『インフェルノ(中)』(ダン・ブラウン著、越前敏弥訳、角川文庫:2016、2、25)

2020 . 4 . 24

2020_048

<上下2巻の単行本は2013年11月刊行>

 

「インフェルノ」の意味は「地獄」。ダンテの『神曲』に出て来る「地獄」である。

4年前に読んだこの本を読み直そうと思った原因は、もちろん「新型コロナウイルス」の蔓延だ。中心人物は何と「WHO=世界保健機関」の事務総長(女性)!天才狂人(?)大富豪科学者が自殺するのだが、亡くなる前にタイマーの付いた恐ろしい計画を実行しようとしていた。それは、人口増大を続ける「人類」が、地球環境保全にとって最大の「阻害要因」なので、それを「除去」しようというもの。つまり「あるウイルス(?)」をばら撒いて、人類を殺戮する…わけではないのだが、「子どもを産めなくする」のである。そんなことしなくても日本は少子化で人口が減ってきているが、世界的に見ると爆発的に増え続けている。いくら何でも、そんなことをされては人類は滅亡する。それを阻止しようとするWHOと、それに巻き込まれる主人公のラングドン教授。1回目に読んだ時にはわくわく読み進めましたが、2回目はラストが分かっているだけに、ちょっと読もうとする意欲が下がってしまった感じがしました。印象に残った語句を書き出します。

「否認は、人間の適応機制のきわめて重要な部分を占めている」(85ページ)

「八という数は、再生と再創造を表す。八角形は、神が天と地を創った六日間と、安息日の一日、そしてキリスト教徒たちが洗礼を通じて“再生”もしくは“再創造”される八日目を、目に見える形で思い出させる。八角形は、世界じゅうの洗礼堂でよく使われている。(121ページ)

あ!そうなの?それで思い出したのは、角田光代の『八日目の蝉』。実は原作はまだ読んでいなくて(笑)映画を先に見たけど、タイトルにそういう思いも込められていたのかな?

「天使がダンテの額に七回書く文字は?」「P!」「Pはペッカートゥム、“罪”という意味のラテン語。それを七回書くというのはつまり“七つの大罪”を示している」(150~151ページ)

あ、「ペッカートゥム=罪」と言えば、学生時代に歌ったカプレの「三声のミサ」の「アニュス・ディ」の歌詞に、

「クィトーリス・ペッカータ・ムンディ」

というのがあったが、あの「ペッカータ」が「罪」か!

「七つの大罪」は「2020読書日記035『インフェルノ(上)』(ダン・ブラウン著、越前敏弥訳、角川文庫)」に書きましたが再掲すると、「七つの大罪」の頭文字を取った「サリギア(SALIGIA)」は、

・スペルビア(Super bia)高慢

・アワリティア(Avaritia)貪欲

・ルクスリア(Luxuria)邪淫

・インウィディア(Invidia)嫉妬

・グラ(Gula)貪食

・イラ(Ira)憤怒

・アケディア(Acedia)怠惰

でしたね。

「不実、つまり裏切りは、七つの大罪のひとつーーそれもいちばん思い罪で、地獄の最下層にある第九の圏(たに)で罰せられるんだよ。」(205ページ)

あれ?「不実(裏切り)」は「七つの大罪」のどれに当たるんだ???

「『優生学のような薄気味悪さを感じますよ』

引き合いに出されたそのことばに、シンスキーの肌は粟立った。

一九四〇年代、ナチスの科学者たちはある技術にいたずらに手を出し、それを優生学と呼んだ。それは遺伝子工学の初歩知識を使い、“望ましい”特定の遺伝形質を持つものの出生率を増加させながら、“望ましくない”民族的性質を持つ者の出生率は低下させようという試みだ。遺伝子を使った民族浄化。」(241ページ)

「遺伝子改良が合法化されたとたん、持つ者と持たざる者に分かれた世界が生まれてしまうということです。すでに富者と貧者の溝はひろがるばかりだというのに、遺伝子操作はそこへさらに優等な人間と……劣等とみなされる人間との競争を作ってしまう。」(243ページ)

「聖ルチアは盲人の守護聖人なんだよ」

「ルチアは美し過ぎて、男性がみな欲望を覚えたんです。それでルチアは、神に捧げた純潔と貞操層を守るため、自分で両目をくりぬいてしまいました」

「その犠牲の見返りとして」「神はルチアに、さらに美しい目を与えたんですよ!」

「それじゃ意味がないと知りながら?」「神の御業は測りがたい」(251~252ページ)

この「聖ルチア」って、つまりあの「♪サンタ・ルチア」ですかね?

「カジノ・ディ・ヴェネツィア(中略)この豪奢なルネッサンス様式の殿堂は、十六世紀からヴェネツィアの風景に溶けこんでいる。かつては個人が所有する邸宅だったが、いまは夜会服を着て臨む賭博場に様変わりしている。また、一八八三年に、作曲家リヒャルト・ワーグナーがオペラ<パルジファル>を完成させてまもなく、心臓発作で急逝した場所としても知られている。

カジノの先の右手には、バロック様式の粗面仕上げのファサードが見え、さっきよりさらに大きな濃い青色の垂れ幕が、ここはカ・ペーザロ国際近代美術館だと告げている。何年か前にラングドンはここを訪れ、ウィーンから貸し出されていたグスタフ・クリムトの名画<接吻>を鑑賞したことがあった」(257ページ)

たぶん鑑賞したのは「ラングドン」じゃなくて、著者の「ダン・ブラウン」だろうな。

ちなみに「令和ことば事情7349『検疫』の英語」でも書いた「検疫」の語源に関する記述がありました。それによると、「黒死病」が「オスマン・トルコ」を滅ぼした経緯について、

「皮肉にもその終焉を招いたのは、外国の贅沢品を好んだ住民の嗜好ゆえだったーーかの致死性の疫病は、貿易船に閉じ込められたネズミを介して中国から持ち込まれたのである。中国の人口の三分の二という計り知れぬ数を死に至らしめた疫病は、ヨーロッパに上陸するなり、またたく間に三人にひとりを殺していったーー老いも若ききも富める者も貧しき者も。ラングドンは、ヴェネチアに黒死病が蔓延していたころの人々の生活についての本を、かつて読んだことがあった。死者を埋葬できる乾いた土地はないに等しく、膨張した死体が運河に浮かび、ぎっしりと埋め尽くされた場所では、労働者たちが丸太ころがしのようにしてそれらを海へ押し出す作業を強いられた。どれほど祈っても、その猛威を鎮めることはできなかった。原因がネズミにあると役人たちが気づいたときには、すでに手遅れだったが、それでも法が施行され、外来の船は沖合でまる四十日間停泊しなければ積荷をおろすことができなくなった。今日でも、四十という数――イタリア語で“クアランタ”――は、“隔離(クアランティン)”ということばの語源を恐怖とともに思い出させる。」(256ページ)

勉強になりました!あとは「下巻」だ!

 

 

(2020、4、9読了)