令和ことば事情7761「もちもち」
<2014年6月12日に書きかけ、そのままほったらかしになっていました。>
「もっちもち蒸しパン」
という場合の擬態語である、
「もっちもち」
というのは、やはり、
「餅」
からきているのだろうか?という疑問が浮かびました。というのは、
「もし『餅』からきているのでえあれば、『餅』なのに『パン』なのだなあ。」
と思ったからです
それから、早6年・・・。
きょう、日本語学会の金水敏先生のフェイスブックに、お昼ご飯の冷麺(冷やし中華)が、
「もちもち しこしこの麺でした」
とあるのを見かけました。それをきっかけに、改めて「もちもち」(もっちもち)について調べようと思ったのです。その時にすぐに関連で思い浮かんだのは、
「むちむち」「むっちり」
です。これは、
「もちもち」「もっちり」
と「意味も形もほぼ同じ」ではないでしょうか。同じ「ま行」だし。違うのは、
「もちもち」=食べ物。弾力ある食感。
「むちむち」=食べ物ではない、主に人間の体が太っていること。張りのある肌。
という点ですかね?
他の「ま行」はどうだろうか?
×「まちまち」×「まっちり」
×「みちみち」〇「みっちり」
×「めちめち」×「めっちり」
他で、同じような意味で使われるのは、
「みっちり」
ぐらいですね。
『精選版日本国語大辞典』で、まず「もちもち」を引いてみました。
「もちもち」
【1】粘っこく歯切れの悪いさまを表わす語。食物にいう。(例)生々流転(1939)
<岡本かの子>「ボイルドした秋田産のシギ鱈は季末になって、かなり脂づき、<略>何だかもちもちした粘りが出来てゐます」
【2】肉づきの豊かなさま、むっちりと肥えたさまを表す語。むちむち。
(例)「黴」(1911)<徳田秋声>三三「お銀は餅々とした其腿のあたりを撫でながら」
とありました。
ありゃ。
「もちもち」が「食べ物」だけではなくて、(2)では、
「『むちむち』の意味でも使われている」
ではありませんか!そして、
「餅々」
という漢字が当てられているということは、やはり連想としては「餅」と関係あるか。
「餅肌」
なんて比喩的な言葉もありますしね。「餅のような」が「もちもち」なのか?
では「むちむち」はどうか?引いてみました。
「むちむち」
【1】家などのきしむ高い音を表す語。(例)「浄瑠璃・八百屋お七」(1731頃か)上
「其執心で夜々は屋鳴り震動雷電し、天井板がむちむちむち、梯子がぐ(は)たぐ(は)たぐ(は)た」
ありゃ?
家が軋む音?それは今だと、
「ミシミシミシ」
ですよね。昔は、290年前の江戸時代中期には、
「むちむちむち」「ムチムチムチ」
と言ったの?近いけれど、今と違うな。母音も子音も違う。
そして「むちむち」の2番目の意味には、
【2】無為に過ごすさまを表わす語。(例)「俳諧・夜半亭発句帖」(1755)「異郷の客と
なりて難波に遊び洛に停(とどま)りて、むちむちと京に十歳くらしたる独吟あり」
うーむ、この「むちむち」も、今では使わないな。言い換えると、
「うだうだ」
かなあ。
そしてようやく3番目の意味に「例のもの」が出て来ます。
【3】肌に張りがあって肉付きのよいさまを表す語。むっちり。(例)「うたよみ」(1947)「なるたけ肉のむちむち付いた殿様蛙を捉へようと」
おーい、「殿様蛙(トノサマガエル)」かーい!
「食べ物」やんか、これ。「食用ガエル」(牛蛙)ではないのか!戦後すぐの食料難の時期だなあ。
しかし、この「むちむち」の用例の、
「1947年」
というのは、同じような意味の「もちもち」の、
「1911年」
よりも「30年以上、新しい」ぞ。
ということは、この意味での言葉は、最初「もちもち」の意味として派生して、その後に「別の意味の言葉であった「『むちむち』」の「新しい意味」として加わったのかな。
そうすると、やはり「語源」「派生の順番」としては、
「餅」→「もちもち」→「むちむち」
という流れが感じられますね。
おや?「4番目」の意味もあるぞ。
【4】ある感情などが、勢いよく、力強くわき出るさまを表す語。(例)一九二八・三・
一五(1928)<小林多喜二>八「渡は自分でも分る程『新鮮な』階級的憎悪がムチムチと湧くのを意識した」
うーん、これも今は使わないなあ。「意識が湧いてくる」のであれば、
「ムラムラ」
だなあ。
「むらむら(群群・叢叢・斑斑)」
【1】あちこちにむらがっているさま、まだらなさまを表す語。
(例)「古今和歌集」(905‐914)雑体。一00五「にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさのうへにふりしく しらゆきの<凡河内躬恒>」
なるほど。そして「意識が湧いてくるムラムラ」は、4番目と5番目の意味に載っています。
【4】突如として抑え切れない感情や思いがわきあがるさまを表す語。(例)「滑稽本・七
偏人」(1857-1863)三「お麦めを惚れさせるのは宜が余り手強くむらむらとさせたら、直に女房に成うなんのと」
【5】急に怒りがこみあげるさまを表す語。(例)「浮雲」(1887‐1889)<二葉亭四迷>
二「文三はムラムラとした。すこし声高に成って」
「もちもち」→「むちむち」→「むらむら」
全部、つながっているなあ。
(追記)
エースコックのインスタントカップ焼きそばに、
「モッチッチ」
というのがありますね。これも「もちもち」から来ているんでしょうね。
https://www.acecook.co.jp/brand/mocchicchi/
サイトを見たら、キティちゃんが、
「モチモチだよ」
と言っていました。
(2020、10、28)


