7752「パティシエ?パティシエール?」

2020 . 10 . 20

7752

 

2020年10月にオンラインで開かれた関西地区用語懇談会で、私が質問した議題です。

『東京・中野区で「38歳の女性パティシエ」が亡くなっているのが見つかった事件で、この女性の職業を、読売新聞や日本テレビ、フジテレビは、「女性パティシエ」「パティシエの女性」などと報じました。「パティシエ」は「男性の菓子職人」で、「女性の菓子職人」は「パティシエール」では、という問題です。日経新聞は「洋菓子店店員」、テレビ朝日は「洋菓子店に勤める女性」という表現にしていました。

(※なお10月15日の日本テレビの昼ニュースでは「洋菓子店従業員」「洋菓子店勤務の女性」となっていて「パティシエ」は使っていませんでした。「読売新聞」10月15日夕刊も「洋菓子店員」になっていました。)

また、男性の「ソムリエ」に対し、女性は「ソムリエール」です。日本では「資格」としては「ソムリエ(資格)」しかないので、

「『ソムリエ』の資格を持つ『ソムリエール』」

となってしまうのは仕方がないでしょうか。

主に外国由来の職業の「男女別の呼称」に関して、各社どのように扱っていますか。

ベルリン国際映画祭では「男優賞」「女優賞」の区別をなくすと発表しました。NHKのように、「女優」は使わず「俳優」とされていますか。ご意見をうかがいたいと思います。

また、オーケストラの首席バイオリン奏者は、男性なら「コンサートマスター(コンマス)」、女性ならば「コンサートミストレル(コンミス)」と言うが、区別するか?「ヒーロー」「ヒロイン」は、どうすればよいでしょうか?

 

これに対する各社の用語委員からのご意見は、

 

(朝日新聞)「ウェーター、ウェートレス」「ホスト、ホステス」など使い分けが一般的になっていると認められる場合は使い分けていますが、「パティシエ、パティシエール」は使い分けが広くは知られていないため、あまり区別していません。記事使用例は前者が後者の30倍近くになっていて、中野区の事件を含め、女性を「パティシエ」としている例もかなりあります。「ソムリエ、ソムリエール」は前者が後者の60倍以上(「野菜ソムリエ」を除く)で女性をソムリエとしている例はパティシエの場合と同様、かなりあります。日本ソムリエ協会の資格呼称が「ソムリエ」なので、それも影響しているだろうと思います。

「女優、俳優」については、できるだけ「俳優」にしてもらうようにアピールしています。特に、男性を俳優としている記事では女性も俳優とするのが基本です。ただ、取材相手から肩書に「女優」を要望されたりして女優を使う場合もあります。

(読売新聞)基本的に「女優・男優」のように「女性の職業名」に「男性の対語」があれば使っても良いことにしている。「対語」がない「女医」などはダメ。本人の希望があれば「女優」を使っても良い。

(毎日新聞)この事件については地方版で記事になり「パティシエ」としていた。

外国由来の職業の「男女別の呼称」について、社内で特に取り決めはない。女性について「パティシエール」「ソムリエール」を使用した例がある一方、女性でも「パティシエ」「ソムリエ」としている例も多くある。「パティシエ」「ソムリエ」が職業名として定着していると考えられるため、女性についていちいち「パティシエール」「ソムリエール」と直すことはない。

セクシュアリティーの多様性が広く認知されつつある現在、職業の呼称を「男」「女」の2種類で使い分けることには違和感もある。原語がどうであるかは別問題として、日本語では職業の呼称として定着していると思われる「パティシエ」「ソムリエ」を性別にかかわらず使用してよいのではないか。本人が「パティシエール」「ソムリエール」を名乗る場合はその意向に合わせればよい。

「女優」「俳優」の使い分けについては、読者から質問を受けて答えたことがある。今のところ使い分けの決まりは設けていない。学芸部の担当者によると、一般的には「俳優」とするよう心がけているが、「女優と言われるのがいや」という人がいたり、「女優」を強く打ち出す人もいたりして、対応はケース・バイ・ケースになる。

「パティシエ・パティシエール」「ソムリエ・ソムリエール」の使い分けについての議論は社内ではない。基本的には「パティシエ」「ソムリエ」にしている。取材対象の本人が「パティシエール」「ソムリエール」と名乗っている場合は「パティシエール」「ソムリエ―ル」も使う。「女優・男優・俳優」についても、取り決めはない。取材対象者も「女優」を前面に出す人もいる。竹内結子さんが亡くなった際、そして石原さとみさんの結婚が決まったニュースの際は同じ日の紙面に、竹内さんは「女優」(社会部出稿)で、石原さんは「俳優」(学芸部出稿)となった。映画祭での「賞」は「固有名詞」なので、その名前(呼称)に合わせる。

(産経新聞)外国由来の職業の「男女の呼称」について、基本的には男性側の呼称を使用していることがほとんど。女性の俳優の場合は「俳優」「女優」とどちらも使う。

(ABC)「女性パティシエ」とは表現しない。ただパティシエを一般用語ととらえて「女性は渋谷区にある洋菓子店のパティシエで…」という原稿は採用した。

(MBS)「林先生の初耳学」という番組で、「ギャル曽根のパティシエール学」というコーナーがあったが、それ以外では「パティシエール」「ソムリエール」はあまり使った事例がない。「女性パティシエ」「パティシエの女性」としている。肩書スーパーで「ソムリエ 〇〇さん」と女性に出してしまったことがあったが、ではどう表記すればいいのか、かなり議論した。「ソムリエの資格を持つ 〇〇さん」か。画面に明らかに女性が映っているのに「女性ソムリエ」とスーパーで出すのも違和感があるし…。「ソムリエール」を使うのは、「スチュワーデス」を使わなくなった流れに逆行する気もする。

以前ご一緒した夏木マリさんはご自分のことを「俳優」と呼んで欲しいとおっしゃっていた。本人の希望がなければ女性には「女優」を使っている。

(中国新聞)「ソムリエ」「ソムリエール」に関しては、中国新聞の「性差別の防止基準」からは「ソムリエール」は許容だが、仮に本紙に「ソムリエール」と書いたら、私を含む読者は何のことか分からず、「ちゃんと説明しろ」「日本語で書け」と苦情が来るのは必至。外国由来の「男女別の呼称」は、日本語の男女共通の呼称に書き換えられるならば、それが一番いいと考える。中国新聞の性差別の防止の運用は現在《男性側に対語のない女性表現は原則使わない》である。(例)OL→女性会社員  ウグイス嬢→場内アナウンサー、車上運動員。しかし、逆は許容している。(例)サラリーマン カメラマン。

「俳優」「女優」に関しては数年前まで、「女優」は女性を殊更に強調する表現として、全て「俳優」にしていました。しかし「昭和の大女優」の死亡記事には「女優」を使わざるを得ず、「男優」という対語もあるので「女優」は許容としました。ただ「死亡記事」で女性の俳優の肩書が「女優」と「俳優」で2つ並んでいたら、違和感がある。

 

というような意見が出ました。

 

(2020、10、20)