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#62410月10日(日) 10:25~放送
イタリア

 2011年、イタリアのパラッツオーロという小さな街に滞在していた水中考古学者の山舩晃太郎さん(当時27)。かの有名なタイタニック号の調査も行った研究機関であり、水中考古学において世界一の呼び声も高いアメリカの「テキサスA&M大学」に在籍し、世界的権威であるフィリップ・カストロ博士が率いるチームの一員として奮闘していた。パラッツオーロにやってきた目的は、アドリア海へと流れ込むステッラ川に沈没した木造船の発掘調査のため。2000年も前に沈んだ古代ローマ帝国の船だというが、晃太郎さんは「水の中は保存状態がいいんです。どんな作業でも一番最初に遺跡を目にしたときがゾクゾクしますね」と目を輝かせる。船の全体像を掴むためには、まず水に潜って調査を行う。水の中の視界は悪く、手元がようやく見える程度だ。特殊な機械で船に堆積した泥を吸い込むと、今度は水の流れに逆らいながらメジャーで船体の細部をミリ単位でひたすら計測。こうして地道で過酷な作業で得た数値を元に、船を引き揚げなくても全体像がわかる3Dプログラムで船の形を再現し、歴史の謎を解明していく。今回は晃太郎さんがこの3Dモデルを作る役目を担っていた。
 幼い頃、映画「インディ・ジョーンズ」がきっかけで考古学に興味を持った晃太郎さん。大学卒業後、長年の夢を叶えるためスーツケースひとつで渡米し、テキサスA&M大学に入学。当時はまともに英語も話せなかったが、水中考古学の分野で世界一とされる憧れの研究機関に入るため1日20時間猛勉強し、狭き門をくぐり抜けた。アメリカにわたって5年。ようやく重要な作業を任されるようになったものの、いまだ学生の身であり、日本の両親が収入のない息子を支えてくれている。そんな両親に感謝する晃太郎さんの目標は、この研究チームで経験を重ね、世界でも数少ない船舶考古学博士号を取ること。「早ければ3年、遅くても4年以内には。その後は、両親が60代後半になったら日本に帰って、水中考古学を教えながら、何かあった時にはすぐに両親の元に行けるような場所で働きたい」。そして両親から晃太郎さんに届けられたのは、安全な潜水作業には欠かせない精度の高いダイバーウォッチ。世界的な水中考古学者になってからも使い続けられるよう、頑丈なものを選んだという。その想いに晃太郎さんは涙し、「早く名前が知られるような水中考古学者になって、もっともっと安心させてあげたい」と誓ったのだった。
 あれから10年。現在、ギリシャのフルニ島で発掘調査をしている晃太郎さん(37)とぐっさんが中継をつなぐ。取材以降も各国の政府や大学機関から依頼を受け、地中海、カリブ海、エーゲ海など世界中の発掘プロジェクトに参加。2016年には無事、船舶考古学の博士号を取得したという。また学会では、色も形も忠実に再現できる3Dモデリングの最新技術「フォトグラメトリ」を使った記録方法を発表。世界中の研究機関から高く評価された。さらに水中考古学をより多くの人に知ってもらうため、驚きに満ちた発掘現場でのエピソードをまとめた本を出版。「水中考古学者の数が少ないのが悩み。これでこの学問に飛び込んできてくれる人が多くなれば」と期待する。こうしてますます活躍の場を広げている晃太郎さん。かつて語っていた両親のそばで働くという夢や、お届けものの精度の高い頑丈なダイバーウォッチの後日談も明かす。