7761「もちもち」

2020 . 10 . 27

7761

令和ことば事情7761「もちもち」

<2014年6月12日に書きかけ、そのままほったらかしになっていました。>

 

「もっちもち蒸しパン」

という場合の擬態語である、

「もっちもち」

というのは、やはり、

「餅」

からきているのだろうか?という疑問が浮かびました。というのは、

「もし『餅』からきているのでえあれば、『餅』なのに『パン』なのだなあ。」

と思ったからです

 

それから、早6年・・・。

きょう、日本語学会の金水敏先生のフェイスブックに、お昼ご飯の冷麺(冷やし中華)が、

「もちもち しこしこの麺でした」

とあるのを見かけました。それをきっかけに、改めて「もちもち」(もっちもち)について調べようと思ったのです。その時にすぐに関連で思い浮かんだのは、

「むちむち」「むっちり」

です。これは、

「もちもち」「もっちり」

「意味も形もほぼ同じ」ではないでしょうか。同じ「ま行」だし。違うのは、

「もちもち」=食べ物。弾力ある食感。

「むちむち」=食べ物ではない、主に人間の体が太っていること。張りのある肌。

という点ですかね?

他の「ま行」はどうだろうか?

×「まちまち」×「まっちり」

×「みちみち」〇「みっちり」

×「めちめち」×「めっちり」

他で、同じような意味で使われるのは、

「みっちり」

ぐらいですね。

『精選版日本国語大辞典』で、まず「もちもち」を引いてみました。

 

「もちもち」

【1】粘っこく歯切れの悪いさまを表わす語。食物にいう。(例)生々流転(1939

<岡本かの子>「ボイルドした秋田産のシギ鱈は季末になって、かなり脂づき、<略>何だかもちもちした粘りが出来てゐます」

【2】肉づきの豊かなさま、むっちりと肥えたさまを表す語。むちむち。

(例)「黴」(1911)<徳田秋声>三三「お銀は餅々とした其腿のあたりを撫でながら」

 

とありました。

ありゃ。

「もちもち」が「食べ物」だけではなくて、(2)では、

「『むちむち』の意味でも使われている」

ではありませんか!そして、

「餅々」

という漢字が当てられているということは、やはり連想としては「餅」と関係あるか。

「餅肌」

なんて比喩的な言葉もありますしね。「餅のような」が「もちもち」なのか?

では「むちむち」はどうか?引いてみました。

 

「むちむち」

【1】家などのきしむ高い音を表す語。(例)「浄瑠璃・八百屋お七」(1731頃か)上

「其執心で夜々は屋鳴り震動雷電し、天井板がむちむちむち、梯子がぐ(は)たぐ(は)たぐ(は)た」

 

ありゃ?

家が軋む音?それは今だと、

「ミシミシミシ」

ですよね。昔は、290年前の江戸時代中期には、

「むちむちむち」「ムチムチムチ」

と言ったの?近いけれど、今と違うな。母音も子音も違う。

そして「むちむち」の2番目の意味には、

 

【2】無為に過ごすさまを表わす語。(例)「俳諧・夜半亭発句帖」(1755)「異郷の客と

なりて難波に遊び洛に停(とどま)りて、むちむちと京に十歳くらしたる独吟あり」

 

うーむ、この「むちむち」も、今では使わないな。言い換えると、

「うだうだ」

かなあ。

そしてようやく3番目の意味に「例のもの」が出て来ます。

 

【3】肌に張りがあって肉付きのよいさまを表す語。むっちり。(例)「うたよみ」(1947)「なるたけ肉のむちむち付いた殿様蛙を捉へようと」

 

おーい、「殿様蛙(トノサマガエル)」かーい!

「食べ物」やんか、これ。「食用ガエル」(牛蛙)ではないのか!戦後すぐの食料難の時期だなあ。

しかし、この「むちむち」の用例の、

「1947年」

というのは、同じような意味の「もちもち」の、

「1911年」

よりも「30年以上、新しい」ぞ。

ということは、この意味での言葉は、最初「もちもち」の意味として派生して、その後に「別の意味の言葉であった「『むちむち』」の「新しい意味」として加わったのかな。

そうすると、やはり「語源」「派生の順番」としては、

「餅」→「もちもち」→「むちむち」

という流れが感じられますね。

おや?「4番目」の意味もあるぞ。

 

【4】ある感情などが、勢いよく、力強くわき出るさまを表す語。(例)一九二八・三・

一五(1928)<小林多喜二>八「渡は自分でも分る程『新鮮な』階級的憎悪がムチムチと湧くのを意識した」

 

うーん、これも今は使わないなあ。「意識が湧いてくる」のであれば、

「ムラムラ」

だなあ。

 

「むらむら(群群・叢叢・斑斑)」

【1】あちこちにむらがっているさま、まだらなさまを表す語。

(例)「古今和歌集」(905914)雑体。一00五「にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさのうへにふりしく しらゆきの<凡河内躬恒>」

 

なるほど。そして「意識が湧いてくるムラムラ」は、4番目と5番目の意味に載っています。

【4】突如として抑え切れない感情や思いがわきあがるさまを表す語。(例)「滑稽本・七

偏人」(18571863)三「お麦めを惚れさせるのは宜が余り手強くむらむらとさせたら、直に女房に成うなんのと」

【5】急に怒りがこみあげるさまを表す語。(例)「浮雲」(18871889)<二葉亭四迷>

二「文三はムラムラとした。すこし声高に成って」

 

「もちもち」→「むちむち」→「むらむら」

 

全部、つながっているなあ。

(追記)

エースコックのインスタントカップ焼きそばに、

「モッチッチ」

というのがありますね。これも「もちもち」から来ているんでしょうね。

https://www.acecook.co.jp/brand/mocchicchi/

サイトを見たら、キティちゃんが、

「モチモチだよ」

と言っていました。

(2020、10、28)

 

(2020、10、27)