7693「『坊っちゃん』の『負け嫌い』」

2020 . 9 . 7

7693

 

「令和ことば事情情7505負けず嫌い」で書いた、

「『負けず嫌い』か?『負け嫌い』か?」

で、

「負け嫌い」

の用例として辞書に出ていたのが夏目漱石の『坊っちゃん』でした。

それが、どんな文脈で出て来るのか、『坊っちゃん』を読んでみました。実は『坊っちゃん』、通読したことはありませんでした。初体験です。「負け嫌い」の単語を見つけることが第一の目的で、ついでにお話の筋も読もうという「読書」です。

最初の方で出てくるかなあと思ったのですが、なかなか出て来ません。ついつい、話の筋に入り込んだそのとき!出て来ました。岩波文庫の63ページ!

山嵐が坊っちゃんに紹介した下宿の主人が、「坊っちゃんに出て行ってほしい、と言ってくれ」と山嵐に頼んだ、それを山嵐が坊っちゃんに伝える場面で、二人は言い争いになります。坊っちゃんが、

「当り前だ。いてくれと手を合せたって、いるものか。一体そんないい懸(がか)りをいうような所へ周旋する君からしてが不埒(ふらち)だ」

と言うと、山嵐が、

「おれが不埒か、君が大人しくないんだか、どっちかだろう」

この後の地の文で、「負け嫌い」が出て来ました。

「山嵐もおれに劣らぬ癇癪(かんしゃく)持ちだから、負け嫌いな大きな声を出す。」

なるほど、意味合いは「負けず嫌い」と同じですね。

この後の一文に、

「顋(あご)を長くして」

という見慣れない表現も出て来ます。

「控所にいた連中は何事が始まったかと思って、みんな、おれと山嵐の方を見て、顋(あご)を長くしてぼんやりしている。」

これは、

「顎を上げて、遠くの方を伺う様子」

なのでしょうね。「顋」という漢字も初めて見ました。面白い表現ですね。

あれ?

でもこの「顋」という字、見た覚えがある。でも「あご」ではなく、

「えら」

じゃなかったかな?

調べてみたら、「えら」の漢字は「3種類」ありました。

「鰓、顋、腮」

やっぱり「顋」も「えら」と読むんだ!「鰓」が一番印象深いけど。

そして「えら」の意味を見たら2番目に、

(2)人のあご。えらぼね。(例)えらが張った顔

とありました。

そもそも「えら」と「あご」は別々にあったけど、「魚」の「えら」を、「人間の顔(あご)」に当てはめて、「えら」と呼ぶようになったんじゃないかなあと推測します。

 

(2020、9、7)