7765「疑陽性と偽陰性」

2020 . 10 . 30

7765

 

 

「新型コロナウイルス」の「PCR検査」に関して「陽性」「陰性」の他に、

「疑陽性」「偽陰性」

があります。共に、

「ぎ」

という読みの漢字が頭に付きますが「表記」が、

「疑」と「偽」

で違います。さらに『広辞苑』では、

「擬陽性」

と、

「手へん」の「擬」

が出て来ました!これは、なぜでしょうか?

他の国語辞典は、

<明鏡国語辞典>「擬陽性(疑陽性)」

<新明解国語辞典>「擬陽性・疑陽性」

<デジタル大辞泉>「疑陽性・擬陽性」

<三省堂国語辞典>「疑陽性・擬陽性」

<三省堂現代新国語辞典>「疑陽性・擬陽性」

<精選版日本国語大辞典>「擬陽性」

この『精選版日本国語大辞典』はちょっとおかしくて、見出しは「擬陽性」なのですが、用例の松田道雄「赤ん坊の科学七」(1949)は、

「それが陰性か疑陽性(直径が九ミリより下)だったら」

というように、

「疑陽性」

になっているのです。また、多くの辞書では、

「元ツベルクリン反応で」「今は、『陰性』になっている」

と書かれていますが、これだけ、

「新型コロナウイルスのPCR検査」

で出て来たら、「ツベルクリン」だけの話にはなりませんよね、これからは、というかすでに。

そして国語辞典には、「陰性」に「ぎ」が付く、

「偽陰性」「疑陰性」「擬陰性」

は載っていません。ところが、東京大学保健・健康推進本部保健センターのサイトでは、

☆「疑陽性」=本当は新型コロナウイルス感染症でないのに陽性と出てしまう。

☆「疑陰性」=本当は新型コロナウイルス感染症であるのに、陰性と出てしまう。

と載っていて「陽性」「陰性」共に、

「疑」

で書かれていました。「偽」ではないのでしょうか?

新聞や放送の表記の基準となる日本新聞協会・新聞用語懇談会編『新聞用語集2007年版』に「ぎようせい」は、

「(擬陽性)→〇【学】疑陽性」

となっていました。【学】というのは、

「文部科学省が制定した学術用語」

ということです。

つまり「陽性」に「ぎ」が付く場合の表記は「疑」を使って、

「疑陽性」

のようです。「偽」とまでは断定できないのでしょう。そしてそれは「ツベルクリン反応」では「陰性」と判断される。しかし

「疑陰性」

は、

「検査結果は陰性なのに、陽性かもしれない」

という“ややこしい存在”なのですね・・・よくわかりません!

 

そこで、いつもの中学からの友人で内科医のO君に聞いてみました。

その結果は、

「PCR検査では、昔から『偽陽性』『偽陰性』」

だと。そしてそれぞれ、

☆「偽陰性」=本当は陽性なのに、検査結果は陰性と出た人

☆「偽陽性」=本当は陰性なのに、検査結果で間違って陽性と出た人

だそうです。

そうすると、辞書などに載っている「疑陽性・擬陽性」は、

「ツベルクリン反応」

に対するもので、

「PCR検査」

に対するものとは「意味」が違うのではないか。

この辺りの対応を、11月に開かれる「新聞用語懇談会」で各社に聞こうと思っています。

 

(2020、10、29)