<2013年5月9日に、9~10行目の「それによると」まで書きかけたまま、止まっていました続きを書きました。。>
以前から気になっていた「安息日」の読み方、「日」は、
「ビ、ジツ、ニチ」
のどの読み方が正しいのでしょうか?
新聞用語懇談会の放送分科会で話し合われた『新聞用語集2007年版』の「放送で標準とする読み方例」には、
「○ アンソクビ」
と「ビ」だけを載せています。
という本を読んでいたら、その読み方の変遷について書かれていました。
それによると、まず「聖書」の中での記述は、
ヘボン訳『新訳聖書馬太(マタイ)伝』(1873年)では、
「sabbath」
の訳語として、
「安息日(あんそくにち)」
また「委員会訳による分冊本」では「平仮名」ですが、
「あんそくにち」
と共に読み方は「にち」です。この「委員会訳による分冊本」のことを、
『明治元訳 旧新約聖書』(1887年)
と言うようです。
そして、
『改訳 新約聖書』(1917年:大正改訳)でも、
「安息日(あんそくにち)」
と「にち」になっていて、その後、第二次大戦後の「1954年」に出た、
『口語 新約聖書』でも、
「あんそくにち」
と、やはり、
「にち」
なのです。
ところが「1978年」に出た『新約聖書 共同訳』では、
「あんそくび」
とルビ(読み方)が変わります。著者(鈴木範久氏)も、
「その理由はわからない」
と書いています。この時には、その他に、
「メシヤ」→「メシア」
「悔改め」→「悔い改め」
「クリスチャン」→「キリスト者」
「聖徒」→「聖なる人たち」
「選民」→「選ばれた人たち」
「バプテスマ」→「洗礼(せんれい)」
「創造者」→「造り主」
「天国」→「天の国」
「御使」→「天使」
「伝道者」→「宣教者」
「パラダイス」→「楽園」
「隣り人」→「隣人(りんじん)」
というような「用語変更」も行われています。
そのわずか9年後の「1987年」、『聖書 新共同訳』で訳が変更になったのは、たったの「2か所」。
「聖なる人たち」→○「聖なる者たち」
「洗礼(せんれい)」→○「洗礼(バプテスマ)」
だけとのことです。
一方「国語辞書」での変遷は、
『言海』(1889~91年:大槻文彦)で「安息日」は、
「あんそくじつ」
と初めて「じつ」が登場します。この頃はまだ「日曜日」の休日意識が行き渡らない中で、この「安息日」という単語が辞書に採用されているのは意外だと、著者は記しています。
同じ時期、「五十音順」ではなく「いろは順」の辞書でよく使われた、
『漢英対照 いろは辞典』(1888年:高橋五郎)で「安息日」は、
「あんそくにち」
と、それまでの「聖書」と同じく「にち」になっていました。
そして『大日本国語辞典』(1915~19年:上田万年・松井簡治)で「安息日」は、
「あんそくじつ(び)」
と今度は「じつ」に加えて『新約聖書 共同訳』(1978年)と同じ「び」が登場します。
さらに『言海』の改訂増補と言える『大言海』(1932年:大槻文彦)で「安息日」は、『言海』と同じ、
「あんそくじつ」
です。
一方、戦後に出た国語辞典『広辞苑』(1955年:新村出)の初版で、「安息日」は、
「あんそくび」
と単独で「び」を採用しました。
そして、日本最大の国語辞典として登場した『日本国語大辞典』(1972~76年)で「安息日」は、
「あんそくじつ、あんそくにち、あんそくび」
と、なんと「3通りの読み方」を載せていました。
うーむ、この本によると、「安息日」の日本語訳の150年ほどの歴史の中で、古いものから順に言うと、
「にち」→「じつ」→「び」
ということになるのですね。
そして現在「放送」では、一番新しい形の、
「び」
を採用しているということなのですな。
「日」の読み方一つをとっても歴史があり、解釈は難しいものですね。
大変、勉強になりました。


