過去の放送

#58612月6日(日) 10:25~放送
福岡県・飯塚市

 今回の配達先は、福岡県飯塚市。サーカス団員として全国を旅する伊藤鈴華さん(24)へ、鳥取県で暮らす母・由紀子さん(48)の想いを届ける。
 鈴華さんが所属する「ハッピードリームサーカス」は世界各国からパフォーマーを集め、西日本を中心に巡業するサーカス団。普段は2~3か月ごとに各地を回っているが、新型コロナウイルスの影響で今年4月からは飯塚市にとどまり公演を続けている。鈴華さんが出演するのは、サーカスの目玉演目のひとつ「カースタントショー」。逆円すい状のケージの中を自転車で駆け巡るという、スピードがゆるんだりバランスを崩すと落下してしまう危険なパフォーマンスだ。
 人生の転機は、20歳の時に地元・鳥取で初めて見たサーカス。その世界観に心を奪われ何度も観覧に行った鈴華さんは入団を直談判し、音響スタッフとして採用される。その後、仲間たちの練習を目にするうちにパフォーマンスへの思いが募り、そこで始めたのがバイクスタント。どんどん夢中になって練習や体力作りに打ち込み、遂に昨年、サーカス団で唯一の日本人パフォーマーとして念願のデビューを果たした。日常生活をおくるのは、華やかなショーが行われるテントのすぐ裏。共同生活する20人ほどの外国人パフォーマーは南米出身者が多いため、バックヤードの共通語はスペイン語。鈴華さんも入団当初はまったく話せなかったが、今や日常会話は難なくこなし、彼らとスタッフの橋渡し役も担っている。団員たちはコンテナで暮らし、公演場所が変わるたびにコンテナごとトラックで引っ越す。風呂はシャワーのみで24歳の女性にとっては少々過酷な環境だが、この場所が鈴華さんの職場であり我が家でもある。
 実は鈴華さんが幼少の頃、両親が離婚。さらに小学5年生のとき母が心の病を患い、児童養護施設に預けられることになった。施設での集団生活は今のサーカスとも似ていてむしろ好きだったといい、当時の写真を見ると鈴華さんはいつも笑顔。だが、高校1年生で実家に戻ることになると母との距離が縮まらず、何度も衝突し家出を繰り返したという。再び親元を離れて飛び込んだサーカスの世界に、母を招待したことはまだない。公演では、通常700人ほど入る客席も新型コロナウイルスの影響で今は100人ぐらい。それでもパフォーマーは常に全力投球で挑み、会場を盛り上げる。今も昔も“笑う”ことを大切にしているという鈴華さんも笑顔でショーを繰り広げるが、ステージを降りると「年齢も24歳だし、何年かしたら家の中にトイレやお風呂がある普通の生活に戻りたい」と本音も。そんな現在の鈴華さんを見た母・由紀子さんは、危険なパフォーマンスやスペイン語で会話する姿に驚いた様子。かつて一緒に暮らしていた頃は「それまで距離が離れていた分、あまり分かりあえていなかったのかもしれない」と、母子関係にすれ違いがあったと明かす。ただ今は「何年も続けられないと思うので、一番は鳥取に帰ってきてほしい」と願っているという。
 非日常の世界に憧れ、念願を叶えてその世界の住人になった鈴華さん。仲間と共にたくましく生きる娘へ、今なお後悔の気持ちを伝えることができないまま生きてきた母の想いが届く。