『疫病の文明論』(日経新聞:2020、5、4~5、13)

2020 . 6 . 9

2020_067

 

「日本経済新聞」の朝刊最終面・文化欄で5月に7回に亘って各界の識者がその考えを述べたものを連載した記事。これは「コロナ後」を見据えて、つまり「post」「after」コロナに関して、いかに我々は生きていくべきか、「コロナ」によっていかに生き方が変わるのか?を考える上で、大変示唆に富む記事でした。

1回目の中野京子さん(ドイツ文学者)「描かれた恐怖~災厄が問う表現の根源」

2回目沼野光義さん(スラブ文学者)「文学の力から仕事を果たす「誠実さ」描く」

3回目の橋詰大三郎さん(社会学者)「緊急時の社会学~問われる公益性と補償」

4回目の石田英敬さん(記号学者)「病の表象を見る~「政府」統治の危機」

5回目の池上俊一(歴史学者)「西洋史に学ぶ~不可避な変化 傾向を加速」

6回目の五十嵐太郎(建築評論家)「変わる建築~空気の流れ、重要な課題に」

最終回(7回目)加藤徹「中国の歴史~駆邪逐疫 犠牲覚悟の『戦争』」。

 

中でも6回目の建築評論家・五十嵐太郎さんの「これからの建築」は、「空気の流れ」を考え衛生観を反映したデザインということで、「postコロナ」を考える上でも参考になるなあと思いました。すでに病院建設では取り入れられているのですね。

あと、COVID19という「感染症」の伝播と「リモート勤務」は、「効率を求めた人の集積」としての「都市」というものの存在、つまりは「大量生産大量消費」という「17世紀から資本主義の追い求めてきた形」が、このままのパラダイムでは行き詰まるということを示唆し、今までの考え方の延長戦ではないパラダイムシフトを促したのではないかと思っています。

それは「モノ」だけではなく「ソフト」面、我々「マス(大量)メディア」の「テレビ」も同様です。日経新聞の文化面、良い仕事してますね!

 

またこれは、知り合いのNHKの佐々木健一ディレクターが作った、識者3人の意見を紹介したBS1の番組を見ての感想ですが、「移動の自由」が「外出自粛」によって事実上制限されたことに関して、「こんな時期だから仕方ない」とは思っていたのですが、実は「移動の自由」こそが「自由」の中でも最重要であるという意見を読んで「そうだったのか!」と思いました。

番組では、哲学者の國分功一郎さんが、イタリア哲学者・ジョルジョ・アガンベンという人の意見を紹介していました。

アガンベンは、今年4月15日に「移動の自由」に関して、現状の「ロックダウン」は、

「戦争中にも行われなかったほどの移動制限」

だと述べ、また、東ドイツ出身のドイツ・メルケル首相も3月18日に、

「日常生活における制約は、渡航や移動の自由が、苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。民主主義においては決して安易に決めてはならず、決めるのであれば、あくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです」

と述べていると、國分さんは紹介していました。

このような覚悟・意識が、日本の政治家・国民にあったか?と言えば、首をかしげざるを得ません。

「憲法22条」に、「移動(移住)の自由」に関する規定があるにもかかわらず、です。

 

「after」「post」を考える前に、「これまで」「現在」について考え直すことが必要ではないかなあと思いました。

 

 

(2020、5、13読了)