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#6371月16日(日) 10:25~放送
京都府・福知山市

 今回の配達先は、京都府福知山市。老舗のそば屋を継いだ佐々井飛矢文(としふみ)さん(36)へ、埼玉県で暮らす父・利夫さん(74)、母・啓さん(74)の想いを届ける。
 京都府の北部に位置する福知山市雲原。駅から車で30分程走った山の中にある「雲原大江山 鬼そば屋」は、7代目の店主で周囲から「七姫」と呼ばれている飛矢文さんと、40年女将として店を支えてきた中村麻美さん(61)の2人で経営している。この地域に170年前から伝わる太くて歯ごたえのある「鬼そば」が名物の創業125年になる老舗店だが、5年前、経営難から閉店の危機に。そのとき店を救いたいと7代目に手を挙げたのが、当時アルバイトをしていた飛矢文さんだった。大学で家政学を学んだとはいえ、調理師免許もなく経営も素人。しかし小さい頃から料理上手な祖母と一緒に料理を作っていたことから、女将も驚くほどの鋭い味覚を持ち合わせていた。すべてが手探りの中、まずは新メニューの開発に着手。器からはみ出すほどの大きな天ぷらをはじめ、味はもちろん見栄えもする時代に合わせたメニュー作りを進め、13種類しかなかったメニューを60種類に。そして太い麺をさらに太くして、鬼そば本来の姿を復活させた。女将として経験豊富な麻美さんと二人三脚で改革に挑み生まれ変わらせた鬼そばは、改めて村の名物となりお客さんを喜ばせている。
 両親ともに大学教授という環境で育った飛矢文さんは、父から「将来は大学教授になりなさい」と言われ続けていた。結局、母が専攻する家政学の道を選び、大学院にも進学。幼い頃から常にプレッシャーを感じていたというが、実はその胸の内には別の苦しみも抱えていた。「性別が相手や時によってコロコロと変わる人がいる。私はそれなのかなと…。女性の部分があり、男性でいる時がある」。中学の頃には既に自分の性に違和感があったものの、誰にも相談はできなかった。大学院時代には最悪の精神状態になり、死にたいと思うことが当たり前の辛い毎日を過ごしていたが、その頃始めたのが鬼そば屋でのアルバイト。女将である麻美さんがかけてくれた言葉が救いになったという。それからは大学教授を目指すことをやめ、親身になってくれた麻美さんの窮地を救おうとそば屋を継ぐ道へ。今では同じような生き辛さを抱える人の力になればと、セクシャルマイノリティに関する講演会も行っている。しかし、両親にはこれまで一度も自分のすべてを打ち明けられないままでいた。
 そんな飛矢文さんの姿を知り、父・利夫さんは「社会的な状況からしても、そういう悩みを抱えた人がたくさんいることがわかってきているが、幼少期は表面上分かりにくい。もう少し気持ちをじっくり確かめればよかったかなと思う」と悔やむ。母の啓さんも「繊細な性格ですし、頭はいい子なので組織に入ると叩かれるかもしれない。だから自分で思っていることをやっているのは精神的にはいいのかな」と今の生き方に理解を示す。
 廃業寸前だった店を立て直すため女将と奮闘を続け、気付けば早5年。長い時間をかけてようやく自分の居場所を見つけた飛矢文さんへ、両親からの届け物は紬の羽織。飛矢文さんが大好きだった祖母の着物を母がコートに仕立て直したものだった。添えられた母からの手紙には、ねぎらいの言葉とともに「いつかおいしいお蕎麦を味わうために雲原を訪れる日が来るのを楽しみにしています」というメッセージが。ぴったりのサイズに仕立てられたコートと両親の想いに、飛矢文さんからは喜びにあふれた笑みがこぼれるのだった。