





今回の配達先はオーストラリアのシドニー。ここで保護猫カフェを経営する新井由紀さん(35)へ、神奈川県で暮らす父・俊成さん(64)、母・宣子さん(65)の想いを届ける。
2年前、保護団体から猫を一時的に預かり、新しい飼い主との出会いを提供する保護猫カフェ「ジジ・レスキュー・キャットカフェ」を立ち上げた由紀さん。現在カフェでは、飼育放棄されたり、捨てられた後に保護された9匹の猫が暮らしている。オーストラリアは衛生面に厳しいため、カフェスペースとキャットエリアは完全に別。さらに、なるべく猫に負担をかけないよう、キャットエリアに入れるのは1組限定。引き取りたい猫がいれば何度か来店してお互い慣れてもらい、保護団体の面接をクリアすれば譲渡されるという仕組みで、この2年で92匹が新しい家族に引き取られた。実は、自然保護の意識が高いオーストラリアでは、猫は厄介者。貴重な野生動物を襲ってしまう野良猫は処分の対象であり、政府が200万匹の殺処分を目標とするなど厳しい状況に置かれている。そんなこともあってオーストラリアでは猫カフェ自体が珍しく、保護猫カフェともなるとシドニーではここだけだという。
幼い頃から動物が大好きだった由紀さん。ずっと動物に携わる仕事がしたいと思っていたが、具体的な進路は決められないでいた。そして答えが見つからないままワーキングホリデーでシドニーへ渡り、現地で出会った日本人男性と結婚。自然豊かなシドニーで動物を目にする機会が増えると、改めて動物に関わる仕事がしたいと考えるようになった。だが、夫から理解は得られず、仕事にも結婚にも迷いを抱えるように。そんな由紀さんに大きな影響を与えたのが、2つ年上の姉・佑奈さん。シドニーに移住したことで会う機会が少なくなっていた頃に癌が発覚し、32歳の若さでこの世を去ってしまったのだ。このことに強い後悔が残った由紀さんは、自分に正直に生きようと31歳で離婚。猫カフェで働きながら資金を貯め、2年の準備期間を経て2023年に保護猫カフェを開業したのだった。
ようやく自分がやりたいことを形にした由紀さんだが、1人で保護猫カフェを運営するのは大変で、エサやりにトイレ掃除、爪切りなど毎日やらなければならないことは膨大にある。またシドニーは家賃が高く、加えて猫たちのエサ代や医療費、電気代などで支出は膨らみ、経営は常にギリギリだ。厳しい状況が続くが、一方で最近は口コミやSNSなどで徐々にお店の評判が広まり、多い日には20組近いお客さんが訪れるように。さらに、ボランティアスタッフや猫のエサを寄付してくれる団体など、少しずつだが由紀さんの活動に賛同してくれる人が増えてきている。
ある日、カフェにいる保護猫の新しい家族が決まった。ヴァービーという元捨て猫に一目ぼれした男性が保護団体の面接もクリアし、正式な飼い主となったのだ。引き取られていくヴァービーを見送った由紀さん。今の心境は、「甘くて苦いというか、うれしいし寂しい。でも獣医さんだったら悲しいお別れがたくさんあると思うけど、ここは新しい人生の始まりのハッピーな別れなので、すごく前向きなお別れです」と晴れ晴れとした表情で語る。
そんな娘の活動に、父・俊成さんは「見ていて、頼もしささえ感じます。手伝ってくれる人も多くてかなりほっとしてる感じです」と安心する。一方、母・宣子さんも「がんばってますね。由紀の中にお姉ちゃんが生きているんだと思いました」と目を細める。
一匹でも多くの保護猫が新しい家族と暮らせるようにとシドニーで奮闘する娘へ、両親からの届け物は猫のおもちゃ。家族がひとつずつ思いを込めて手作りしたもので、中には93歳になる祖母が作ったものも。由紀さんは家族に想いを馳せ、思わず涙がこみ上げる。そして「こんなにたくさん愛情をもらって返しきれないですけど、健康で自分らしく生きていくことがまずは一つの親孝行だと思ってますし、できる限りの親孝行はしたい。自分が幸せでいることはもちろん、私も愛情を伝えていきたいなと思います。かなり猫に注がれてるんですけどね」と、何があっても温かく見守ってくれる家族に感謝を伝えるのだった。