





今回の配達先は、タイ。スキューバダイビングショップを経営する脇本大資(だいすけ)さん(44)へ、愛知県で暮らす妹・佳奈さん(41)の想いを届ける。
兄はどのようなきっかけでタイへ渡ったのか。佳奈さんは「その辺も私ははっきり聞いていなくて。父が亡くなったタイミングで、急に『ちょっと海外に行ってくるわ』って言って…」と明かし、詳しい理由はわからないという。
プーケットからボートで1時間、ピピ諸島はエメラルドグリーンの海に囲まれた人気のリゾート地。車の走行が禁止されている島は、どこも歩行者天国のようで、世界中から訪れた観光客でにぎわっている。大資さんは6年前、ここにダイビングショップ「Dive Tribe PhiPhi(ダイブトライブ・ピピ)」を立ち上げた。スタッフは世界各地から集めたベテランダイバーばかりで、大資さんはオーナーとして経営に携わりながら、インストラクターとしても現場に立ち、忙しい毎日を送っている。
ある日、大資さんは自らがガイドを務める、初心者向けの半日体験ダイビングツアーへ。会社が所有する船に乗り、ダイビングのためマレーシアから1人でやってきたという女性を案内する。海に潜る前に向かったのが、幻のビーチ「マヤベイ」。レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・ビーチ」のロケ地として有名な場所で、この映画をきっかけにピピ島は「伝説の島」と呼ばれるようになった。そんなピピ島でのダイビングの魅力のひとつが、海に切り立つ岩壁。「ビダノック」「ビダナイ」という、まるで天然の要塞のような岩の周りには、様々な海洋生物が集まるという。そして最大の見どころが、色とりどりの魚の巨大な群れ。国立公園であり禁漁区域だからこそ、多様な海洋生物たちと出会い、豊かな魚群を目の前で眺めることができるのだ。ツアーに参加した客は「ダイビング経験が浅いので不安でしたけど、ダイスケが安心させてくれました。まるで映画の中にいるみたいで楽しかった。また絶対に来たい」と話し、満足した様子を見せた。
もともとロックミュージックが大好きだった大資さんは、DJを経てレコード会社に勤めていた。ピピ島の海と出会ったのは11年前、音楽業界を離れ世界を放浪していた頃。映画「ザ・ビーチ」の舞台になった場所と聞いてピピ島にやってくるも、ダイビングをするつもりはなく、泳ぐのも好きではなかったという。だが強く勧められ、乗り気ではないままスキューバダイビングを体験。すると、10代でロックに目覚めたときのように、たちまち魅了されてしまう。そしてすぐに放浪生活をやめ、島にとどまることを決意。偶然出会ったピピ島の鮮烈な海の光景が、人生を大きく変えたのだった。
実は昨年離婚し、現在は1人暮らし。週に数回、近くに住む娘のエミィちゃん(8)と一緒に過ごしている。大資さん自身は長男として生まれたが、厳格な父のことが苦手で、ケンカばかりしていた。大人になってからも些細なことでぶつかり、3年近く絶縁状態に。だがそんな中、父が倒れ、余命数週間と告げられる。駆けつけた大資さんはケンカしていたことには触れないまま過ごし、1か月後、父は56歳でこの世を去った。このとき、「人の命は儚い」と実感した大資さん。これがターニングポイントとなり、その1年後、やりたいことを全うするためピピ島へ渡ったのだった。今の楽しみは、休日にエミィちゃんとプールで過ごすこと。娘が成人するまでは、そばで見守りたいと考えている。
父の死をきっかけにたどり着いた伝説の島・ピピ島。これからもエメラルドブルーの海で生きていく大資さんへ、妹・佳奈さんからの届け物は1枚の家族写真。初めて見るその写真には、今は亡き父と祖母、そして母と妹、自身の姿があった。さらに、添えられていたのは、父のエンディングノートの1ページ。佳奈さんの手紙には、「父は投薬されて眠らされる前に、エンディングノートを書いていました。言葉にしない父でしたが、亡くなる直前まで兄ちゃんのことを想ってくれていたと思います。兄ちゃんに厳しかったのは、期待と心配をしていたからこそだったのだと思います」と綴られていた。孫の姿を見ることがなかった父のことを想い、涙がこみ上げる大資さん。そして佳奈さんへ、「薄情な兄ちゃんかもしれないけど、ありがとう」と感謝の言葉を口にするのだった。