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#81812月21日(日) 10:25~放送
アブダビ

 今回の配達先は、アラブ首長国連邦の首都アブダビ。ここでチームラボのカタリストとして国家プロジェクトに携わる下山佳介さん(35)へ、長野県で暮らす父・晶次さん(70)、母・文代さん(70)の想いを届ける。
 国立博物館や「ルーブル・アブダビ」など、アート施設が建ち並ぶ文化地区の一角にある「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」。アブダビの国家プロジェクトのひとつであるこの施設は何年も前から計画が進行し、チームラボが広さ17000平方メートルもの巨大な美術館を建物ごと製作している。カタリストである佳介さんは2024年の夏から現地に滞在。何度も日本とアブダビを行き来しながら、プロジェクトを進めている。「カタリスト」とは、簡単にいえばチームのまとめ役。プログラマーやCGアニメーターらが数名でチームを組み、1つの作品を製作する中で、作品の構成・演出、素材選びや管理に至るまで全ての作業に携わり統括するという要のポジションだ。実は施設は昨年末には完成の予定だったが、2025年2月の時点でもまだ未完成。数百人もの中東の作業員が急ピッチで作業に取り組んでいた。
 館内には、光や音などデジタルテクノロジーを駆使したアートの空間が広がる。至るところに設置されたカメラが人の動きをとらえ、さわると作品が変化。まるで自分も作品の一部になったかのような感覚に陥るこの「境界のないアート」が、チームラボの特徴であり強みでもある。佳介さんたちが何年もかけて作り上げてきた、現象ごと作品にするアートだ。
 元々バスケット少年だった佳介さんがものづくりに興味を持つようになったきっかけは、何でも自分で手作りしていたという父・晶次さん。家の横には工房があり、佳介さんもそこで父からものづくりの基礎を学んだという。その後、同じものづくりでも映像に興味を持ち、大手印刷会社に入社。デジタル技術を扱っていたが、2年で退社する。さらにスノーボードをしていたとき着地に失敗し、全身の骨を折るという悲劇も起こった。何とか気合いで回復した頃、チームラボのスカウトマンで、現在は佳介さんの妻であるさゆみさんにヘッドハンティングされ、2016年にチームラボに入社。わずか2年目でプロジェクトリーダーを任されるまでになった。
 現在はプロジェクトが進む各国を飛び回りながら、大好きなものづくりに没頭できる申し分ない日々。しかし一方で2020年、父が脳梗塞で倒れ左半身が動かなくなってしまう。懸命にリハビリを続け、今では右手だけでさまざまなものが作れるようになるまでに回復したが、そんな父に言われ印象に残っているのが「勝ち癖をつけろ」という言葉だという。当時はピンときていなかったものの、今では「勝ち負けではないけど、『勝った』と言える状況に持っていくかは自分次第」とその意味をとらえる佳介さん。アブダビの国家プロジェクトのリーダーとしても貪欲に勝ちを求め、最後の追い込みにかかっていた。
 そしてついに2025年4月、「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」がグランドオープン。展示作品に取り掛かって3年、言葉の壁を乗り越え作り上げた17のブースがお披露目された。そんなアブダビでの息子の仕事ぶりを見て、「脳が追いついていかない」と母・文代さん。しかし「こんなに輝いて仕事ができるっていうのは、幸せな子だなと思います」と喜ぶ。
 さらにアブダビ・フェノメナのオープンから5か月。佳介さんの姿は日本にオープンした新たな美術館「チームラボ・バイオヴォルテックス京都」にあった。ここは佳介さんがアブダビと並行して進めてきたプロジェクトで、国内最大の規模となる約50点もの作品を製作した。そして京都の次はドイツで新たな施設の立ち上げが待っている。
 世界をノンストップで駆け抜ける息子へ、両親からの届け物は幼い頃に母がよく作ってくれた巨大カステラ。さらに小さな箱と、昔、佳介さんが愛用していたバスケットシューズのミニチュアも。父が右手だけで精巧に作り上げたバスケットシューズはストラップに仕立てられていた。「すごいですね。器用な人です」と見入った佳介さんは、「父親が病気になって一番好きだったことをできなくなるのは本当に残念なことだと思っていたんですが、また楽しんでいるっていうのを想像しただけでうれしい気持ちになります」といい、笑顔で両親の想いを受け取るのだった。