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#44511月19日(日)10:25~放送
ノルウェー

 今回の配達先は雄大な自然が広がるノルウェー。民族楽器職人として修業をしている原圭佑さん(30)と、神奈川県に住む父・晴一さん(66)、母・洋子さん(67)をつなぐ。日本でヴァイオリン製作をしていた時に、ノルウェーの民族楽器「ハーディングフェーレ」と出会い、2年前にノルウェーに渡った圭佑さん。両親は「どういうきっかけでハーディングフェーレに出会ったのか、どんな仕事をしているのか…詳しいことは何も話してくれないから分からない」といい、遠く離れた息子を心配している。
 「ハーディングフェーレ」は、ヴァイオリンよりひと回り小さい弦楽器。古くからノルウェーでは、冠婚葬祭の時にこの楽器の演奏に合わせて踊り、家族や地域コミュニティーを結び付けてきたそうで、生活に欠かせない楽器だという。特徴は、ネックの先端や表面に施された優雅な装飾。手の込んだ彫刻と、貝や動物の骨で白く色づけされた幾何学模様は、工芸品と呼べるほど美しい。構造的な特徴は、弦の下に張られたもうひとつの“共鳴弦”で、共鳴することによって音に奥行きが生まれるという。
 本場ノルウェーでもハーディングフェーレ職人は10人に満たない。そんな職人のひとり、オッタールさん(33)のもとで、古くなった楽器や壊れた箇所の修復、そして製作までを学んでいる圭佑さん。日本人のハーディングフェーレ職人として、ノルウェーで今注目を集め始めているという。
 高校時代に楽器職人になることを志し、イギリスの楽器職人育成の名門校「ニューアークバイオリン製作学校」で4年間学んだ。その後、日本でヴァイオリン職人として働いていた時に、ハーディングフェーレの存在を初めて知り、ひと目で虜になった。「旅行で本場ノルウェーを訪れ、短い期間だったけど、コンサートに行ったり、ノルウェーの自然や生活を見ることができた。日本に帰って、あらためてハーディングフェーレの音を聞いたとき、パッとノルウェーの風景が浮かんできた。壮大な自然にとても合った楽器だからこそ、ノルウェーで生まれたんだということがすごくよく解って…。そこで初めて“僕はこの楽器を作りたいんだ”と確信しました」。今は、自然豊かなノルウェーの地で楽器作りを学ぶことに、大きな幸せを感じているという。
 だが、修業の身なので収入はなく、貯金を切り崩す生活。食事は自炊中心で、買い物も必要最低限のものしか買わない。「節約できるところは節約して、伝統音楽のイベントなどがある時には、ちゃんとお金を使えるようにしていたい」と圭佑さん。すべての時間と情熱を楽器作りに捧げるストイックな姿勢は、彼が高校生の頃に、母親が病で倒れたことに起因しているという。当時、回復の確率が30%、亡くなるか後遺症が残る確率がそれぞれ30%という深刻な状態だった。「親にはまだ何も恩返しできていないのに…と、その事実を受け止められなかった」と圭佑さん。自分の進むべき道を見つけ、その道で一人前になることが親への恩返しになる…その決意を胸に今、わき目も振らず職人の道を突き進んでいるのだ。
 そんな圭佑さんに日本の母から届けられたのは、母手作りのアップルパイ。懐かしい味をほおばった圭佑さんは、「ヴァイオリン製作者になりたいと言い出してから、ずっと何も言わずに見守ってくれ、必要な時には助けてくれた両親には本当に感謝している。ここで学んだことを活かして、自分の力で生きていくことが、僕がするべき恩返しだと思う」といい、両親に感謝するのだった。