航空機が
(現代国語例解辞典・第5版【2016】)船舶や航空機が
(岩波国語辞典・第8版【2019】)船舶・航空機が
(明鏡国語辞典・第3版【2021】)船舶・航空機が
(新明解国語辞典・第7版【2020】)艦船・航空機が
<航続距離>
(広辞苑・第7版【2018】)「航続距離」船舶または航空機が(「航続」は立項なし)
の「7種類」は「船と航空機」にしか「航続」を使わないが、以下の「3種類」の辞書は「(電気)自動車」にも使うと書いてあった。
<航続>
(三省堂国語辞典・第7版【2014】)船や飛行機が (例)航続距離(自動車にも言う)
(三省堂現代新国語・第6版【2019】)船や航空機が (例)航続(可能)距離(自動車【とくに電気自動車】にも言う)
<航続距離>
(大辞林・第3版【2019】)「航続距離」船舶・航空機・電気自動車などが、一度蓄えた燃料や電力だけで、航行や運転を継続できる距離。
となっていました。
各社の意見は、
(毎日新聞)一度「1回の充電で走行できる距離」のような表現に直した覚えがあるが、過去記事を見たら「航続距離」の使用例多数。既に許容されているようだ。
(産経新聞)電気自動車などの記事では頻繁に使っています。自動車に「航続距離」が使われ始めた当初は違和感が大きかったものの、現在では特に引っかかることもなくなりました。ただ、「走行可能距離」の方が意味的にも字面的にもしっくりきます。
(MBS)自動車に「航」の字をあてるのはおかしい。飛行機や船が「運航」を使うのに対し、鉄道やバス(車)など陸上を走るものは「運行」であるのが根拠。「走行可能距離」とすべきだろう。
(愛媛新聞)EV(電気自動車)に「航続距離」を使う原稿が出てきたことがあり、確かに違和感があるので辞書に当たったところ、大辞林に「船舶・航空機・電気自動車などが、一度蓄えた燃料や電力だけで、航行や運転を継続できる距離」とあり、電気自動車にも使うことを確認し、朱を入れず通しました。
(日刊スポーツ)紙面で出て来る「航続距離」という言葉の「3分の2」は、実は「競輪」の記事。「航続距離が長い」と使っている。使い勝手が良い言葉で、選手のコメントにも出て来る。2010年ごろから出て来て、すっかり定着した。
(TVO)自動車のパンフレットにも「航続距離」と出て来る。私の記憶では「カーグラフィックTV」という番組で松任谷正隆さんがよく使っていたように思う。しかし、報道のニュース番組では、ほとんど出て来ない。
(産経新聞)EV(電気自動車)では頻繁に使っている。ここ10年、使われ始めた。当初は「自動車に航続距離はおかしい!」と異議を申し立てていたが、経済部に押し戻された。今では市民権を得た感がある。
(読売新聞)校閲部内で聞いたら「違和感がある」という部員もいた。
というような意見が出ました。
その後、JALカードの雑誌『AGОRA』の2021年9月号に載っていたタイのバンコクからのコラム、
「トゥクトゥクのEV化」
という中に、
「電気自動車の航続距離、公共充電スタンドの増設など課題はさまざまある。」
というように、
「航続距離」
が出てきました。あの「トゥクトゥク」が「EV(電気自動車)化」しているのかあ。


