2020年10月にオンライン会議で行われた関西地区新聞用語懇談会で、京都新聞の委員から、
「『ぶり』の使い方」
について、こんな質問が出されました。
『コロナの新規感染者などの記事で「〇日ぶり」を使えるかで議論になった。「ぶり」は、一般に望ましい状態の再現に使うとされている。本来は避けるべきだが「〇日以来」とすると期間が分かりにくく、見出しも取りにくいため「ぶり」を使いたいという声が多く寄せられ、他に方法がない場合は認めたが、各社はどうされているか?また「ぶり」以外に、期間がすぐ分かるような言い換えの表記があれば教えてほしい』
これに対する各社の意見は、以下の通りです。
(朝日新聞)2018年の取り決め改訂で「ぶり」については「一般に、望ましい状態に戻るときに多く使われるので、死亡事故や災害の場合に使うのはできるだけ避ける」としている。7月に東京校閲の引き継ぎ帳で問題提起もあったが大きな議論にはならず、「新規感染者数が〇日ぶりに200人を超え」といった表現は、度々出ている。感染しただけだと、災害に遭うほどひどくはないと感じる人が多いので、そこまで抵抗感がない気がする。また、株式相場が下落した場合でも「○カ月ぶりの△△円割れ」などと使われるように(相場が下がると利益を得る取引もあるが)、発表された感染者数を伝えるだけの記事では「望ましい」かどうかは問題にならないという意見もある。「2015年の改定」で「望ましいことに使う」と入れたがその後「2018年の改訂」で“注記”を追加して「ゆるやかに適用する」と書いた。
(毎日新聞)ほとんど議論になっていない。確かに「〇年ぶりの大病」など「ネガティブな話題にはそぐわない」という指摘もあるが、多くの辞書はポジティブ・ネガティブに言及しておらず、幅広く使用できる言葉ではないか。そもそも、新型コロナの新規感染者に関する記事はポジティブ・ネガティブが前面に出るものではなく、数字を伝えるニュートラルな内容と言える。感染者数が一定の水準を上回った場合は使用不可で、下回った場合は可というのもおかしい。「〇年ぶりの最下位」「景気の基調判断を〇カ月ぶりに下方修正」などと書けるのと同じで、データの記述として「ぶり」が使用できないとまでは言えないだろう。
(読売新聞)「統計」では「望ましくないこと」にも「ぶり」を使うのはOK。しかし「病気」に使うのは、ちょっと違和感がある。
(産経新聞)意識していない。制約もない。言い換えもしない。「ぶり」に関しては特に規制はない。
(中国新聞)全く同じように悩んでいる。「ぶり」の言い換えがあれば、ぜひ教えてほしい。
(愛媛新聞)好ましいときに使うのが原則だが、「ぶり」は便利な言葉なので、好ましくなくても使うことがある。コロナの場合、「県内での感染者確認は〇日ぶり」「県内での死者は〇日ぶり」などの使い方が考えられるが、病気だけに使いにくい。読者に計算してもらわないといけないが「〇日以来」にすべきだと思う。
(ABC)「ぶり」は使用可。
(MBS)先日(2020年9月)開催の放送分科会(オンライン会議)では、統計の数字を言う場合は、「下がったのは5年ぶり」のように良くない状況のときにも使う、という意見が出た。MBSでは「8月3日以来」という意味で「8月3日ぶりに100人を下回りました」と放送してしまったことがある。再発防止の意味でも「日付+以来」を使うように勧めている。
(ytv)「ぶり」は「望ましいことに使う」とういうのは、初めて聞いた。私が調べた11種類の国語辞典で「ぶり」が「望ましいものに使う」と書かれていたのは『新明解国語辞典』(期待される)のみ。「明鏡国語辞典」は「好ましくないことにも使う」として「九年ぶりの大地震」「三年ぶりの低成長」という作例があった。
放送でも古い例だが、2004年8月13日のNHK正午のニュースでも、「物価の変動を含めた名目のGDPは0.3%のマイナスとなり、5期ぶりにマイナスとなりました。」と「マイナス成長」に「ぶり」が使われている。
また、ここでの提案を受け、9月18日にオンライン開催だった「放送分科会」でも話し合われた。『放送で気になる言葉2011』の改訂作業の中で、「いつぶり」「卒業式ぶり」といった使い方はダメという内容を載せる予定だが、「『ぶり』は、好ましくないものには使わない」という記述は、当初なかった。以下、討議内容など。
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(KTV)「今回の新潟の地震はおよそ3年ぶりでした」などという表現を聞いた。「~ぶり」は、ポジティブな文脈にはふさわしいが、地震のような好ましくない。状況についても使うか?使わないなら、そのことも加筆したらどうか。
(テレビ朝日)報道局内で「望ましい状況について使うのが原則」と決めている。
(NHK)「景気動向が下降に転じたのは3年ぶり」など、統計としての使う場合はネガティブな内容でも使用する。
(日本テレビ)「日テレeye」に「良い内容には使うが、ネガティブな内容には使わない。」と記載している。
(新聞協会・関根委員)悪い内容に使うことが誤用とまでは言えない、ということなら「配慮すべき言葉」の項に入れてはどうか。⇒内容を含めて今後検討へ。
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というような内容でした。


