





今回の配達先は、ギリシャ。プロ水球選手の鈴木透生(とうい)さん(25)へ、山形県で暮らす父・功一さん(62)、母・博子さん(54)の想いを届ける。
オリンピック発祥の地であり、世界屈指の水球強豪国でもあるギリシャ。透生さんはそんなギリシャのプロリーグに飛び込んで、今年で3シーズン目になる。透生さんは水球の日本代表として東京・パリの二大会連続でオリンピックに出場。パリ大会ではキャプテンも務めた。現在は、16チームが競うギリシャのプロリーグで、昨年4位になった強豪チーム「パニオニオス」に所属。チームには約20人の選手がいて、2つしかない外国人枠の1人が透生さん。もう1人の外国人として、透生さんと同じく日本代表で活躍する先輩の高田充選手(29)が在籍している。
「水中の格闘技」と称される水球は、「泳ぐ」「投げる」「掴み合う」など様々な競技の特性が組み合わされていることから、ヨーロッパでは「キング・オブ・スポーツ」とも呼ばれ、人気も絶大。7対7で戦い、ボールを持つ選手になら掴んだり、沈めるなどのコンタクトが認められている。監督からは、俊敏性や判断力を高く評価されている透生さん。目下の課題は、接触プレーでもパワー負けしない体づくりだという。
練習が終わると、高田さんと共にチームが契約しているレストランで夕食。2人で同居する自宅に戻ると、さらに自炊し食事をとる。「栄養士やシェフがいるサッカーのトップ選手みたいなことはしてみたいですけど、水球の日本代表のリアルはこんな感じです」と透生さん。ヨーロッパではテレビ放送がある水球も、日本では、社会人が出られる大会は日本選手権のたった3試合のみ。「やっぱりお金を稼げるスポーツの方が、子どもたちも夢を見れる。そういった面では水球は全然。僕らも世界大会で結果が出せていないけど、今の状況でどれだけ結果を残せるか…僕らにできることはそれしかない」と現状を語る。
水球を始めたのは、小学1年生のとき。苦手な水を克服するため、3歳上の姉・琴莉(ことり)さんと共に水球チームに入った。先に頭角を現したのは琴莉さん。活躍する姉の背中を追いかけ、高校は姉と同じ埼玉の強豪校に進学する。両親は、姉弟が一緒に東京オリンピックに出場することを期待していたが、透生さんは長らく代表になれずにいた。そんな中、大学2年のときに新型コロナの影響でオリンピックの延期が決定。透生さんにとって延期はチャンスだった一方、姉は延期が原因で現役を引退する。姉弟で出場する夢がついえ、両親ががっかりする中、奮起した透生さんは実家に戻ると母の手料理を1日6食とり、課題だった体格面を強化。そして悲願の東京オリンピック出場を果たしたのだった。
ある日は、エーゲ海に浮かぶヒオス島でギリシャリーグの公式戦が行われるはずだったが、設備が故障し、試合は1週間延期に。しかし、そんなトラブルの間も透生さんはトレーニングに励んだ。今、戦い続ける理由、それは日本の水球のためだと透生さんは言う。「ギリシャリーグで個々の能力を上げて、日本水球を勝たせること。勝って水球の認知とレベルを上げる。そこに僕は尽きると思います」。
そんな姿に、「覚悟を持って行ったので…よくやってますよ」と感極まる父・功一さん。母・博子さんも「東京オリンピックのことは私たちもちょっと思いが強すぎて、姉の琴莉には背負わせすぎてしまったかなって思うんです。ただ、それを透生が鈴木家の夢として叶えてくれて、琴莉も本当に心の底から喜んでくれて…いい経験ができました」と振り返る。
強豪国へ渡り戦い続ける息子へ、家族から届け物は、透生さんが小さい頃から夢や目標を書き込み、自宅の壁に貼っていたたくさんのふせん。そこへ新たに、父と母、姉からのお礼と応援のメッセージが加えられていた。それらを見て、「今まで水球を頑張ってきてよかったなって思います。僕がこうなれたのも家族のおかげ。ずっとこれからも恩返しさせてねっていう気持ちが強いです」と透生さん。そして「お姉ちゃんもいつまでも僕の憧れですし、やっぱり結果で恩返しですね」と気持ちを新たにし、更なる高みを目指すのだった。