8008「安息日の読み方」

2021 . 4 . 7

8008

 

 

<2013年5月9日に、9~10行目の「それによると」まで書きかけたまま、止まっていました続きを書きました。。>

以前から気になっていた「安息日」の読み方、「日」は、

「ビ、ジツ、ニチ」

のどの読み方が正しいのでしょうか?

新聞用語懇談会の放送分科会で話し合われた『新聞用語集2007年版』の「放送で標準とする読み方例」には、

「○ アンソクビ」

「ビ」だけを載せています。

 

『聖書の日本語~翻訳の歴史鈴木範久、岩波書店)

という本を読んでいたら、その読み方の変遷について書かれていました。

それによると、まず「聖書」の中での記述は、

ヘボン訳『新訳聖書馬太(マタイ)伝』(1873年)では、

「sabbath」

の訳語として、

「安息日(あんそくにち)」

また「委員会訳による分冊本」では「平仮名」ですが、

「あんそくにち」

と共に読み方は「にち」です。この「委員会訳による分冊本」のことを、

『明治元訳 旧新約聖書』(1887年)

と言うようです。

そして、

『改訳 新約聖書』(1917年:大正改訳)でも、

「安息日(あんそくにち)」

「にち」になっていて、その後、第二次大戦後の「1954年」に出た、

『口語 新約聖書』でも、

「あんそくにち」

と、やはり、

「にち」

なのです。

ところが「1978年」に出た『新約聖書 共同訳』では、

「あんそくび」

ルビ(読み方)が変わります。著者(鈴木範久氏)も、

「その理由はわからない」

と書いています。この時には、その他に、

「メシヤ」→「メシア」

「悔改め」→「悔い改め」

「クリスチャン」→「キリスト者」

「聖徒」→「聖なる人たち」

「選民」→「選ばれた人たち」

「バプテスマ」→「洗礼(せんれい)」

「創造者」→「造り主」

「天国」→「天の国」

「御使」→「天使」

「伝道者」→「宣教者」

「パラダイス」→「楽園」

「隣り人」→「隣人(りんじん)」

というような「用語変更」も行われています。

そのわずか9年後の「1987年」『聖書 新共同訳』で訳が変更になったのは、たったの「2か所」。

「聖なる人たち」→○「聖なる者たち」

「洗礼(せんれい)」→○「洗礼(バプテスマ)」

だけとのことです。

一方「国語辞書」での変遷は、

『言海』(1889~91年:大槻文彦)で「安息日」は、

「あんそくじつ」

と初めて「じつ」が登場します。この頃はまだ「日曜日」の休日意識が行き渡らない中で、この「安息日」という単語が辞書に採用されているのは意外だと、著者は記しています。

同じ時期、「五十音順」ではなく「いろは順」の辞書でよく使われた、

『漢英対照 いろは辞典』(1888年:高橋五郎)で「安息日」は、

「あんそくにち」

と、それまでの「聖書」と同じく「にち」になっていました。

そして『大日本国語辞典』(1915~19年:上田万年・松井簡治)で「安息日」は、

「あんそくじつ(び)」

と今度は「じつ」に加えて『新約聖書 共同訳』(1978年)と同じ「び」が登場します。

さらに『言海』の改訂増補と言える『大言海』(1932年:大槻文彦)で「安息日」は、『言海』と同じ、

「あんそくじつ」

です。

一方、戦後に出た国語辞典『広辞苑』(1955年:新村出)の初版で、「安息日」は、

「あんそくび」

と単独で「び」を採用しました。

そして、日本最大の国語辞典として登場した『日本国語大辞典』(1972~76年)で「安息日」は、

「あんそくじつ、あんそくにち、あんそくび」

と、なんと「3通りの読み方」を載せていました。

うーむ、この本によると、「安息日」の日本語訳の150年ほどの歴史の中で、古いものから順に言うと、

「にち」→「じつ」→「び」

ということになるのですね。

そして現在「放送」では、一番新しい形の、

「び」

を採用しているということなのですな。

「日」の読み方一つをとっても歴史があり、解釈は難しいものですね。

大変、勉強になりました。

 

(2021、4、7)