7476「ぶらさがり」

2020 . 5 . 22

7476

 

 

5月21日夕方、安倍首相は、まだ「緊急事態宣言」が出されていた8都道府県の内、

「大阪・京都・兵庫」

の3府県については、

「緊急事態宣言を解除する」

と発表しました。1週間前に「39県」の解除を発表したした時は、

「首相官邸の大広間」

に記者を集めて司会者を置き、

「記者会見」

を開きましたが、今回は通称、

「ぶらさがり(取材)」

と呼ばれる、

「移動途中に立ち止まって話す形での発表」

で、場所も、

「首相官邸の玄関広間」

で、小さな机の上に代表マイクが2本置かれただけで、司会者もいませんでした。

その様子を生中継でお伝えした、読売テレビの夕方のニュース「かんさい情報ネットten.」で、中谷しのぶキャスターは、

「前回は『会見』でしたが、今回は『ぶらさがり』でした」

と言ったのですが、それを報道フロアで見ていた人たちは、

「何の説明もなく、業界用語の『ぶらさがり』と言うのは、視聴者に伝わらないのではないか?」

と話していました。

この「ぶらさががり」という言葉の意味は、果たして「国語辞典」に載っているのか?

調べたところ、載っていたのは、

『三省堂国語辞典』(7版・2014)

『広辞苑』(7版・2018)

『大辞林』(4版・2019)

だけでした。それぞれ意味の解説は、

【三省堂国語辞典】<移動中/立ったまま>の要人を囲んでかこんでする取材。ぶら下がり取材。

【広辞苑】改めた場を設けず、移動中などに行う取材の形式。」

【大辞林】取材対象者を取り囲むようにして、または歩きながら、記者が取材すること。ぶらさがり取材。

でした。ただ今回の安倍首相への取材は、

「官邸玄関広間に、スタンドマイク2本が机の上に用意されていた」

ので、『広辞苑』の説明の、

「改めて場を設けず」

には当たらない気はしますが。ポイントは、

「司会者を置かずに」

じゃないのかな?

「ぶらさがり」と似た言葉には、

「囲み(取材)」

という言葉がありますが、イメージとしては、

・「ぶらさがり」=歩きながらの取材

・「囲み(取材)」=立ち止まっての取材

というイメージがありますが、今回は立ち止まっていたけれど「ぶらさがり取材」という言葉が使われました。(このあたりについては、2009年に書いた「平成ことば事情3482ぶら下がり取材と囲み取材」をお読みください。)

一方で、

『デジタル大辞泉』(電子辞書)

『新潮現代国語辞典』(2版・2000)

『精選版日本国語大辞典』(2006)

『新選国語辞典』(9版・2011)

『明鏡国語辞典』(2版・2011)

『新明解国語辞典』(7版・2012)

『現代国語例解辞典』(5版・2016)

『岩波国語辞典』(8版・2019)

『三省堂現代新国語辞典』(6版・2019)

には、その意味は載っていませんでした。

これらの辞書で「ぶらさがり」というのは、

「吊るしの既製服」

の意味でしか載っていませんでした

そちらの意味の方が、今は通じないかもしれませんね。

なお「ぶらさがり(取材)」は、報道界隈では略して、

「ぶら(ブラ)」

と呼ぶこともあり、例えば「安倍首相へのぶらさがり取材」は、

「安倍ブラ」

ということもありますが、これなどは放送で言ってしまっては、視聴者に、

「別の意味」

に取られる恐れが100%なので、決して用いてはいけない略称だと思います。

 

(2020、5、22)