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#5708月9日(日) 10:25~放送
カンボジア・シェムリアップ

 今回の配達先は、カンボジア。世界遺産のアンコール・ワットをはじめ、数多くの遺跡を擁する観光都市・シェムリアップでクラフト工房を営む古白川真さん(35)へ、兵庫に住む父・正蔵さん(63)、母・裕子さん(58)の想いを届ける。
 土産物店が多く立ち並ぶシェムリアップ。真さんは市内のアパートの一角に小さな工房を持ち、財布やカードケースなど革製品を製作している。ブランド名は「Andkow&Co.」(アンドコウ・アンドコー)。「コウ」には、アンコール遺跡の「コー」、カンボジア語で牛を意味する「コー」、革の香りの「香(こう)」など様々な意味が込められている。主に観光客向けに販売しているため価格は少し高めだが、欧米のヴィンテージ品のように、今作っているものが50年後、100年後に「カンボジアンヴィンテージ」と呼ばれるようなものになればと願う。工程は全て手作業。技術は独学で身につけた。
 ヤンチャな少年時代を過ごしてきたという真さん。中学生の時にギターにはまり、音楽で生きていこうと決め高校入学後すぐに中退する。17歳でロックバンドを結成。インディーズで全国ツアーを開催するほどの人気グループに成長し、レコード会社からメジャー契約の話が持ち上がるが、その頃ケンカが原因で警察沙汰に。父親が謝罪する姿が目に焼き付き、改心した真さんは23歳で音楽をやめ放浪の旅へ出た。世界中を巡る中、シェムリアップの人々の優しい人柄に惹かれ、6年前にカンボジアに移住。全財産をつぎ込んで会社を立ち上げたのだった。1日の売り上げは多い時で10万円ほどになるが、全く売れない日も。家賃やスタッフの給料、材料費などを差し引くと手元にはほとんど残らず、贅沢とは一切無縁の暮らしが続く。
 真さんが今、レザークラフトに加えてブランドの看板商品として力を入れているのが、空になった弾丸の薬きょうを溶かした真鍮で作るアクセサリーや食器。いまだに地雷や不発弾が大地に潜むカンボジア。真さんもその現実を知りたいと地雷撤去の現場に出向き、内戦の悲惨さを肌で感じてきた。こうして考えたのが「銃器を什器に」「武器を食器に」をコンセプトにした、カンボジアの歴史を映す新しい工芸品。「人を殺す武器が人を輝かせるアクセサリーになる。ネガティブなものがポジティブなものに変われることを、ものづくりとして伝えたい」。自身も歩んできた破天荒な人生。だからこそ「人は生まれ変わることができる」というメッセージを込め作品を作っている。
 ある時、真さんがやってきたのは、カンボジアに古くから伝わる影絵芝居「スバエク・トーイ」の体験工房。影絵で使う人形は硬い牛の皮を彫って作られたもので、この伝統芸能の技術を自身のブランドに取り入れ斬新な作品を作りたいと思っている。「大きな企業を目指すとかではなく、少数精鋭でもいいからシェムリアップから世界で、いいもので勝負できる会社を作りたい」と将来を語る真さん。そんな息子に対してずっと気を揉み、今は何をしているのかと心配していた母の裕子さんは、カンボジアでの姿に驚いた様子。父の正蔵さんも「学校の勉強にはあまり興味を示さなかったけど、必要なことに対しては必死で本を読んだり勉強はしていたんですよね」と思い返す。
 ものづくりを生業として4年。常に新しいアイデアを追い求め、「カンボジアンビンテージ」という未来に残る文化を生み出そうとしている息子へ、日本の両親の想いが届く。