ジェーン・スーというと、酒井順子とナンシー関を足して2で割ったようなイメージがある。このエッセイ、「週刊文春」で連載が始まった1、2回目は読んだ気がするが、その後は読まなくなった。なんか、暗いのである。純文学みたいだった。いつもの軽快な口調のジェーン・スーじゃない、と思った。しかし「ドラマ化」されたと聞いて(ドラマは見ていないが)「読んでみようかな」という気になった。
読んでみての感想は、
「私は、この『ジェーン・スーの父親』のような男が、大嫌いである」
ということが、改めてわかった、ということ。「ちびまる子ちゃんの父・ヒロシ」を、もっと嫌な感じにしたような雰囲気か。
同時に読んでいた田辺聖子の描く世界(ジョゼと虎と魚たち)との共通点は、
「家族」の「濃さ」「煩わしいさ」
そして「絆」か。「血」と「血でないもの」。
以下、メモ。
*「お教室をやめても、慕ってくれる生徒さんがいる。」(50ページ)~活け花教室の先生だった“おば”。「生け花」ではなく「活け花」。
*「ふーん。配給ってなにがもらえるの?」
「もらうんじゃないよ、買うんだよ」
「買うの!!!」
「そう。ラジオでね、今日はどこどこ地区からどこどこ地区までにスケソウダラですって言われる。スケソウダラばっかりだったなぁ」(72ページ)~「スケソウダラ」。「スケトウダラ」ではなく。
*「東京に焼夷弾が落ちるのは疎開前に見たよ。風切り音がすごいんだ。シャーーーって大きな音がするだろう?空を見上げる。焼夷弾が降ってくる。」(74ページ)~宗左近『炎える母』に出て来る焼夷弾の音は「シャラー、シャラシャラシャラ」。
*「お父さんは爆弾見たことあるのね」
「焼夷弾」
「違うもの?」
「爆弾は破壊するため。焼夷弾はね、焼き尽くすためにあるの」
(中略)焼夷弾の風切り音だけは想像ができない。父が喉から絞り出す、シャーという不気味な音が耳に残った。(75ページ)
*「『贅沢は敵だ!』って本当にみんな言ってた?」
「そうだよ。そうやって言葉で人を統制するんだね。(中略)いまでいう格差はそのころからあったね。戦争は嫌なもんだよ。悲惨」(78~79ページ)
*「家が焼かれてなくなった。それは悲惨以外のなにものでもない。しかい、今日も明日も生きていかねばならない。だから焼夷弾に焼かれた茄子を家族で食べる。私なら二度と茄子を見たくなくなるが、なんなら焼茄子は父の好物だ。私たちは親子だが、生きる強さがまるで違う。」(83ページ)~「なんなら」の使い方。
*「『おかしいなぁ、絶対ここなのに……』父がひとりごちる。」(89ページ)~「ひとりごちる」は現在形。「ひとりごちた」という過去形ではなく。
*こと寛容性に関わる本音など、自分が満ち足りているか否かでコロコロ変わるものだ。(中略)誰も偏見を持つ可能性がある。(99ページ)
*「私が男だったら立ち振る舞いに細心の注意を払わずとも済んだ場面もあったろう。」(100ページ)~「立ち振る舞い」。「立ち居振る舞い」ではなく。
*「私の知る限り、若い女の生意気はときに歓迎されるが、自己主張の仕方には工夫がいる。いや、彼らには男たち特有の社会圧がある。そこはお互い様だ。不当に得をしているのは一部。わかっているけれど……。」(100ページ)~「社会圧」という言葉。
*「母は昔、寝るにも体力がいると言っていた。私もそういう年になったのだ。」(101ページ)
*「四角いテーブルを丸く拭くようなことは絶対にしない。」(101ぺージ)
*「俺は最初からトランプだと言ってたよ。俺だったらトランプに入れる。まさかおまえ、ヒラリーなのか?」
「ヒラリーが男でも負けた?トランプが女だったら?」
「当然トランプ!女だったらもっと人気が出たろうよ。女なら当たりがもっと柔らかくなってただろうし…」
「なんで女は当たりが弱くならなきゃ人気が出ないのよ!」
「ヒラリーも最後は泣かずに頑張って偉かったたけどね」
「偉いってそれ、女はそもそも泣くもんだとでも?」
こういう口の利き方をすると、父はガラガラとシャッターを下ろす。男だ女だという話が大嫌いなのだ。イデオロジストはもっと嫌いだ。(104~106ページ)
*ほんの十年前まで、父は全盛期の石原慎太郎とナベツネを足して二で割らないような男だった。(105ページ)
*「グロッキー気味の父」(110ページ)~「グロッギー」ではなく「グロッキー」。
*「男はさ、弱みを見せたくないから、年を取ると友達が減るんだよな」
H夫妻に銀座ですきやきを御馳走になりながら、父が独り言のようにつぶやいた。めずらしい。普段は「男たるもの」とか「女ならば」とか、そういう物言いをしない父なのだ。男のあるべき姿(とされてきたもの)に囚われていない、なんて高尚な話ではない。ただ、生きる上での美学をそこに見出していないだけだ。」(118ページ)
*「ひと段落したところで」~「いち段落」「一段落」ではなく。(121ページ)
「二人とも美形でスタイリッシュ。全体的にシュッとしていて」~「シュッとしていて」(121ページ)
*「歩いている人もみんなシュッとしていて気が引ける」(144ページ)
*「海老を熱い鉄板の上に置く。海老がジッと音を立てる。側面はみるみるうちに澄んだ紅緋色(べにひいろ)を帯び、全身に広がっていった。海老の赤は本当にめでたい色だ。」
(150ページ)~「紅緋色」。
*「怪文書の主目的は、秘密の暴露ではない。誰かの恨みをどこかで買っていると示唆し、書かれた側の信用を貶めることにある。(159ページ)
*「お金ってねぇ、目に見えてなくなっていくわけじゃないのよ。少しずつ減っていって、気付いたら手が打てないところまで行ってるの」(162ページ)
*「老い先短いいまになったから思うけど、パン・アメリカンのスチュワーデスだった彼女と、『ミス住友』って言われてた年上の彼女はどうしてるかなぁ。死ぬまでにもう一度会いたいんだよねぇ。探してくれない?」(164ページ)
~ほら、こういうことを言う男は、一番嫌いだ!!
*母が全力で死から遠ざかろうとしている最中、父は自ら死への歩みを進めていくのか。(198ページ)
*私は肩を落とした。脱臼するかと思うほどに。(211ページ)
*ある日のこと。銀行へ振込に行った帰り道、悲しくもないのに右目からだけ涙があふれて止まらないのに気が付いた。私は至極冷静に、これはまずいと思った。(212ページ)
*「修学旅行や友達との夏の旅行、果ては出張まで、『まず非常口と避難経路を確認しろ』と父は口を酸っぱくして私に言った。なんなら、まだ言っている。火事が心配なのだそうだ。(228ページ)~「なんなら」の使い方。これ、どう説明したらいいのかな?
*「目の前にディスプレイされた水菓子用の楊枝を手にとる。(236ページ)~「果物」ではなく「和菓子」の「水菓子」。
*「ここで生まれ、ここで死んでいくひとびとのために綿々と続く商店がある。(237ページ)~「綿々と」。「連綿と」ではないか?


