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#8069月21日(日) 10:25~放送
フランス

 今回の配達先はフランス。ここでコラージュ作家として奮闘する龍山千里さん(33)へ、神奈川県で暮らす父・秀一さん(64)、母・千加子さん(59)の想いを届ける。
 首都パリの隣に位置するムードンに住居兼アトリエを構える千里さん。雑誌やポスターなどからパーツを切り抜いて貼り合わせる、いわゆる「コラージュ」という技法で作品を作っている。例えばある作品で表現した山は、元はファッション雑誌に掲載されていたスカートの一部を切り取ったもの。この作品は日本の文芸誌の表紙に起用された。他にもファッションビル「パルコ」のショーウィンドウなど大きな仕事も手がけてきたが、本格的にキャリアをスタートしたのは2024年から。今年は仕事がほとんどない状況で、しかもフランス在住ながらフランス人からの依頼はほぼないという。そこで、渡仏6年目にして初めて個展を開くことに。作品作りのために訪ねた地元の図書館では、処分される古い雑誌を譲ってもらった。使い終わって捨てられる物だけでコラージュを作るというのも千里さんのこだわりだ。続いては映画館で、公開が終わった映画のポスターを譲り受ける。さらに向かったのは地下鉄。大きなポスターが定期的に貼り替えられる地下鉄はずっと狙っていた場所で、折よくポスターを剥がしているところを手伝わせてもらった千里さんは、なかなかない大きさの紙を手に入れ大喜びする。
 こうして集めた雑誌やポスターの色味や柄から作品のイメージをふくらませていくが、実はいま千里さんは大きな壁にぶつかっていた。現状ほとんど仕事がないのは、自分の作品に何かが足りないから…今回の個展ではフランス人の生の反応に触れ、それが明確になればと考えている。
 コラージュを始めたのは14歳のとき。当時読んでいた雑誌を切り取り、手帳にスクラップしているうちに、雑誌のさまざまなモチーフが自分の手によって違う形で生まれ変わる過程に楽しみを覚えるようになったという。以来、コラージュは趣味として続け、大学卒業後はカーテン生地のデザイン会社に就職した。しかしうつ状態になり、体調を崩して退職。そんな心身ともに一番辛かったときに癒しとなり、自分を救ってくれたのがずっと続けていたコラージュ制作だった。その後、日本で出会った今の夫・エンゾさんとともに心機一転、フランスへ。現地で働きながら趣味のコラージュをSNSに投稿していると、それを見た日本の企業から声がかかるようになったのだった。
 義理の父・ジョンジャックさんは有名ファッション誌で活躍したカメラマンで、忖度なしに意見を言ってくれる貴重な存在。ある日は個展の作品についてアドバイスを求めた。これで自分の課題が見えてきた千里さんは、立体感や躍動感を意識した作品にチャレンジする。
 パリで開く個展では、これまでに作った抽象的な作品と、新たな作風で表現した雪山の作品を展示した。客足や反応に不安が募る中、ギャラリーがオープンすると、間もなくやってきたお客さんが作品を購入。その後もSNSで個展を知った人や通りすがりの人がたくさん立ち寄ってくれた。そんな様子に手ごたえを感じた千里さんは、もっと自分の作品を知ってもらおうと、パリのギャラリーなどに飛び込み営業を始めた。これまでは声がかかった仕事だけをやってきたが、これからは自分からどんどん売り込んでいきたいという。
 「娘は自分で売り込むことが苦手なので、たくさんの方に見ていただく機会をどう作っているのか…」と心配していた母・千加子さん、父・秀一さんだったが、娘の活動を見て感激。個展を開いたことにも「第一歩を踏み出せたんじゃないかなと思います」と安堵する。
 好きなことを信じて邁進し、今また新たな一歩を踏み出そうとしている娘へ、母からの届け物はかつて熱中したダンスの発表会の写真。厳しい先生のもと3歳から12歳まで続けたダンスは、母の「自分がやりたいと言ったら続けるんだよ」という言葉があったからこそ、辛くても楽しいと思えるところまでやり切れたといい、その満足するまであきらめない姿勢は今も変わっていないという。母がまとめたアルバムには、そんな好きなことと真剣に向き合い、楽しみながら表現していた当時の自分の姿があり、「ピュアに頑張っていたときを思い出す」と千里さんは涙を浮かべる。そして「そのままの私を応援してくれていることにとても感謝です」と両親に想いを伝えるのだった。