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#21210月7日(日)10:25~放送
コロンビア/カリ

 今回の配達先はコロンビア共和国のバジェ・デル・カウカ県カリ市。スポーツが盛んなこの街で、体操コーチとして奮闘する仲里隆太さん(29)と、大阪・住吉区に住む父・隆さん(52)、母・加代子さん(53)をつなぐ。隆さんが所属するのは、生徒がおよそ150人、コーチが20人の大規模な県の体操クラブ。指導するのは、18~20歳までの県の代表選手たちだ。4年後にブラジル・リオデジャネイロで開催されるオリンピック出場を目指している。

 幼い頃から体操のエリートコースを歩み、日本代表選手として活躍した隆太さんだが、指導者になったのはここコロンビアが初めて。現役を引退した後は日本でコーチの道を選ばず、一般企業に就職し、体操から離れたのだ。「体操の競争に疲れた。体操には関わりたくなかった」という隆太さん。十代の頃からトップ選手としてライバルたちとしのぎを削り、アテネ、北京ともオリンピック代表にあと一歩の所まで迫ったが、ケガのため出場は叶わなかった。ライバルたちが活躍するオリンピックを「普通の気持ちでは見られなかった」。そんな悔しい気持ちをバネに、隆太さんはコーチとしてオリンピック選手を育てるという新たな夢を描き、コロンビアにやって来たのだ。

 このクラブにヘッドコーチとして就任した隆太さんは、代表選手の育成はもちろん、現地コーチ陣の指導も任されている。しかし、ここには一貫した指導計画がなく、選手は難易度の高い派手な技は出来るのに、基礎的な細かい技が出来ないという問題があった。コロンビアのコーチ陣は地味な基礎より、派手な技ばかりを教えたがるのだ。「彼らには技が綺麗かどうかは関係ない。派手な技をやらせて選手の成長が止ってしまうこともある」と隆太さんは憂う。基礎をしっかり教えたい隆太さんは、就任早々指導方法を巡ってコーチ陣と対立し、確執は未だに続いているという。

 そんな中でも彼の指導の元、少しずつ成長を見せつつある選手たち。先ごろのロンドンオリンピックを、隆太さんは初めて素直な気持ちで見られたという。「今は選手のためにどうやったらいいかを考えながら、普通の試合として見られるようになった」という。選手たちと共にオリンピック出場を夢見る隆太さん。だがオリンピックを目指すにはほど遠い環境と意識の違いが、大きな壁となって立ちはだかる。「ここに来て1年半。変わらないことに疲れた。ここに残るか、日本に帰るか…今、悩んでいる」。隆太さんの心は折れそうになっている。

 そんな隆太さんを支えているのは父の存在だという。「父は絶対に妥協をしない人。尊敬している。今まで父に褒められたことがないので、"すごいな"と褒めてもらいたい」と隆太さん。これまで弱音を吐いたことがなかっただけに、父は「心の中では息子を褒めたいと思っても、なかなか言えなかった。今度帰ってきたら褒めてやりたい」という。

 理想と現実の間で悩む隆太さんに、両親から届けられたのはDVD。指導の役に立ててほしいと、母が撮り溜めた映像の中から全盛期の隆太さんの演技を集めたものだ。父の手紙には「ちゃんと食べて、ぼちぼちお互い人間として大きくなっていこか」と、隆太さんの心を解きほぐすような言葉が綴られていた。隆太さんは「中途半端には帰れない。やるべきことをやって、胸を張って帰りたい」と、決意を新たにするのだった。