





今回の配達先は、オーストラリア。バレエダンサーの吉田合々香(ねねか)さん(32)へ、長野県で暮らす父・邦久さん(62)、母・薫さん(62)の想いを届ける。
オーストラリア第3の都市・ブリスベンに本拠地を置く「クイーンズランドバレエ団」に所属する合々香さん。5年前、日本人で初めてこのバレエ団の最高位・プリンシパルに就任。約50人の団員の頂点に立つ看板ダンサーとして、「白鳥の湖」や「ロミオとジュリエット」など数多くの作品で主演を務めている。
母の影響でバレエを始めたのは、3歳のとき。小学生から全国コンクールに出場するようになった。その頃、海外の名門バレエ団のドキュメンタリーを見て、留学を意識するように。そして、中学3年生で出場したコンクールでの演技を見た世界的バレエダンサー、ドミニク・カルフーニさんの誘いで、わずか15歳で単身フランスへ渡った。その後、バレエの最前線で実力を磨いた合々香さんは、若手ダンサーの登竜門「ローザンヌ国際バレエコンクール」でファイナリストに。その審査員だった当時の芸術監督、リー・ツンシンさんにスカウトされ、19歳でクイーンズランドバレエ団へ入団したのだった。
次回の公演は、シェイクスピアの四大悲劇の1つ「ハムレット」。合々香さんは、主役の1人であるハムレットの母親・ガートルードを演じる。シェイクスピアの作品は、難解なセリフによって複雑な人間ドラマを描き出すことで知られるが、バレエでは人物の内面をダンスだけで表現しなければならない。さらに母親役もほぼ経験がなく、合々香さんも今回の役作りにはかなり苦労していた。この2か月は完璧に準備をしてきたものの、まだ進化できる余地があるはずと、相手役とともに探求を重ねる。
午前9時にはスタジオに入り、帰宅するのは夜の7時。日本にいた頃は母親にべったりで、家族と離れての暮らしは寂しい思いをすることもあるという。とはいえ、合々香さんの1週間の予定はバレエで埋まっている。そんな日々を過ごす中、毎週のように会う大親友とのランチは、バレエから離れて心を休ませる大切な時間になっている。
迎えた「ハムレット」の公演当日。チケットは完売で、観客の期待は高まっていた。一方、合々香さんは開演時間ギリギリの時間まで役への探求を続ける。物語は、王である夫を失い、悲しみに暮れるガートルードの場面から始まる。女王であり、1人の女性であり、そしてハムレットの母であるガートルード。誤って飲んだ毒が体に回っていくという肉体的な苦しみ、新しい夫に裏切られた女性としての苦しみ、そして息子・ハムレットの人生を狂わせてしまった母としての苦しみ…クライマックスでは、ガートルードが抱えるいくつもの苦しみを表現。その熱演は観客を引き込み、心を打った。
人生の全てを捧げ、バレエに打ち込む合々香さん。「残念ながら、キャリアは短い。だから今、この瞬間に100%やっておかないと後悔するのは目に見えている。家族との時間を犠牲にしてまでやりたいことがバレエだから、満足はしないかもしれないけど、できるだけ後悔がなく、やり切ったなあとすっきりした気持ちで引退できたらいいなと思っています」と今の想いを語る。
そんな娘が公演に挑む様子を見て、「また成長したのを感じたし、観客のみなさんの反応もうれしかった」という母・薫さん。「少し休んでほしい」と心配しながらも、親友とリラックスした時間を持てていることにほっとした表情を見せる。
15歳で親元を離れた寂しさを抱えながらも、悔いのないバレエ人生を全うするため、日々努力を重ねる合々香さんへ、両親からの届け物はパジャマとストール。頑張り続ける娘の心と体を休ませてあげたいという気持ちと、父と母を近くに感じてもらえたらという願いが込められていた。さらに添えられた手紙を読み、思わず涙があふれる合々香さんは、「心配をかけていると思いますが、一番の恩返しは私が活躍する様子を見せることだと思っています」と、両親とバレエへの想いを新たにするのだった。