





今回の配達先は、アメリカ。納豆職人のロウ綾花さん(32)へ、群馬県で暮らす父・好史弘さん(59)の想いを届ける。
アメリカ東海岸に位置するボストンは全米屈指のシーフードの聖地であり、名物はクラムチャウダースープとロブスターロール。綾花さんはそんな街の一角に小さな工場を構え、納豆を作っている。アメリカでは納豆専用の機械が手に入らなかったそうで、代わりにロブスター用の圧力蒸し器と、パンを発酵する機械を使用している。こうしてできる無農薬の大豆を原料にしたこだわりの「ボストン納豆」は、納豆菌が元気で粘りが強いのが特徴。味はアメリカ人でも食べやすいよう、マイルドに仕上げている。
アメリカの大学で生物学を専攻した綾花さん。菌や細胞などについて学び、卒業後は、癌センターの研究に従事した。一方コロナ禍の頃、菌の知識を活かして趣味で作り始めたのが、小さいときから大好きだった納豆。すると次第に夢中になり、2023年「納豆屋 Aya’s Culture Kitchen」をオープン。納豆職人に転身したのだった。オリジナルの納豆で最もこだわったのが、納豆菌の配合率。数種類の納豆菌をさまざまな比率で混ぜ合わせ、何度も試作を繰り返し、納得がいく味にたどりついた。こうして作った納豆や味噌、甘酒などの商品は、主にオンラインで販売。開業して3年、売り上げも増えつつあるという。
綾花さんは、8歳のときに両親が離婚し、10歳で母と姉とともにアメリカに移住。以降、父とは連絡すら取れなくなっていた。だが、両親の離婚から10年。ある日、姉がSNSで父の連絡先を見つけたことで、父との関係が大きく変化する。17歳のとき、父の赴任先だったベトナムで10年ぶりの再会。一緒に過ごした2週間は、8歳から会っていなかった父との空白の時間を埋める旅となった。ベトナムでの父は好奇心旺盛で、そういう部分は親子で似ているところだと感じたという。一方、4年前に結婚したティムさんは、27歳年上で奇しくも父と同い年。最初、父に紹介したときは複雑そうだったが、今ではすっかり仲良くしているそうだ。
今、綾花さんが力を入れているのが、オンライン以外の販路拡大。この日は健康食品を扱う店で試食販売会を行った。世界的に健康食品として認知度が上がっている納豆。アメリカでも少しずつ人気が出てきてはいるものの、まだまだ知らない人も多く、ほとんどの人に試食を断られ購入には結びつかなかった。だがその後も、試食用の納豆を持って飛び込み営業へ。時間が経ってからオーダーが入ることもあるといい、地道に活動を続けている。
ある日訪ねたのは、起業家向けのイベント会場。納豆を知らない人にも興味を持ってもらえるよう、アメリカ人受けしそうなバナナとクッキーを使った試食を用意した。実は食感が似ている納豆とバナナは相性がいいそうで、混ぜ合わせたものをクッキーにのせて配ると、この日用意した分が見事完売。納豆を初めて食べるアメリカ人にも「体に良さそう」と好評で、綾花さんは手ごたえを感じる。
そんな娘の奮闘ぶりを見て、父・好史弘さんは「大学のときに好きで選んだ生物学とつながっているんだなと。楽しそうにやってるなと思いました」と目を細める。また、綾花さんと再会した当時を振り返り、「8歳のときで顔が止まっていて、今の人物像がわからなかったのですが、会えばなんとかわかるのかな…という感じでした。お互いドライなので、過去は関係なかったです」と笑う。
アメリカに渡り22年。大好きな納豆をこの地で広めたいと奮闘する綾花さんへ、幼い頃、離ればなれになった父からの届け物は、箱いっぱいに入った駄菓子。父が単身赴任から帰ってくるときに、娘たちのお土産にしていたものだった。「懐かしいですね。父が玄関を開けるたびに、姉と走って迎えにいって…それを思い出しました。思い出なんてないと思っていましたが、ありますね」と、いつもはクールな綾花さんの目から涙があふれる。そして父からの手紙を読むと、「『私のことを心配している』と書いてあったのですが、心配はいらないです。楽しく幸せに過ごしているので」とにっこり。父にも、「幸せに、長生きしてほしいです」と伝えるのだった。