過去の放送

#53811月24日(日) 10:25~放送
オランダ・ロッテルダム

 今回の配達先は、オランダ・ロッテルダム。写真家として奮闘する大谷臣史さん(47)へ、滋賀に住む父・司朗さん(83)、母・隆子さん(76)の思いを届ける。
 ロッテルダム市内北部にある臣史さんの自宅。アトリエには、4×5インチの大判カメラなどクラシックな機材が並ぶ。スマホで手軽に写真が撮れる中、あくまでフイルムにこだわる臣史さんはルーペを使ってピントを合わせるなど手間をかけてカメラをセッティングし、1枚のフイルムに魂を込めて撮影。また時間を見つけては街へ繰り出し、肌身離さず持ち歩くフイルムカメラで何気ない風景を独特の感性で切り取っている。そんなカットを写真集にまとめるなど地道な活動が実を結んで、7年前、世界中から若手フォトグラファーが集まるコンテストでグランプリを受賞。今ではオランダ王室公認の写真家にまで上り詰め、数々のVIPを撮影してきた。
 実は、臣史さんの父・司朗さんは無形文化財に選ばれた信楽焼の名匠。臣史さん自身も、将来は父と同じ陶芸家になるだろうと漠然と考えて修業を重ね、信楽で焼き物を作っていた。だが自身の焼き物に対する情熱に疑問を感じ始め、31歳の時にオランダに渡り芸術大学へ。ところが、自分の殻を破るために来たはずが、陶芸家としてのキャリアとプライドが足かせとなり行き詰まってしまう。そこで子どもの頃から好きだったカメラで現状打破できないかと、2年目で陶芸科から写真科へ移籍。35歳でフォトグラファーに転向したのだった。
 ある日、臣史さんの元に大きな仕事が舞い込む。それはオランダフィルハーモニー管弦楽団に所属するチューバ奏者からの指名で、ソロ活動用のプロモーション写真を撮影するというもの。130年以上の歴史を誇る世界屈指のコンサートホール「コンセルトヘボウ」を舞台に、与えられた時間は3時間。臣史さんは、あえて手間のかかる大判カメラで挑む。フイルム撮影は失敗が許されない一発勝負。照明をチェックするため、デジタルカメラで何度も撮影して確認しながら、被写体と楽器、コンサートホール、すべてのバランスを瞬時に見極め理想のカメラ位置を探っていく。さらにピント合わせなどをしてようやくフイルムを入れたのは、セッティングを始めてから40分後。撮影したのはわずか2カットだった。「こういうカメラは、じっくり考えて本当にこれなら大丈夫という写真を撮るので、“とりあえず撮っとく”というのはない」と、1枚に全力を注ぐ。
 写真を始めたきっかけであり原点は、父・司朗さんが自作の焼き物を撮影していたフイルムカメラだった。子どもの頃、初めて使ったときの感激を今も記憶する臣史さんは、よく司朗さんが所有するカメラを借りていたという。司朗さんは「まさか向こうに住みついて写真をやるとは、青天の霹靂だった」と当時の驚きを振り返りながら、「僕もカメラが好きで、色々さわっていたのを子どもの時から見ていたのだろう。やっぱり、カメラはやっている工程がすごく面白い。焼き物と一緒で失敗もする、それもまた面白いのかな」と理解を示す。
 周囲が期待する「2代目」の看板に反発し、父とは違う新しい焼き物を作ろうとオランダにやってきて16年。道は違えど、同じ芸術家として作品を生み出す息子へ、信楽で窯を守り続ける父の想いが届く。