7587「碇泊」

2020 . 7 . 15

7587

「2020読書日記079」に書いた、内田洋子さんの『サルデーニャの蜜蜂』(小学館:2020、6、1)を読んでいて見つけた言葉に、

「碇泊」

という熟語がありました。こんな文章の中に出て来ました。

「古船を碇泊させ、船上生活をしていたときに」(140ページ)

この碇泊」は、どう読むのでしょうか?同じ意味と思われる、

「錨泊(びょうはく)」

『精選版日本国語大辞典』にも載っているんですが。

*「びょうはく(錨泊)」=船が錨(いかり)をおろして一か所にとまること。

シンプルですね。でもこの「錨泊」、『広辞苑』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』には載っていませんでした。

「碇泊」はどう読むのか?「碇」は「じょう」かな?でも、

「じょうはく」

は載っていません。

「石へん」の右の「つくり」の「定」は、普通に読めば「てい」だから、

「ていはく」かな・・・あ、載っていました。『広辞苑』に、

*「ていはく(碇泊・停泊)」=船がいかりをおろしてとまること。ふながかり。(例)沖にていはくする。」

そうか、「碇」が常用漢字ではないので、普段は「代用字」として「停」を使って、

「停泊」

としている(?)のを目にすることが多いのかもしれませんね。本来は、

「碇泊」

なのかな。『精選版日本国語大辞典』も、「ていはく(碇泊・停泊)」も、もちろん載せていました。

*「ていはく(碇泊・停泊)」=船がいかりをおろしてとまること。ふながかり。

おお、『広辞苑』と「一字一句」違わない。全く同じです!表記も。用例は、「浦賀日記―安政三年(1856)八月二五日」より、

「浦賀港碇泊の商船数隻なりしか」

と引かれています。やはり古くは「碇泊」か。

「錨泊」との違いは何だろう?と考えたら、

「『錨』と『碇』の違い」

ということになりますね。そうなると漢和辞典の登場だな。『新漢語林』(電子辞書)。まず「碇」を引いたら、

*「碇」=(1)いかり。舟をとめるとき、水中になげおろすおもり。もと石で造り、のちに鉄で造る。

とあり、(参考)として、

『現代表記では→「停」に書き換えることがある。「碇泊→停泊」』

と、まさに私が求めていた答えの一つが記されていました。そしてこの、

「もと石で造り、のちに鉄で造る」

で、次に調べる漢字「錨」との違い、もう分かりましたよね。どちらが新しいのかも。

*「錨」=いかり。船をとめておくために水中に沈めるおもり。(例)「投錨」

「素材」に関しては書かれていませんが、

*「碇」=「舟」

*「錨」=「船」

と書いてあります。一般的に、「ふね」の大きさは、

「舟」<「船」

ですから、

*「石か鉄でできていて、小さな舟をとめるのは『碇』」

*「鉄(金属)でできていて、大きな船をとめるのが『錨』」

と使い分けているのかもしれませんね。

内田さんの「舟」は「小さな舟」だったのですね。

(2020、7、14)