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#6412月20日(日) 10:25~放送
隠岐諸島

 今回の配達先は、島根県の隠岐諸島。魚突き漁師の吉川岳(たかし)さん(44)へ、徳島で暮らす母・良子さん(69)の想いを届ける。
 2016年、漁師を志した岳さんは会社を辞めて、家族とともに隠岐諸島に移住した。良子さんはそんな息子について、「元々海は好きだったみたいです。好きなことができて生活ができたらいいと思うんですが…ただ、大変ですよね」と危険な海に潜ることや、島での生活を心配する。
 島根半島の沖合50キロの位置にある隠岐諸島は、およそ180の島々からなり、大自然が作り出した複雑な地形を持つ。透明度の高い海中には入り組んだ岩礁帯が広がり、様々な魚たちの棲み家となっている。そんな隠岐諸島の西側、中ノ島で漁師をしている岳さん。一昨年からは水中銃を使った素潜り漁を始めた。この漁法で魚を獲るのは島で岳さんただひとりだ。メインターゲットは高級魚のクエ。一般的な水中銃に比べ、スピード、パワー、精度が格段に違う自作の銃で価値ある魚だけを狙い撃ちし、これまで30キロを超えるクエなど数々の大物を仕留めてきた。海底の穴に隠れるクエを狙って潜る深さは最高25メートル、8階建てのビルの高さほどを一気に潜る。1回に潜れる時間は2分足らずで、見つからなければ一旦浮上。クエを見つけても、小さい場合は資源確保のために獲らないという。こうして6時間以上獲物を追い、潜水と浮上を何度も繰り返す。魚突き漁を始めて1年足らずで体重が約10kgも落ちたというほど過酷な仕事だが、「狙った獲物だけを獲る」という釣りや網ではできない漁法に岳さんは魅力を感じている。
 かつては社会人野球で活躍し、プロからも注目される選手だった岳さん。物心がつく頃から、「息子をプロ野球に行かせたい」という夢を持っていた父と2人で全てを賭け、プロ野球選手への道を歩んでいた。そしてドラフト候補に名前が挙がるほどの投手となるが、ある日の練習中に打球が顎を直撃。大ケガの影響で以前のようなボールを投げることができなくなり、野球を断念する。その後、岳さんは生活のためサラリーマンとして会社に残り、結婚して子宝にも恵まれるが、またしても不幸が…。突如プロ野球選手への道が断たれたことが原因でうつ病を患い、症状も日に日に悪化する。そこで収入に不安はあるものの、野球以外に燃え上がれる仕事は漁師しかないと心に決め、隠岐へ渡ったのだった。
 岳さんを漁師へと導いたのもまた父だった。野球では厳しかったが、子どもの頃はよく魚釣りに連れて行ってもらい、海の楽しさを優しく教えてくれた。「小さい時になりたかった夢が、野球選手か漁師。だから2つめの夢を叶えにここに来た。結局、親父の影響はかなりありますね」。そんな父は、岳さんが再起を賭け島に渡ったわずか2ヶ月後にこの世を去った。今の姿を父に見せられなかったことが少し心残りだという。
 夢を断たれボロボロになって渡った隠岐で、素潜り漁師として家族とともに充実した日々を送る息子へ、母から届け物は岳さんと父の大好物である故郷・徳島のスダチ。添えられた手紙には、「お父さんは、野球をやめた時は残念と言ってましたが、今、頑張ってる姿を見たらきっと喜んでいると思います」と綴られていた。「魚にすごく合うんですよ」と喜ぶ岳さんは刺身にたっぷりとスダチをかけ、父と一緒に食べた思い出の味に顔をほころばせるのだった。