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#5595月17日(日) 10:25~放送
海の向こうの大切な人は今… イタリア・クレモナ

 2017年に取材した、イタリア・クレモナ在住のヴァイオリニスト・横山令奈さん(33)。クレモナは、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染がイタリア国内で最初に広がった地域で、長年暮らす令奈さんも「ずっと家に2か月こもっている状態。街にも全然人が歩いていない」と深刻さを伝える。そんな状況の中、令奈さんは市内の病院の屋上でヴァイオリンを演奏。日本人ヴァイオリニストが医療従事者に届けた音は世界中で注目を集め、この模様を収めたYouTubeの動画再生回数は3週間で38万回以上にも。日本のメディアにも数多く登場し、一躍時の人となっていた。
 令奈さんがクレモナに渡ったのは今から14年前。クレモナは現在のヴァイオリンの形が誕生した街で、16世紀以来名だたる名器を数多く生み出してきた。現在も140軒以上の弦楽器工房が軒を連ね、世界中の職人が憧れるヴァイオリン作りの聖地。3年前、令奈さん(当時30)はストラディバリウスをはじめ300年以上前に作られた巨匠たちの名器が展示・保存される「ヴァイオリン博物館」で、貴重なヴァイオリンを演奏するコンサートを任されていた。ここで演奏を許されているヴァイオリニストはわずか3人しかおらず、令奈さんは唯一の外国人。権威ある本場のヴァイオリン博物館で日本人が演奏するのは異例中の異例で、そのニュースはイタリアのメディアでも度々報じられているほど。さらに2017年にはクレモナを代表してEU(欧州連合)の本会議場で演奏するなど、新進気鋭のヴァイオリニストとして脚光を浴びる存在となっていた。
 両親はヴァイオリニスト。自宅もヴァイオリン教室だったこともあり、7歳で本格的にヴァイオリンを始めた。高校卒業後はクレモナの音楽院に留学。令奈さんの1年後からヴァイオリンを習い始めた2歳年下の妹・亜美さんも、後を追うように同じ学校に留学した。だが2012年、闘病中だった母が亡くなり、亜美さんは母が残したヴァイオリン教室を継ぐため日本に帰国することを決意。そこから姉妹は別々の道を歩むことになる。イタリアに残った令奈さんは、イタリア人の恋人でピアニストのディエゴさんと「トリオカノン」という音楽グループを結成。ヴァイオリニストとしてさらにステップアップするための新たな挑戦だったが、「自分も日本に帰るべきだったのか…とか、妹に対して色んな罪悪感がある。どうすればよかったのか」と、志半ばで帰国した亜美さんに複雑な思いを抱いていた。そんな令奈さんの元に届いた妹の想い。亜美さんは「2人がそれぞれ違う場所で生きているから、これだけ刺激をもらえる」と姉に感謝した。
 あれから3年。父が2年前に急逝するが、他界する前に「トリオカノン」の来日公演が実現。さらに亜美さんとのコラボでコンサートを企画するなど活躍を続けていた。一方、イタリアでは新型コロナウイルスによる被害が深刻化。多くの人が自宅待機を余儀なくされる中、静寂しかないクレモナの街にヴァイオリンの音を響かせてほしいという依頼が令奈さんに舞い込む。こうしてスピーカーを通じて街中に演奏が流れたのをきっかけに、厳しい状況で働き続ける医療従事者にも音色を届けてほしいとの話が持ち上がり、大きな反響を呼んだ病院でのコンサートにつながったという。「ヴァイオリンの聖地で長年生きて来たからこそ、弓と弦で何かできることがあるのではないか」、その一心で演奏したという令奈さん。医療関係者への感謝の気持ち、そして患者が早く日常生活に戻れるようにとの祈りが“第二の故郷”に響き渡った。