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#6106月13日(日) 10:25~放送
スペイン・バルセロナ

 2011年、スペインのバルセロナで天才建築家・ガウディの研究に情熱を注いでいた田中裕也さん(当時59)。バルセロナには「サグラダ・ファミリア聖堂」や「グエル公園」などガウディの作品が点在し、世界遺産にも登録されている。鮮やかな色彩と多用された曲線美が特徴の建築群の多くは、特異な構造ゆえに設計図が無く、ガウディのイメージ画を基に作られたという。そこで裕也さんはメジャーと定規を手にガウディ建築を実測し、正確な図面を作ることで天才建築家の意図を見出そうとしていた。実測でとったメモから図面を起こし、何度も現場に足を運んでは少しずつ図面を描き足す。その地道で気の遠くなるような作業の集大成ともいえるのが、5年の歳月を費やしたというサグラダ・ファミリア聖堂の実測図。50分の1の縮尺で、複雑を極めるガウディ建築を細部に至るまで完璧に描き切った。こうしたガウディの正確な図面は他ではほとんど見られないため、実測図は大学の研究施設や関連機関でも貴重な資料として利用されている。裕也さんは、「ガウディ建築に隠されているものが、測ることや絵にすることで見つかる…その面白さ、喜びでずっとやってきた」と研究の魅力を語る。
 大学で建築を学んだ裕也さんは、建築事務所に就職するも学生時代に出会ったガウディが忘れられず3年で退職。しかし、仕事を辞めてスペインへ行こうと考えたとき、「外国に行けば日本のことを尋ねられるだろう」と考え、まずは自分の足で日本を見るため自転車で日本縦断を決行する。「それは僕にとっては小さな冒険だったが、やりたい道へのきっかけを作ってくれた」。裕也さんはその情熱を携え、何のあてもないスペインへ渡ったのだった。
 以来30年以上、ガウディ研究の道をひた走ってきた裕也さんが最も好きなガウディ建築が「コロニア・グエル教会」という地下聖堂。研究一筋の裕也さんをずっと支えてくれた妻・パトロシニオさんと結婚式を挙げた特別な場所でもある。ガウディの隠れた最高傑作ともいわれるが、実は100年前から未完のまま。裕也さんは自身の最後の課題として、ガウディのデッサン図と新たな測定を基に、さらに精度の高い完成予想の実測図を作ろうとしていた。
 ガウディに魅せられ、その研究に人生を捧げる裕也さんに日本の兄から届けられたのは、かつてスペイン行きを決意した日本縦断旅行の相棒となった自転車。「このまま研究を続けろって意味かな? でも言葉なんていらない…これだけで嬉しい」と、兄の想いに涙があふれた。
 あれから10年。ぐっさんと裕也さん(69)がリモートで中継をつなぐ。2012年にはぐっさんがバルセロナを訪れ、対面を果たした2人。当時は観光客でにぎわっていたサグラダ・ファミリア聖堂の周辺も、現在はコロナ禍で人もまばらだ。裕也さんがこれまでの実測から発見した、ガウディの隠された意図である「ガウディコード」。取材当時はおよそ400点程だったのが、今はその数が600点を超え、関連する書籍も出版しているという。スペインに渡って40年以上が経ち、様々な状況が変化する中、今なお精力的な裕也さんに驚くぐっさん。そして「僕には休みはありません。スペインに来た時から休みはないです」と笑う裕也さんが、これからの夢を語る。