





今回の配達先は、ドイツの首都ベルリン。シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして活躍するBMXアーティストの吉田尚生さん(38)へ、静岡県で暮らす双子の兄・幸生さん(38)の想いを届ける。
昨年11月にベルリンでスタートした「ALIZÉ(アリゼ)」は世界最高峰のサーカス団シルク・ドゥ・ソレイユの最新作で、ヨーロッパでは初となる常設ショー。尚生さんはこの舞台に出演し、BMXのパフォーマンスを披露している。BMXは普通の自転車と違ってブレーキがなく、タイヤにペグと呼ばれる手や足を掛けるパーツが付いている。さらにハンドルが360度回転するのが大きな特徴。それらを駆使して、まるでダンスのように技を繰り出す。世界中で16のショーを上演するシルクでも、BMXでパフォーマンスするのは尚生さんだけ。しかも、アリゼの公演にはスタートの1週間前に急遽召集され、呼ばれて2日後には日本からベルリンへ飛んでいたという。
15歳の時、書店で見かけた専門誌をきっかけにBMXと出会った尚生さん。そこから双子の兄・幸生さんとともにBMXの楽しさに魅了され、毎日のように練習に明け暮れたという。やがて尚生さんはBMXのパフォーマーを目指すように。一方、幸生さんは日本でBMXを販売する道に進んだ。
エンターテインメントに憧れを持つようになったのは、6歳の時。劇団四季の音響デザイナーだった父・常夫さんが携わったシルク・ドゥ・ソレイユのショーを観て、まるで遊園地に来たときのような高揚感を覚えた。そしてその後出会ったBMXで、シルクのステージを志すように。10年間、諦めず夢を追い続けた結果、29歳の時にアメリカで行われていたシルクの公演「VOLTA」から声がかかったのだった。
憧れのシルク・ドゥ・ソレイユに入り、2018年には妻・花実さんと結婚。しかし2020年3月、コロナ禍により全公演が中止となり、結婚2年目にして突然、仕事を失ってしまう。だが、こんな時だからこそ何かやらなければと考え、始めたのが、ライディングとドローイングを合わせたオリジナルの「ライドローイング」。常々、地面に残るタイヤの跡に魅力を感じていた尚生さんは、地面をキャンバスに置き換え、タイヤを使って絵を描き始めた。その作品は次第に評判を呼び、パリ五輪の開会式で使用されたBMXの装飾を担当するまでになった。
現在出演するシルク・ドゥ・ソレイユの舞台「アリゼ」は、主人公のアリゼが不思議な世界に迷い込むところから始まる物語。ショーのオープニングがいきなり尚生さんの見せ場となる。尚生さんは風を呼び込むというキャラクターで、物語でも重要な役どころ。BMXのパフォーマンスで尚生さんが起こした風は竜巻となり、パフォーマーたちを吹き飛ばしていく。その後も、人が消えたり宙に浮いたりするイリュージョンと、シルクならではのアクロバットが融合した唯一無二のショーが展開。1時間半に及ぶステージは熱狂のうちに幕を閉じた。
ベルリンで憧れの舞台に立つ弟を見た兄・幸生さん。かつてBMXで切磋琢磨した弟は常に意識する存在だったが、今のパフォーマンスに「華やかなステージでも、乗っている場所はすごく狭い。照明が変わったり、周りに人がいる中で、自分らしいライディングができてるっていうのはすごいなって思いました」とその姿を称える。
ショーの休演日。尚生さんはこの日も街の広場に出かけ、BMXに乗っていた。「楽しいから仕事にしたかったし、BMXに乗っているときは基本的に楽しい時間ですよね」。子どもの頃から大好きなBMXに乗り続け、夢を信じ叶えてきた尚生さんへ、双子の兄・幸生さんからの届け物は、BMXを始めた頃に買ったマニュアル本。2人で擦り切れるほど読んだ思い出の一冊だ。添えられた手紙には「これからも尚生にしかできないオリジナルな人生を走り続けて下さい」とエールが綴られていた。兄からの初めての手紙に感激した様子の尚生さんは、「自分にとっても大事な家族なので、かっこいいところを見せたいですね」と語り、「どういう形であれ、お互い長く乗り続けられたら、BMXで生きていけたら最高ですね」と兄にメッセージをおくるのだった。