5月21日夕方、安倍首相は、まだ「緊急事態宣言」が出されていた8都道府県の内、
「大阪・京都・兵庫」
の3府県については、
「緊急事態宣言を解除する」
と発表しました。1週間前に「39県」の解除を発表したした時は、
「首相官邸の大広間」
に記者を集めて司会者を置き、
「記者会見」
を開きましたが、今回は通称、
「ぶらさがり(取材)」
と呼ばれる、
「移動途中に立ち止まって話す形での発表」
で、場所も、
「首相官邸の玄関広間」
で、小さな机の上に代表マイクが2本置かれただけで、司会者もいませんでした。
その様子を生中継でお伝えした、読売テレビの夕方のニュース「かんさい情報ネットten.」で、中谷しのぶキャスターは、
「前回は『会見』でしたが、今回は『ぶらさがり』でした」
と言ったのですが、それを報道フロアで見ていた人たちは、
「何の説明もなく、業界用語の『ぶらさがり』と言うのは、視聴者に伝わらないのではないか?」
と話していました。
この「ぶらさががり」という言葉の意味は、果たして「国語辞典」に載っているのか?
調べたところ、載っていたのは、
『三省堂国語辞典』(7版・2014)
『広辞苑』(7版・2018)
『大辞林』(4版・2019)
だけでした。それぞれ意味の解説は、
【三省堂国語辞典】<移動中/立ったまま>の要人を囲んでかこんでする取材。ぶら下がり取材。
【広辞苑】改めた場を設けず、移動中などに行う取材の形式。」
【大辞林】取材対象者を取り囲むようにして、または歩きながら、記者が取材すること。ぶらさがり取材。
でした。ただ今回の安倍首相への取材は、
「官邸玄関広間に、スタンドマイク2本が机の上に用意されていた」
ので、『広辞苑』の説明の、
「改めて場を設けず」
には当たらない気はしますが。ポイントは、
「司会者を置かずに」
じゃないのかな?
「ぶらさがり」と似た言葉には、
「囲み(取材)」
という言葉がありますが、イメージとしては、
・「ぶらさがり」=歩きながらの取材
・「囲み(取材)」=立ち止まっての取材
というイメージがありますが、今回は立ち止まっていたけれど「ぶらさがり取材」という言葉が使われました。(このあたりについては、2009年に書いた「平成ことば事情3482ぶら下がり取材と囲み取材」をお読みください。)
一方で、
『デジタル大辞泉』(電子辞書)
『新潮現代国語辞典』(2版・2000)
『精選版日本国語大辞典』(2006)
『新選国語辞典』(9版・2011)
『明鏡国語辞典』(2版・2011)
『新明解国語辞典』(7版・2012)
『現代国語例解辞典』(5版・2016)
『岩波国語辞典』(8版・2019)
『三省堂現代新国語辞典』(6版・2019)
には、その意味は載っていませんでした。
これらの辞書で「ぶらさがり」というのは、
「吊るしの既製服」
の意味でしか載っていませんでした。
そちらの意味の方が、今は通じないかもしれませんね。
なお「ぶらさがり(取材)」は、報道界隈では略して、
「ぶら(ブラ)」
と呼ぶこともあり、例えば「安倍首相へのぶらさがり取材」は、
「安倍ブラ」
ということもありますが、これなどは放送で言ってしまっては、視聴者に、
「別の意味」
に取られる恐れが100%なので、決して用いてはいけない略称だと思います。


