◆ことばの話3615「消費者庁」

4月15日の産経新聞朝刊1面トップに
「消費者庁、秋にも発足!」
という記事が出ていました。この
「消費者庁」
という名称、とってもアナウンサー泣かせですよね。言いにくいったらありゃしない!
しかーし!全国の滑舌に不安をお持ちのアナウンサーの皆さん!私は、この言いにくい「消費者庁」を、簡単に言えるようにする方法を考え出しました!!
・・・教えてほしいですか?
じゃ、500円・・・・やすっ!。
・・・ウソです。特別に「あなたにだけ」無料でお教えしましょう。
これはね、意識の問題なんですよ。どう認識して発音しようとするかによって、言い易さが変わってくるんです。つまり、
「消費者・庁」
だと思って言うととても言いにくいのですが、区切るところをちょっとだけ変えて、イメージもちょっと変えて、
「消費・社長」
だと思って言ったら・・・・ほおら、言えるでしょ?
そんなにはっきり切らなくてもいいんです。意識の上で、イメージを「消費・社長」だと思って読んでみてください。ほーら、あなたも言えた!
これはおそらく、「消費」と「社長」という、よく使っている2つの短めの言葉を続けて言うので言えるんでしょうね。それに対して「消費者・庁」は、「消費者」はよく使うけれどもそれに「庁」をくっつけることはこれまであまりなかった。だから言いにくいのではないでしょうか?もちろん「ショーヒシャ」という、息漏れのしやすい「サ行の拗音」と「ハ行」の音が連続すること自体、発音は難しいのですが。それにさらに「タ行の拗音」がくっつくのですから、言いにくいのはたしかです。
イメージによる区切り方として、もう一つ思いつきました。
「消費者・腸」
だと思って言ってみると・・・あ、これも少なくとも「消費者庁」よりは言いやすい!きっと、
「『庁』よりも『腸』の方が『イメージしやすい=言いやすい』」
のではないかと思います。いやあ、イメージの力ってすごいな!人間の脳ってすごいな!イエース!脳!!
でも、ひとつ、ご注意いただきたいのは、原稿や字幕スーパーで出す時には、けっして
「消費社長」「消費者腸」
と書いてはいけません。その時はもちろん、
「消費者庁」
と書いてくださいね!
なお、「平成ことば事情1739マサチューセッツ州知事」も、是非お読みください!
2009/5/13


◆ことばの話3614「人・人感染」

5月21日の「ミヤネ屋」「新型インフルエンザ」に関するニュースでWディレクターが、
「舛添大臣と河村官房長官が、
『ひとひとかんせん』
と言ってるんですが、表記は漢字でしょうか?カタカナでしょうか?他局を見ていると両方あるみたいなんですが・・・」
と聞いてきました。「ひとひとかんせん」・・・なんだか「しとしとぴっちゃん」みたい・・・・子連れ狼・・・。
「ウイルスやDNAなんかの場合は『ヒトゲノム』のようにカタカナで書くこともあるけど・・・平仮名はないかな。漢字かなあ・・・。」
と言いながら、Google検索(5月21日)してみたら、
「ヒトーヒト感染」=3270
「ヒト・ヒト感染」 =11800
「ヒトヒト感染」 =2970
「人―人感染」 =370
「人人感染」   =255000
でした。さらにネットで新聞各社の表現を調べてみると、「読売・朝日・毎日・共同通信」は、
「人・人感染」
という「人」と「人」の間に「・」を入れた見出しを使っていました。本文では、
「人から人にうつる感染」
とかみくだいて書いていましたが。「産経新聞」の見出しでは、
「人→人感染」
と記号を用いていました。見出しとしてはユニークですね。
結局、オンエアーでは、「人・人感染」にしました。
2009/5/22


◆ことばの話3613「私財を投げ売って」

4月16日の毎日新聞朝刊の日本漢字能力検定協会の理事長が辞任を発表したという記事を読んでいて、「おやっ?」と思いました。その記事の中に、理事長の言葉として、
「私財を投げ売って」
という文字が目に入ったからです。詳しく書くと、
「『私財を投げ売ってやってきたことで理事も評議員も好意的に見てくれた。国語の基本である漢字能力を上げて日本文化の向上にも相応の貢献をするという哲学は今後も変わらない』と胸を張った。」
とあります。でもこの「投げ売って」、違うのじゃないか?正しくは、
「投げ打って」
ではないでしょうか?だって「終止形」は、
「なげうつ」
でしょ?「投げ売って」終止形は、
「なげうる」
ですよね?たしかに「連用形」は同じ(?)かもしれませんが、その場合も普通は、
「投売りして」
と、「名詞+するの連用形」なのではないでしょうか?
『広辞苑』「なげうつ」を引いてみると、
「擲つ」「抛つ」
の2種類の漢字が載っています。『新聞用語集2007年版』には、その2種類に加えて、
「投げ打つ」
も載っていました。が、しかし、表記としては、
「なげうつ」
と平仮名表記にするように書かれています。これは本来の「なげうつ」は「擲つ」「抛つ」であるからではないでしょうかね?
いずれにせよ、
「私財を投げ売っ」
たりはしなかったと思います。逆に私財を蓄えたのかもしれません。前・理事長父子は5月19日に、背任容疑で逮捕されました。
2009/5/19


◆ことばの話3612「あなたの野望はなんですか」

昨年(2008年)12月の新聞用語懇談会放送分科会の席で、「気になる表現」として、
「野望」
という言葉の使い方について、こんな意見が出てきました。
「スポーツのインタビューなどで『あなたの野望はなんですか?』のような表現を、最近よく耳にする。『大きめの、少し無理めの目標』を指して使っているが、本来の意味は『分不相応な大きな望み』つまり、相手に対しては使わないもの。相手に対して使うのは失礼にあたるので気をつけたい」

その話を聞いたときは、
「そんな『野望』の使い方するやつ、いるはずないじゃん・・・でもゲームソフトで、たしか『信○の野望』とかいうのがあったから、けっこう『野望』という言葉は使われているのかも知れないなあ。」
と思ったのですが・・・・あれから半年、「野望」が「情報ライブミヤネ屋」にも出てきました!
2009年5月19日に放送した、「ドリームジャンボ宝くじ」の特集で紹介した、去年のドリームジャンボ宝くじで見事1等・2億円を手に入れた田中さん(仮名・・あ・・話、それますが、もし「亀井さん」という人が「仮名」だったら、『亀井さん(仮名)』でややこしいなあ。「亀井の家名は家名だった」なんて、滑舌練習に使えるな、アクセントの練習にも)。その原稿の中に、こんな一文が・・・。
「そして、田中さんは最後に“次なる野望”を語ってくれました。」
出たあ、「野望」!
早速、担当ディレクターに理由を説明して、ナレーターさんに、既に録音を完了していたその部分の録り直しをお願いし、字幕スーパー(既に焼きこみが終わっていたのですが)も、
「次なる夢」
に直してもらいました。この「野望」は、まだ放送で許すわけにはいかないですよね。これからも、この手の間違いは、ことごとく直してやるという「野望」を胸に、明日の「ミヤネ屋」の放送に臨むのでした・・・。
2009/5/19


◆ことばの話3611「『ぐらい』と『くらい』」

関西ローカルの新番組『関西情報ネットten』のスタッフから質問を受けました。

「『100人ぐらい』と『100人くらい』、どっちが正しいんでしょうか?」

「うーん、読むときはどっちでも間違いとは言えないと思うけど、本来は『ぐらい』と濁ると思うよ。最近は『くらい』と濁らない傾向が強いみたいだけど」

と答えながら、資料を探すと、こんなものが見つかりました。『NHKことばのハンドブック第2版』(NHK放送文化研究所編)。その66ページに、

「このくらい(ぐらい)の広さ」「10歳くらい(ぐらい)の子」などの「くらい」「ぐらい」は、どちらを使ってもよい。以前は、次のような使い分けが行われていた。
(1) 体言には「ぐらい」がつく
(2) 「この・その・あの・どの」には「くらい」が付く。
(3) 用言や助動詞には、普通は「ぐらい」が付くが、「くらい」が付くこともある。
「ぐらい」と連濁する場合は、ひらがな表記も濁音表記とする。
<例>10歳ぐらいの子

ということで、伝統的には「ぐらい」を使うので、書き言葉(フリップやスーパーに書いて出す)場合は「ぐらい」が適当でしょうね。
2009/5/19
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スープのさめない距離