◆ことばの話3175「豚を偽り牛ミンチ」

9か月も前に書いてそのままになっていました・・・。(平成ことば事情2962として書いたのですが、結局、3175になってしまいました。)
2007年6月20日の朝日新聞の1面に、
「豚を偽り『牛ミンチ』」
という見出しが出ていました。
北海道の食品加工卸会社が、主に豚肉を使ったひき肉を「牛ミンチ」として出荷していたことがわかったという記事です。
しかし、この見出しを見たときに、何か違和感を覚えました。というのも、私は、
「牛の肉を、豚肉と偽った」
というふうに思ってしまったのです。なんで高い牛肉を、安い豚肉に偽らなければならないなのか、それだと消費者が得になるのではないか?と思ったのですね。
本文を読むと、そうではないことがわかりますし、この見出しは間違ってはいないのですが、なぜそう感じたのか?おそらく、一番わかりやすい文章は、
「豚肉を『牛ミンチ』と偽る」
だと思うのです。でもそれだと、見出しとしては弱いから、こういう形になったと思うんですが、そのそも「偽る」という動詞は、
「〜と偽る」
という形をとることが多いのではないか。その場合は、ウソとされたものが「偽る」の前に来る。だからこの場合は、
「牛ミンチと偽る」
になるのですが、この見出しの場合は、助詞が違う(「を」)ので、
「豚を偽り」
となっている。だからなんだかヘンな感じになっているのではないでしょうか。見出しは難しいで すね。テレビだと「サイドスーパー」と言って、画面の右上などにずっと出している字幕が、 ちょうど見出しのような役割を果たすのでしょうけどね。
2007/6/20


◆ことばの話3174「フルセグ」
2月15日、出張で東京に行った際にJR東京駅で見かけた「パナソニック」の広告ポスターに、こんな一文が。
「“フルセグ”放送を贅沢受信、カーナビ〈ストラーダ〉」
「フルセグ受信だから、地デジをフルに楽しめる。」
「ワンセグ」は知っていましたが、「フルセグ」というのは初めて目にした気がしました。これまでにも見ていたかもしれませんが、あまり意識して読んだことがなかったなあ。「ワンセグ」はその名の通り、全部(13)のセグメントのうちの「1つ」のセグメントを使うということですよね。これに対して「フルセグ」は「フル」ですから、全部ということかな。調べてみると「フルセグ」とは、どうやら、
「一般のテレビ向けの地上デジタル放送を受信できる携帯電話やカーナビゲーション・電子辞書のような移動体受信機(モバイル・ツール)のこと」
のようです。そして、「ワンセグ」は従来のアナログ放送より画質が向上しているものの、1秒間に15コマの画像しか受信できないのに対して、「フルセグ」は4倍の60コマを受信可能だそうです。『現代用語の基礎知識2008年版』には載っていませんでしたから、新しい言葉なんですかね。
そのあたりを、専門家のH君に聞いてみました。すると、意外にもこんな返事が。
『「フルセグ」という言葉は、僕もよく知らなかったのですが。12セグで放送している、いわゆる家庭の大きなテレビで見る「地デジ」放送のことのようです。日本のデジタル放送は、従来のアナログ放送と同じ帯域(周波数の領域)で、
「1セグ+12セグ」
の放送を送出しています。その電波を受信して、家庭のテレビで見るときは12セグ、携帯電話で見るときは1セグ、と使い分けているのですが、カーナビなんかだと両方ついてる場合があります。そのカーナビで「12セグで見れますよ」というのを、
「フルセグ対応」
と表記したのが始まりのようです。ちなみに、「ワンセグ」というのは地上デジタル放送推進協会(D-pa)という公式の団体が決めた公式の呼称ですが、「フルセグ」というのは、そういう類の言葉ではないと思います。』
なるほど。専門家でもそんなには耳にしない言葉なんですね。Google検索(3月19日)では、
「フルセグ」=  6万2900件
「ワンセグ」=816万    件
ちなみにこのパナソニックのカーナビの値段は35万4900円(取り付け費別)と記されていました。                         
2008/3/19


◆ことばの話3173「闇は暴かれた?」
3月18日の『情報ライブ・ミヤネ屋』で、秋田連続児童殺害事件の畠山鈴香被告に関する原稿を読みました。その中で、最後の一文の原稿が、
「真相を覆う闇は、暴かれたのだろうか?」
となっていました。これを見て疑問が。
「うーん、『闇』は『暴かれる』のかなあ。なんだかしっくりこないなあ」
そこで、この言い回しをうまく落ち着かせる言葉を捜しました。
「闇は取り払われたのだろうか」
「闇は拭い去られたのだろうか」
どうも落ち着きが悪い。そこで、『ニューススクランブル』の坂キャスターに、
「この場合は、どんな言い方が良いかなあ」
と相談したところ、
「そうですねえ・・・・この『闇』っていうのは比喩表現ですからねえ・・・『解き明かされたのだろうか?』ってところでどうですか?」
おお!「解き明かされた」!普通だと「解き明かされる」のは「謎」ですが、この場合はまさに、
「真相を覆う闇」=「謎」
だから、悪くないですね!いただき!っということで、ここは、
「真相を覆う闇は、解き明かされたのだろうか?」
で読んだのですが、落ち着きはいかがでしょうか?
なお、3月19日秋田地裁は、畠山鈴香被告に「無期懲役」の判決を言い渡しました。
2008/3/19


◆ことばの話3172「初顔」
3月11日の毎日新聞の大相撲・春場所のニュースで、
「朝青、初顔に27連勝」
という見出しが出ていました。ここでは、
「初顔合わせ」
のことを、
「初顔」
と使っていました。「朝顔」かと思いました。「初顔合わせ」と言わずに、略しても言うのですね。『三省堂国語辞典』を引くと、ちゃんと「はつがお(初顔)」が載っていました。
「はつがお」=(1)<すもう・スポーツなどで>初顔合わせ(の相手)
(2)会合などに、はじめて参加した人
あ、普通は(2)の意味の方がよく使う気がする。でも(2)の意味だと、
「新顔」
という言葉を使うことの方が多いかな。Google検索では(3月13日)、
「初顔」=    8万5800件
「新顔」=   45万8000件
「初顔合わせ」=31万2000件
でした。やはり、
「初顔 < 初顔合わせ < 新顔」
でしたね。
2008/3/13


◆ことばの話3171「きみこいし、なんばとしぞう」

3月17日のお昼の読売テレビ「ストレイトニュース」の関西ローカル枠で、大阪府の橋下知事が打ち出した、図書館以外のいわゆる「ハコ物」の廃止もしくは民間への移管に関して、上方演芸館「ワッハ上方」の存続を求める意見を、漫才の喜美こいしさんと作家の難波利三さんが府に提出したというニュースを、東京出身の若いアナウンサーが伝えていました。それを聞いていたら、「喜美こいし、難波利三」の名前を、
「き\みこ/いしさん、な\んばと/しぞうさん
と読んでいたので、ずっこけて椅子からずり落ちました。
言うまでもなく、「喜美こいし」さんは、兄の故「夢路いとし」さんとともに「いとし・こいし」の漫才で上方漫才の頂点を極められた方、「人間“上方”国宝」クラスの大師匠です。かたや作家・難波利三さんも、上方芸人の生き様を描いた小説『てんのじ村』で直木賞を受賞された大御所です。ここは、やっぱり、
「きみこい\し、な/んばとしぞう」
と読んで欲しいところです。(「なんばとしぞう」は、「全部高いアクセント」の方がいいのですが。)アクセントが、ニュース内容の信憑性にも関わると思います。
関西ローカルのニュースですから、なんだかヘンなアクセントで読まれたら、椅子からずり落ちてしまうのも、わかっていただけますよね?え?無理?わからない?
そんなこと、言いないな。
しかしまあ私も、20年前には同じような失敗を、きっとしていたと思うので、あまり強く言えた義理ではないんですが、同じ失敗は繰り返さないようにせんとあかんよね。
2008/3/18
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スープのさめない距離