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#2875月25日(日)10:25~放送
メキシコ/チアパス州

今回のお届け先はメキシコ・チアパス。マヤ民族の音楽と言語を織り交ぜた曲が国内外で評価を得ているバンド「サク・ツェブル」のバイオリニスト・渡辺りえさん(45)と、徳島に住む父・謙さん(74)、母・恵子さん(73)をつなぐ。7年前、自分らしく生きたいと、順風満帆だった生活を投げ打ってマヤの村へ移住したりえさん。両親は「寝耳に水だった。異文化過ぎて、あり得ないという感じだった」といい、以来、お互いにわだかまりを抱えたままだという。

 マヤの血を引く夫のダミアンさん(36)がヴォーカルとギターを務める「サク・ツェブル」は結成18年。7年前にりえさんが加わって、現在のギター、バイオリン、ベース、ドラムという形になった。失われつつあるマヤ民族の音楽にロックやクラシックを織り交ぜ、マヤ民族固有の言葉を乗せた彼らの曲は、国内外で評価を得、海外でも精力的にライブ活動を行っている。

 4歳でバイオリンを始めたりえさんは、アメリカのジュリアード音楽院を経て、ウエスタンイリノイ大学を優秀な成績で卒業。カナダ人男性と結婚し、オーケストラのソリストとして活躍するなど、人生は順風満帆かに思われた。だが「あるとき、目がぼやけてモノが見えなくなってしまったんです。精神的なものだったと思う。競争社会で、どこかで怯えながら演奏していたと思います」とりえさんは振り返る。

 精神的に追い込まれ、日常を離れようと訪れたのが、マヤ系の先住民族ツォツィル族が暮らすシナカンタン村。そこでふと耳にしたマヤ音楽に心を打たれた。「涙が止まらなかった。肩から重荷が取れ、そんなに急がなくていいんだと思えるようになった」。そして38歳の時、何不自由のない暮らし、家族、すべてを捨てて、この村へ移住を決めたのだ。「やむなく離婚をしてしまい申し訳なかったが、今やっと幸せな自分を見つけられた」とりえさんはいう。

 この村でダミアンさんと出会い、新たな人生を歩むことになったりえさん。今はダミアンさんの両親や祖母、親族らと共に、総勢15人でシナカンタン村の同じ敷地内に暮らす。村はまだまだ囲炉裏が一般的で、水は朝1時間だけ出るものを溜めて使う不便な生活だが、りえさんはダミアンさんや家族に愛され、満ち足りた生活を送っている。

 自分らしくいられるこの村での生活を選んだものの、「両親には申し訳ないと思っている。でもチアパスに来る決断をせず、カナダや日本にいたとしたら、たぶん自分に嘘をついて一生悔やんだと思う」とりえさん。両親とわだかまりができてしまったこの7年、本当はそんな本心を知ってほしかったという。

 今回、りえさんはチアパス最大の祭りのステージで、バイオリンを弾きながら日本語の新曲を披露した。自身が作詞したもので、”時計の針に怯えた日々に 別れを告げよう もう恐くない”というその歌詞に、父が「胸に響いた。あの子が何を考えているかよくわかった」と感極まる場面も。

 そんな両親からりえさんに届けられたのは、手作りのアルバム。りえさんが生まれてから、少しずつ成長していく姿と、それを見守る両親の温かな思いがあふれていた。アルバムを眺めながら「こうして見ると、ひとりで生きてきたんじゃないんだなと思う」とりえさん。父の手紙には「お父さんはいつもりえのことを見守っているから」と応援の言葉が綴られ、りえさんは感激の涙をこぼすのだった。