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#5739月6日(日) 10:25~放送
沖縄県・石垣島

 今回の配達先は、沖縄県。透明度の高い海と豊かな自然が残る石垣島で舟大工として奮闘する吉田友厚さん(45)へ、長野県に住む母・順子さん(74)、弟の公信さん(43)の想いを届ける。兄のことを「好奇心の赴くままに動く人間」だという公信さん。順子さんは息子が石垣島に渡った目的もよく知らなかったといい、「『やっていけるの?』と思ったんですけど…」と心境を明かす。
 島北部の久宇良地区に工房兼自宅を構える友厚さん。その小さな集落の目の前には波の浸食でできた手つかずのビーチが数多くあり、人気観光地の石垣島でも穴場的なエリアだ。友厚さんが手掛ける沖縄伝統の舟「サバニ」は、古くから漁業や物資の輸送、生活の足として使われてきたもの。海水に弱い鉄は一切使わず、木の板を「フンドウ」と呼ばれるかすがいなど先人から伝えられた技法を用いて隙間なくつなぎ合わせ、舟にする。完成したサバニはまるで1本の丸太から削り出したかのような滑らかな形状。注文に応じて年間3艇ほど造っている。
 友厚さんは東京生まれ東京育ち。高校卒業後も特に目標はなく、母が営んでいた居酒屋を手伝うなど様々なアルバイトをしながら毎日をおくっていた。漠然といろんなことを経験したいと考えながらも心から夢中になれるものが見つからず、都会での生活に息苦しさを感じていた頃、友人から石垣島で一緒にレストランをしないかと誘われる。これを機に2004年、28歳で妻と幼い息子と共に移住。店は早々につぶれてしまったが、島の環境に魅了された友厚さんはそのまま留まり、家族を養うため農業や土木作業などあらゆる仕事に従事する。そんな中、ある1冊の本をきっかけに突如サバニ造りを始めたのが2012年。石垣島の舟大工・新城康弘さんが高齢のためサバニ造りを辞めると知った友厚さんは居ても立っても居られなくなり、本人に会いに行ったのだった。そこで新城さんから「サバニを造りたいのか?」と聞かれた友厚さんが「はい」と答えると、その場で弟子入りが決まったという。こうして37歳にして舟大工に。「以前は、お金を稼がないと生きていけないし、生きていくためだけに頑張っていたけど、新城さんとサバニに出会って人生が本当に変わった」と振り返る。
 風の力だけで海を進むサバニはとても静か。友厚さんはそんな舟の良さを知ってもらうためにクルージングツアーを行っている。エンジンを使わない小さな舟だから行ける絶好のスポットへ案内するシュノーケリング付きのツアーも人気で、観光シーズンには毎日のように予約が入るほど。娘も学校が休みの日は父のお手伝いをしてくれる。高校時代から付き合う妻、独立してガイドの事業を起こそうとしている息子、そんな家族と過ごす時間を何よりも大切にしている友厚さん。自身が子どもの頃は家庭環境が複雑で、家族がバラバラだった。だからなおのこと今はこういう生き方がしたいのだという。そしてこれまで転職を繰り返してきた彼の将来を心配する母と弟には、「死ぬその日までサバニを造っていたい」と伝える。
 石垣島に渡り16年。紆余曲折ありながらもサバニと出会い、生きる道を見つけ家族と幸せな時間を過ごす友厚さんへ、長野で暮らす母の想いが届く。