





今回の配達先はアメリカ・ラスベガス。ここでパフォーマーとしてシルク・ドゥ・ソレイユの舞台に立つ栗山隼輔さん(23)へ、大阪府で暮らす父・努さん(53)、母・里恵さん(52)の想いを届ける。
世界トップクラスのショーが様々な場所で上演されるラスベガス。中でも人気が高いのが、世界最高峰のサーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユの「マイケルジャクソンONE」で、12年のロングランを誇るショーでは“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの名曲に乗せて、世界屈指のパフォーマーがアクロバティックなステージを繰り広げる。この舞台に隼輔さんが加入したのは、1年半前。それまでは日本の大学生だった。
隼輔さんのメインは、日本人8人のチームで演じる「スムースクリミナル」のパート。宙返りなど、体操競技を元にしたパフォーマンスを披露する。メンバーには新体操個人の全日本チャンピオンも在籍。隼輔さん自身、小学校高学年から大学まで新体操の団体競技をしていた。
小学3年生の時、「バク転ができるようになりたい」という動機で近所の体操クラブに入会。練習すればするほど様々な技ができるようになるのが嬉しくて、体操競技が大好きになっていった。そんな中学生の頃、大阪で観たのがシルク・ドゥ・ソレイユの公演「トーテム」。「すごい」という言葉しか出てこないほど圧倒されたという。だが、憧れは持ちつつもその舞台は夢のまた夢。体操競技は大学で辞め、普通の社会人になるつもりでいた。しかし大学3年生のとき、全日本新体操選手権大会に出場し一番の大技を成功させた直後、運命を変える出来事が。なんとシルク・ドゥ・ソレイユのスカウトマンから声がかかったのだ。突如、憧れだったパフォーマーとしての人生を歩むことになった隼輔さん。気がつけば数年前には思いもよらなかった夢のステージでトップパフォーマーと肩を並べ、プロとして舞台に立つ日々を送っている。
この日、「マイケルジャクソンONE」の出番を迎えた隼輔さんは、舞台袖ではなく客席でスタンバイすると、ワイヤーを使いステージにダイブして登場。さらに、2週間前に始めたばかりのロープを使ったパフォーマンスを披露する。そして見せ場である大技2連発を決め、4分間にわたるパフォーマンスを完璧にやり遂げた。この後も隼輔さんは様々な場面に出演。1時間半のショーのうち半分ほどは舞台に立つというハードなステージが1日2公演、週5日続いていく。
15歳で実家を離れ、神奈川の高校で寮生活をおくりながら青春時代の全てを体操競技に捧げてきた隼輔さんだが、実は競技を辞めようと本気で考えたこともあった。大学2年生のとき、ひざの内側のじん帯を切り体が動かなくなってしまったのだ。だが、すぐに大阪から父が駆けつけてくれて、思い悩む気持ちを聞いてもらったことでもう一度続けようと思えたという。当時を振り返った隼輔さんは「親の力がなかったら今ここにはいない。感謝って言葉では表しきれないぐらい感謝しています」と語る。
息子が出場する大会は全国どこへでも応援に行ったという父・努さんと母・里恵さん。当初、里恵さんは英語ができないまま渡米したことを心配していたが、舞台裏などの様子を見て安堵の表情に。また父・努さんもステージで躍動する姿に「改めてかっこいいなと思いますね」と目を細める。
家族の支えがなければたどり着けなかった夢の舞台に立つ息子へ、両親からの届け物は、中学生の頃に初めて目の当たりにして衝撃を受けたシルク・ドゥ・ソレイユのショー「トーテム」のパンフレット。添えられた手紙には「あなたがシルク・ドゥ・ソレイユを知るキッカケになったトーテム。日本人が出てる、すごい!と繰り返して言ってたよね。次はあなたがMJ-ONEのパンフレットを見た少年の目標になれればいいですね」とエールが綴られていた。そんな両親の想いを受け、隼輔さんは「こう思ってくれているってことは、僕自身もっと頑張らないといけないなと。次は僕がパンフレットに載って、小さい子どもたちがショーを観たときに『こうなりたい』と思ってくれるような、次の世代が生まれればうれしいなと思います」と目を輝かせるのだった。