過去の放送

#8406月14日(日) 10:25~放送
香港

 今回の配達先は、香港。日本人初のプロパデルプレーヤー・富田一輝さん(31)へ、埼玉県で暮らす父・浩太郎さん(60)、母・友紀子さん(58)の想いを届ける。
 「パデル」とは、テニスとスカッシュを合わせたようなラケット競技で、ダブルスで戦う。周囲が透明なガラスや網で囲われたコートの広さは、テニスコートの約半分。壁を利用して返球することもできるという戦略的なプレーが世界中で人気を呼び、今秋開催されるアジア競技大会では正式種目に。2032年のブリスベン五輪でも正式種目の有力候補になっている。
 現在出場しているのが、世界最大のパデル団体が主催する「FIPツアー」。一輝さんは年間を通してこのツアーに参戦する唯一の日本人であり、日本人選手としてはトップだが、世界ランキングは350位。世界中を回り続けてポイントを獲得しないと安定してランキングを保てないため、今年はすでに11か国を移動し、今は香港での試合を控えていた。目標は、世界最高峰のカテゴリー「プレミアパデル」。より多くのポイントを獲得し、ランキングを上げていくためにも、負けられない戦いが続く。
 テニス経験者の両親のもとに生まれ、小学校の頃から父に厳しく指導を受けていた一輝さん。高校時代にはインターハイに出場し、大学までテニスを続けたが、就職を機に引退する。その後、友人の誘いをきっかけに出会ったのが、パデル。その楽しさに魅了されると、わずか1年半で日本ランキング1位を獲得した。そして次の目標として選んだのが、プロの道。24歳で安定した職を捨て、海外での挑戦を決意する。しかし、事後報告した父は猛反対。以来、父とは5年間全く口をきいていない。
 父も心配していたのが、生活のこと。パデルの賞金は、トップカテゴリーでは総額1億円を超える大会もあるが、現在のカテゴリーは優勝しても10万円ほど。一輝さんはスポンサーからサポートを受けているものの、多額の費用が掛かるこの挑戦を続けるには、一刻も早く賞金の高いカテゴリーへ上がる必要があった。
 こうして迎えた試合当日。トーナメント1回戦の相手は、パデルの本場であり、いまや競技人口がサッカーを上回るというスペインのシード選手だ。序盤はラリーが続くも、パートナーの技ありショットが決まり先制。最後は一輝さんの強烈なスマッシュで1セット目をブレイクした。さらに、一輝さん得意のノールックボレーがさく裂し、2セット目も連取。一輝さんペアは最高のスタートを切ったと思われたが、徐々に相手の強烈なパワーに押されポイントを奪われていく。そして奮闘及ばず、試合は終了。1回戦敗退となった。
 この後は息つく暇もなく、次の大会が行われるマレーシアに移動するという一輝さん。今、改めて父に対して思うことは、「自分からやりたいって思ったことが人生で初めてだった。こんなに多くの人に支えられて、自分では想像できない挑戦ができているのを知ってほしい。でもそれは、両親のおかげでもあるので…」。そう心境を明かすと、思わず涙がこみ上げる。
 そんな一輝さんと疎遠になり、早5年。父・浩太郎さんは今の姿は初めて見たといい、「正直、すぐ諦めるだろうと思っていたんですけど、私が思っている以上の想いが本人にはあったんだろうという気付きを得ました」と語る。
 反対を押し切り、心からやりたいと思えるパデルに打ち込む息子へ、父からの届け物は、中学生のときに父と出場したホノルルマラソン完走記念のTシャツとメダル。添えられた手紙には、父の率直な想いが綴られていた。「陰ながら応援しております」という父のメッセージを受け、一輝さんはあふれる涙をぬぐうと、「忘れられていなかったんですね…やっぱり僕の活動を応援してくれるのはうれしいですし、一番心強いサポーターが1人増えたようで、より自信を持ってパデルに専念できるんじゃないかなという気持ちです」と感激する。そして、「僕から勇気を出して、また会えたらなって…」と再会が近いことを予感させるのだった。