「2020読書日記079」に書いた、内田洋子さんの『サルデーニャの蜜蜂』(小学館:2020、6、1)を読んでいて見つけた言葉に、
「碇泊」
という熟語がありました。こんな文章の中に出て来ました。
「古船を碇泊させ、船上生活をしていたときに」(140ページ)
この「碇泊」は、どう読むのでしょうか?同じ意味と思われる、
「錨泊(びょうはく)」
は『精選版日本国語大辞典』にも載っているんですが。
*「びょうはく(錨泊)」=船が錨(いかり)をおろして一か所にとまること。
シンプルですね。でもこの「錨泊」、『広辞苑』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』には載っていませんでした。
「碇泊」はどう読むのか?「碇」は「じょう」かな?でも、
「じょうはく」
は載っていません。
「石へん」の右の「つくり」の「定」は、普通に読めば「てい」だから、
「ていはく」かな・・・あ、載っていました。『広辞苑』に、
*「ていはく(碇泊・停泊)」=船がいかりをおろしてとまること。ふながかり。(例)沖にていはくする。」
そうか、「碇」が常用漢字ではないので、普段は「代用字」として「停」を使って、
「停泊」
としている(?)のを目にすることが多いのかもしれませんね。本来は、
「碇泊」
なのかな。『精選版日本国語大辞典』も、「ていはく(碇泊・停泊)」も、もちろん載せていました。
*「ていはく(碇泊・停泊)」=船がいかりをおろしてとまること。ふながかり。
おお、『広辞苑』と「一字一句」違わない。全く同じです!表記も。用例は、「浦賀日記―安政三年(1856)八月二五日」より、
「浦賀港碇泊の商船数隻なりしか」
と引かれています。やはり古くは「碇泊」か。
「錨泊」との違いは何だろう?と考えたら、
「『錨』と『碇』の違い」
ということになりますね。そうなると漢和辞典の登場だな。『新漢語林』(電子辞書)。まず「碇」を引いたら、
*「碇」=(1)いかり。舟をとめるとき、水中になげおろすおもり。もと石で造り、のちに鉄で造る。
とあり、(参考)として、
『現代表記では→「停」に書き換えることがある。「碇泊→停泊」』
と、まさに私が求めていた答えの一つが記されていました。そしてこの、
「もと石で造り、のちに鉄で造る」
で、次に調べる漢字「錨」との違い、もう分かりましたよね。どちらが新しいのかも。
*「錨」=いかり。船をとめておくために水中に沈めるおもり。(例)「投錨」
「素材」に関しては書かれていませんが、
*「碇」=「舟」
*「錨」=「船」
と書いてあります。一般的に、「ふね」の大きさは、
「舟」<「船」
ですから、
*「石か鉄でできていて、小さな舟をとめるのは『碇』」
*「鉄(金属)でできていて、大きな船をとめるのが『錨』」
と使い分けているのかもしれませんね。
内田さんの「舟」は「小さな舟」だったのですね。


