「令和ことば事情情7505負けず嫌い」で書いた、
「『負けず嫌い』か?『負け嫌い』か?」
で、
「負け嫌い」
の用例として辞書に出ていたのが夏目漱石の『坊っちゃん』でした。
それが、どんな文脈で出て来るのか、『坊っちゃん』を読んでみました。実は『坊っちゃん』、通読したことはありませんでした。初体験です。「負け嫌い」の単語を見つけることが第一の目的で、ついでにお話の筋も読もうという「読書」です。
最初の方で出てくるかなあと思ったのですが、なかなか出て来ません。ついつい、話の筋に入り込んだそのとき!出て来ました。岩波文庫の63ページ!
山嵐が坊っちゃんに紹介した下宿の主人が、「坊っちゃんに出て行ってほしい、と言ってくれ」と山嵐に頼んだ、それを山嵐が坊っちゃんに伝える場面で、二人は言い争いになります。坊っちゃんが、
「当り前だ。いてくれと手を合せたって、いるものか。一体そんないい懸(がか)りをいうような所へ周旋する君からしてが不埒(ふらち)だ」
と言うと、山嵐が、
「おれが不埒か、君が大人しくないんだか、どっちかだろう」
この後の地の文で、「負け嫌い」が出て来ました。
「山嵐もおれに劣らぬ癇癪(かんしゃく)持ちだから、負け嫌いな大きな声を出す。」
なるほど、意味合いは「負けず嫌い」と同じですね。
この後の一文に、
「顋(あご)を長くして」
という見慣れない表現も出て来ます。
「控所にいた連中は何事が始まったかと思って、みんな、おれと山嵐の方を見て、顋(あご)を長くしてぼんやりしている。」
これは、
「顎を上げて、遠くの方を伺う様子」
なのでしょうね。「顋」という漢字も初めて見ました。面白い表現ですね。
あれ?
でもこの「顋」という字、見た覚えがある。でも「あご」ではなく、
「えら」
じゃなかったかな?
調べてみたら、「えら」の漢字は「3種類」ありました。
「鰓、顋、腮」
やっぱり「顋」も「えら」と読むんだ!「鰓」が一番印象深いけど。
そして「えら」の意味を見たら2番目に、
(2)人のあご。えらぼね。(例)えらが張った顔
とありました。
そもそも「えら」と「あご」は別々にあったけど、「魚」の「えら」を、「人間の顔(あご)」に当てはめて、「えら」と呼ぶようになったんじゃないかなあと推測します。


