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#48710月21日(日)10:25~放送
アメリカ・シアトル

 今回の配達先はアメリカ。シアトルで照明デザイナーとして奮闘する木下有理さん(47)へ、滋賀県に住む父・敏明さん(77)、母・千枝子さん(72)の思いを届ける。敏明さんは、「娘は表面上すごく明るいが、人に迷惑を掛けないようにする子だから逆に心配。実際、日本に帰りたいと思っているのかが一番気になる」と、有理さんの胸中を推し量る。
 シアトルの繁華街にある人気の日本食レストラン。京都をテーマにした店内を彩る照明のほとんどは、有理さんが半年かけて手作りしたものだ。店名である「もみじ」をイメージしたものや、「Koinobori」と名付けられた全長3メートルもある巨大なものなど、誰も見たことがない形の照明から放たれる光は柔らかく周囲を包み込み、店内に温かい雰囲気を生み出している。有理さんが主に手掛けるのは「ウォーブンライト」という照明。風合いを失わないよう手で細長く切った帯状の和紙を編み込んで形作り、和紙の質感と網目からこぼれる光が空間を演出する。原点は、幼い頃を過ごした京都の町家。中庭から障子を通して差し込む光が心地よく、その記憶が作品のベースになっているという。
 高校卒業後、専門学校でインテリアデザインを学んでいた有理さんは、学校の課題で初めて照明を制作。電気をつけた時と消した時で表情が違うことが面白く、すっかり魅了されたという。やがて照明デザイナーとして活動していこうと決意するが、日本で個展を開いても買い手は全くなく、自分のやっていることは受け入れてもらいにくいと感じていた。そんなとき、ロサンゼルスで個展を開くと作品が売れ、続いて開催したシアトルでも大好評。「アートを買う習慣が定着しているアメリカなら誰かの役に立てる」と、渡米したのだった。今では有理さんの照明は店舗から個人宅までさまざまな場所を彩り、型にはまらないユニークさが建築のプロからも注目を集め、大きなビルなどでも採用され始めた。さらに、郊外の日本庭園で催される親日家に人気の月見イベントで、有理さんの作品が特別に展示されることに。和紙を染める手法で制作したのは、6輪の朝顔。夕暮れのシアトルに咲いた光の花は多くの人々の心を捉えた。
 アメリカで活動を始めて12年。実は照明デザイナーになる前、有理さんは11年もの間実家の呉服店で父とともに働いていた。学生時代、好きだったモノ作りへの熱い思いから呉服店を辞め独立の道を選ぶが、一緒に働いたからこそ父の偉大さを知ったという。跡を継がなかったことに後ろめたさを感じながらも、「日本に帰りたくなる時もあるけど、自分で選んだのだから弱音は吐けない」とも…葛藤を抱えながらも、自らの感覚を信じて光を生み出し続ける有理さん。そんな娘の元に、父の長年の想いが届く。