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#81912月28日(日) 10:25~放送
フランス・パリ

 今回の配達先は、フランス。美食の都・パリでフレンチシェフとして奮闘する北野ゆりかさん(33)へ、北海道で暮らす父・英伸さん(62)、母・由美子さん(62)の想いを届ける。由美子さんは、「最近、5年近く働いていたレストランから、新しい業態の店に移籍したばかりなので、どのように働いているのか見てみたいです」と話す。
 ゆりかさんが働くパリ11区は、飲食店の激戦区として知られるエリア。ここにある「レストラン エポぺ」は1週間前にオープンしたばかりのフレンチレストランで、50席ある広々とした店では、本格的なフランス料理が手ごろな値段でカジュアルに楽しめる。ゆりかさんはそんな店のメインシェフとして、メニュー開発から最終の味付けに至るまで、厨房のすべてを取り仕切っている。ソムリエと接客も兼任するオーナーのトマさんは、これまで数々の人気飲食店を手掛けてきた人物。ゆりかさんは世界的な若手のコンクールでファイナリスト10人に選ばれたのをきっかけにその名を知られるようになり、この店のメインシェフに抜擢されたという。
 昼12時からはランチ営業がスタート。ランチは前菜・メイン・デザートのセットで29ユーロ(約5100円)。パリの相場からすると、かなり抑えた価格設定だ。「目指しているものは誰かのコピーではなく、『この料理はゆりかちゃんの料理だよね』って言ってもらえるような料理。私にしか作れないものを作りたい」、そう語るゆりかさんは、注文が落ち着くとお客さんの元へ行き、直接顔を見て感想を聞いていく。
 午後7時になると、飲食店激戦区である街は賑わい始めるが、ゆりかさんの店は閑散としていた。ディナーが始まって1時間、ようやく1人目のお客さんがやってくる。結局、この夜に来店したのは2組だけ。ゆりかさんは「圧倒的に認知度が足りていないので、もっと宣伝しないと」と課題を挙げる。
 高校卒業後、料理の専門学校に進んだゆりかさん。その頃、叔母に海外留学を勧められ、食の都パリで勝負してみたいと思うように。そして、パリでミシュラン2つ星を獲得する高級レストラン「パサージュ53」の研修生として働くことになった。しかし、19歳で本場の厳しい世界を目の当たりにし、毎日冷蔵庫の中で泣いていたという。そんな当時の恩人であり、料理人としての土台を作ってくれたのが、ミシュラン2つ星に輝くフレンチの名店「Blanc」の佐藤伸一さん。パサージュ53のシェフだった佐藤さんは、日本人として初めてフランスでミシュラン2つ星を獲得し、その後8年連続で2つ星の偉業を達成した人物だ。ゆりかさんはBlancを訪ね、佐藤さんに新店のアドバイスを求めた。
 シェフとして奮闘するゆりかさんには忘れられない思い出があった。渡仏した1年後、両親が離婚。それから9年が経ち、ゆりかさんは自身の婚約を報告するため、離れて暮らす父と母に声をかけて食事会を開き、フランス料理を振る舞った。そこで料理を通して久々に家族3人が笑い合う時間が過ごせたという。さらに、これがきっかけで定期的に家族で会うようになったといい、「料理で変えられたというのがすごくうれしかった出来事ですね」と振り返る。
 オープンから8日、オーナーのトマさんが宣伝した甲斐もあって、店には夜も多くのお客さんが訪れていた。自分が作った料理を食べた人が笑顔になってくれることが料理人として一番の喜びだというゆりかさんは、心を込めて一品一品を仕上げた。この日はたくさんの人を笑顔にすることができたようだ。
 パリに渡って14年。冷蔵庫で泣いていたあの日から、今や新店のメインシェフに抜擢されるまでに。新たな挑戦が始まったばかりの娘へ、日本の母からの届け物はアルバム。そこには、ゆりかさんが婚約報告会で両親に振る舞ったコース料理の写真が収められていた。母からは「3人の時間をまた動かしてくれてありがとう」という伝言も。笑顔がこぼれるゆりかさんは「母と父がいてくれるから、ここまで頑張ることができたのかなと思うので、すごく感謝しています」と両親に喜びを伝えるのだった。