◆ことばの話3665「荒療治」

その日もいつものように「情報ライブミヤネ屋」の字幕スーパーのチェックをしていました。その日は、地球一周の「アースマラソン」に挑戦している間寛平さんが、ニューヨークに到着するという日で、中継を交えてお伝えするという内容。その中にこんな言葉のスーパーがありました。
「荒治療」
ウン?何かおかしいぞ、とジーっとこの文字を見つめていたら、ハッと気付きました。これは正しくは、
「荒療治」
ですね!よく見てください、似てるけど、違うでしょ。
「荒治療(あらちりょう)」
なんて言葉はないと思いますが。言葉の覚え間違いですかね?「荒療治」は、
「あらりょうじ」
と読みます。覚えておいてくださいね、とスタッフに念押ししました。でも、もしかしたら、世の中には間違って使っている人が、ほかにもいるかも・・・。Google検索では(7月21日)
×「荒治療」=2万5500件
○「荒療治」=9万0500件
でした。ほら、やっぱり!結構間違って使っている人、多いですよ!要注意ですね。間違った使い方を見てみると、
「爪水虫の荒治療法」
「金属棒にベンチ、荒治療だけど爆速で口内炎を直す方法」
「壊れやすいXBOX360を荒治療」
「荒治療ですが」
「三十路手前の荒治療」
といった具合。気になったのが一つ。
「荒治療院」
というものですが、これは「荒」さんという苗字の方がやってらっしゃるマッサージ整体の「治療院」でした。
2009/7/21


◆ことばの話3664「解放感と開放感」

先日、「ミヤネ屋」のスタッフから、
「『かいほうかん』は漢字で書くと『解放感』しかないんですか?『開放感』はダメですかね?」
と質問を受けました。なるほど。たしかにもとは「解放感」のような気がするけど、「開放感」も使われているような気がするな。
さっそく『新聞用語集2007年版』を見てみると、
「解放感」=<束縛感の対語>用例「仕事からの解放感」
「開放感」=<閉塞感の対語>用例「広くて開放感のある部屋」
とありました。このようにちゃんと使い分けているのだから、使っても大丈夫ですね。
Google検索(7月21日・日本語のページ)では、
「解放感」= 18万9000件
「開放感」=237万0000件
でした。圧倒的に「開放感」の方が使われていますね。これはきっと、マンションや一戸建てのような「家」の販売関連のPRとして「開放感」という言葉が使われているせいではないかと想像しますが。そもそもネットは、そういう目的でも使われているわけだということを、改めて認識した言葉でした。
2009/7/21


◆ことばの話3663「こどものハワイ」

朝、通勤電車(京阪電車)の中で見かけた吊り広告。
プールの向こうに、真っ青な空と真っ青な海。椰子の木、白いビーチ。

「こどものハワイ。」

という大きな黒い文字。
こども向けに何かサービスが付いている「ハワイ旅行のツアー」かなにかのポスターかなと思ったその時、「こどものハワイ」の下に小さな文字が記されているのに気付きました。

「写真は完全にイメージです。」

へ?どういうこと?
さらにその下には、
「さあ、夏のひらパー時間へ。」
の文字が・・・・やられたあ!「ひらパー」、つまり「ひらかたパーク」という遊園地の「プール」の広告だったのです。車両1両全部、このポスター。
うーん、こんな広告も「あり」なんだなあ。たしかに「ひらパーのプール」というのは、こどもにとっては「(大人における)ハワイ」のようなものでしょうね。だから「こどものハワイ」か。ま、相当その辺には自信があるから出来る広告でしょうね。
で、あの青い空、青い海や椰子の木は、ひらパーにはないんかい!?・・・当然、ないでしょうね。
「それは、無理」
と言われそうです。でも、やられました。今年の夏は「ひらパー」のプールでも行くか。(思うツボ・・・)
なお、「ひらパー」については9年前にも、こんなことを書いています。(ことばの話137「ひらパー五段活用」)
2009/7/17


◆ことばの話3662「『そなた』のアクセント」

先日、普段は見たことがないNHKの「大河ドラマ」を珍しく「ちょっと見てみるか」と思って見ていたら、どうも「言葉」が気になって仕方がありません。特に、
「そなた」
のアクセントが気になりました。男性の俳優が、「そなた」を「平板アクセント」で、
「ソ/ナタ」
と言うのです。これは「頭高アクセント」で、
「ソ\ナタ」
ではないのか?もちろん、戦国時代の上方のアクセントを私は知りませんが、なんだか気持ちが悪い。現代語のアクセントが載っている『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いてみると「そなた」には、
「ソ\ナタ」「ソ/ナ\タ」
「頭高」「中高」の2種類のアクセントは載っているものの、「ソ/ナタ」という平板アクセントは載っていませんでした。
ドラマでは当然、「発音指導」もあるでしょうから、当時のアクセントの指導がなされたと思いますが、当時は平板の「ソ/ナタ」と言っていたのでしょうか?疑問に思いました。
2009/7/10
(追記)

NHKの原田さんからメールを頂きました。
「秋永先生の辞書には、『古くは ソナタ(平板)』とあります。」
え!そうなのか!と私も手持ちの、秋永一枝先生の『新明解アクセント辞典』を引いたら、「平板アクセント」ではなく、「中高アクセント」で、
「(古はソ/ナ\タ)」
とありました。これのことなのかな?もう一度原田さんにメールすると、
「2008年版(12刷)では、『平板』になっています。『中高』は、NHKでは(2)で認めていますが・・・。」
という返事が。たしかに私の『新明解アクセント辞典』は、古い「2001年版」です。ということは、「『古い』アクセントの認識」が変わった?この7年(2001年→2008年)で、新たな資料が登場したということでしょうか???その点について原田さんは、
「(1) 頭高(2)中高は、NHKだけでなく、『日本国語大辞典』でも同じですので、『中高』が古いアクセントとは言えないためなのかもしれません。なお今の秋永辞書では「頭高」のみで「中高」はありません。」
とのこと。
ふーむ、ナゾだなあ。と思っていたら、大阪大学の岡島昭浩先生から、久々のメールが!
「そなたのアクセントについては、ソナタと同じではいけない、と言葉とがめをする人が居て、平板が求められているようです。飯間さんがお書きですね。すでに飯間さんから、連絡があったかと思いますが」
という連絡。え!?早稲田の飯間浩明さんが、既に書いている?早速、教えていただいたサイトを見てみたら・・ありました、もう11年も前(1998/8/19)に飯間さんが
「ソナタとそなた」
というタイトルで書かれていました。
http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/k980819.htm
それによると、1962年10月25日の「朝日新聞」夕刊で、作家の村上元三氏(1910年朝鮮元山府生まれ)「ソナタとそなた」という文章を寄稿しているそうです。その中に、
『大たい、舞台から映画、ラジオ、テレビと引っくるめて、「其方(そなた)」をちゃんと発音出来る役者はごく少くて、音楽のソナタと同じ発音をする。そなた〔3字傍点〕は棒で発音するのが正しい。〔後略〕』
とあるそうです。飯間さんは、
「1960年代の初めに、「其方」が頭高で発音されるようになって、それを作家が聞きとがめ、記録に残したということでしょう。」
と記しています。また、その時点(1998年)での「そなた」のアクセントに関しても、
「今の国語辞典の記述では『ソ』を高く言うか、『ナ』を高く言うかのどちらかが大勢。平板を認めているのは、伝統的なアクセントを記述する『明解日本語アクセント辞典』ぐらいではないでしょうか。」
とあります。このときは『新明解日本語アクセント辞典』の前身で同じ秋永先生の『明解日本語アクセント辞典』では「平板を認めていた」のですね!
さらに「追記」として、
「追記・ 1998、8、30放送分のNHK『徳川慶喜』では、慶喜役の本木雅弘さんが、所司代松平越中守に『ソ/ナタが兄上の具合はどうじゃ』、また、西郷隆盛役の渡辺 徹さんに『ソ/ナタが薩摩藩を』と平板アクセントで呼び掛けていました。『「其方」を平板で言っている人はいないだろう』というのは早計でした。
 ただ、一方で本木さんは『弟のソ\ナタは京都所司代』と頭高でも発音していて、揺れています。こちらが本人のアクセントでは?(1998/9/5)」
「追記2・ 村上元三氏の「ソナタとそなた」については「言語生活」1962.11 p.69で飯島正氏が言及しています。(2001/8/26)」
とありました。
岡島先生のメールの翌日に、当の飯間さんからもメールを頂きました。ありがとうございました!
2009/7/31


◆ことばの話3661「チラリズムの語源は?」

『週刊文春』で小林伸彦の「本音を申せば」というコラムを読んでいたら、心を惹かれる映画として『ディア・ドクター』を紹介していました。それを読んでいたら、ふと思いました。
「いわゆる『チラリ』と見えることの『セクシーさ=チラリズム』という言葉があるが、『サスペンス・怖さ』も、そのものズバリが見えてしまうことより、『見えそうで見えない』ほうがコワイ。なぜだろう?」
ちょっと考えたら、すぐに答えが出ました。そう、
「想像力」
でしょうね。実際に起こっていることよりも、そこから自分の頭の中で想像することで創造してしまう「セクシーさ」や「コワサ」は、実体を超えてしまうと。人間が一番怖い・・・。
しかし、「おもしろいこと」に関しては「チラリ」では想像できないのではないか?一方「味覚=おいしさ」に関しては「チラリ」は成り立ちそうです。
あっ、そうか!「セクシーさ」「怖さ」「おいしさ」はすべて「視覚」とつながるもの。「チラリ」と「見える」のですから。これに対して「おもしろさ」は必ずしも「視覚」が最重要ではない、それ以外の要素が大きい。「音楽」だって「聴覚」のものですから「チラリ」は成り立ちにくいのではないか。「視覚優先」の感覚においてのみ「チラリズム」は成り立つのではないか?と感じました。また「ホラー小説」も「文字」を読むのですから「視覚的」なので、「チラリズム」OKですね。
その後に疑問に思ったのは、
「『チラリズム』という言葉はいつごろ作られたのだろうか?」
ということ。ネットで検索すると、「トリビアの泉で沐浴」というサイトのNo.829に、
「『チラリズム』は元々浅香光代のセクシーな様を表現した言葉〜『チラリズム』は女剣劇の舞台で着物の裾をチラチラさせながら演じる当時19歳だった浅香さんのセクシーな様子を表現するために報知新聞の記者が作った造語」
「昭和の流行語を網羅した『昭和世相流行語辞典』のチラリズムの項目には『女剣劇の立ち回りで裾を乱したチラリチラリのエロチシズムをいう。…チラリズムを見せ出したのは、戦後派スター浅香光代が浅草の松竹演芸場に初進出した昭和25年7月11日からであった。』と書かれています。」
と書かれています。あ、孫引きになってしまった。
こういった「俗語」の類は、やはり米川明彦先生編『日本俗語大辞典』(東京堂出版)の守備範囲であろうと引いてみると、載っていました!
「チラリズム」=(「ちらり」と英語の接尾語ismとの合成)女性が男性に性的な興奮をおこさせるような、ちらりと肌や下着を見せること。◆「週刊新潮」(1963年10月28日号)「旭化成 チラリズム紳士に謹告する」(見坊豪紀『現代日本語用例全集3』から)
と、載っていましたが、これもあの130万枚言葉のカードを作ったという見坊先生の用例を引いていますし、この「週刊新潮」の時点でもう普通に使われているところから見ると、実際に言葉が出来たのは、もう少しさかのぼりそうですね。ただ『昭和世相流行語辞典』の「チラリズム」の項目の記述も、あの浅香光代さん「裾を乱したチラリチラリのエロチシズム」を見せ出したのは、「浅香光代が浅草の松竹演芸場に初進出した昭和25年7月11日から」とはあるそうですが、そのときすぐに「チラリズム」という言葉が出来たというふうには書かれていませんので、
「昭和25年7月から昭和38年10月までの間」
には「チラリズム」は使われるようになっていたとしか言えませんね。
『昭和世相流行語辞典―ことば昭和史 WORD&WORDS 』という本は、鷹橋信夫という方が書いたもので1986年に旺文社から出ているようです。今後もまた調べてみたいと思います。
2009/7/17
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スープのさめない距離