◆ことばの話2930「萌え」

いまさら「萌え」もないと思いますが、若者言葉の「萌え」、皆さんご存知ですよね。「おたく」言葉から、数年前に流行語っぽくなって定着した言葉です。
『現代用語の基礎知識2007年版』によりますといくつか「萌え」について書かれています。
「萌え(−)」
=感嘆詞として「かわいい」「ステキ」「魅力的だー」「カッコイイー」の気持ちで発する。「あっ、これモエ」「ロッテ、萌えー」。
=最近のブームで一般にも浸透した言葉であるが、2005(平成17)年4月に浜銀総合研究所がこの萌えの市場規模の調査結果を発表した。結果は888億円だという。(以下略)
と載っています。2005(平成17)年の調査のようで、888億円という市場規模は、2003(平成15)年のものです。
私がこの言葉を知ったのは、おそらく6年ぐらい前。NHK放送文化研究所の塩田雄大さんからファックスで、
「萌えについてどう思いますか?」
と聞かれたときです。その時点では「初耳」の言葉でしたが、ネット上では、すでにかなり使われているようでした。
で、なぜ今頃取り上げるかというと、たまたま去年(2006=平成18年)の秋に出た『大辞林第三版』「萌え」を引いたら、なんと新語辞典でもないのに、この「萌え」がちゃんと載っていたのです!
「萌え」=「ある人物やものに対して、深い思い込みを抱くようすをいう若者言葉。その対象は実在するものだけでなく、アニメーションのキャラクターなど空想上のものにも及ぶ」
とありました。萌えー。それで、ほかの国語辞典にも載っているのかどうか、最近出た、手元にある辞書を引いてみました。しかし結果から言うと、この意味での「萌え」を載せた辞書はありませんでした。
「萌え」=(1)草がもえること(2)木や草の若芽(『三省堂国語辞典』2001)
「萌え」=(1)芽(2)通草(あけび)の芽(3)角。忌み言葉(『日本国語大辞典』2002)
そして『新明解国語辞典』(2005)は「燃え=燃えること(ぐあい)」しか載っておらず、 『日本語新辞典』(2005)も「燃え=も得る具合」しか載っていませんでした。
結構、これはビックリです。
2007/7/31
(追記)

さっそくNHK放送文化研究所の塩田さんから、「読みました!」とメールをいただきました。そして、「“萌え”使用の古い例」を送ってくださいました。いつもありがとうございます。で、ご紹介します。
「2004年6月1日  『萌え』の古例として、1994年のものを見つけました。
(http://maple.utmc.or.jp:8000/bbs/read/171/139)
その手の世界では10年も前から使われていたようですね。」
で、その内容は、おそらく「テレビアニメ」に関するパソコン通信の会話のようです。
「Article 139 of 146 in #171 D・N・A2 〜何処かで失くしたあいつのアイツ〜[NO.12] Posted at 94/12/27 03:44:53 by Andes (MAP4561) (15 lines)
Re:Re: バイバイメガプレイボーイ
 何だかぱっとしない終わりかたでしたが、超能力戦があの程度だったし途中は萌え゛萌え゛だったのでまあよしとします.
 でも、ああやって強引に超能力戦に持ち込むくらいなら、オリジナルな終わり方にしてもよかったんじゃないかなとも思います。」
さらに塩田さんは最近こんな記述も。
「2007年6月26日 あと、『萌え』が台湾の中国語に輸出されているようです。
(http://www.excite.co.jp/News/bit/00091182695694.html)
それによると、台湾で女の子たちが「萌え〜!」と叫んでる!?[ 2007年06月26日 10時00分 ]<エキサイトより>そうです。田幸和歌子記者の記事ですが、先日、ある雑誌の取材で、台湾から日本に観光に来ている女の子たちと話す機会を得た際、台湾での日本の人気について聞いているうち、女の子たちが何か見るたび、口々に
「モン〜!」「ミン〜!」
と言っていたということ。これが「萌え〜!」のことらしく、いま台湾では女の子などが、会話中で頻繁に使っているのだそうです。台湾から日本に来て10年以上になる男性によると、
「台湾には、もともと『萌』という漢字がないので、くさかんむりの下の『明』という音で読んでいる」
とのこと。女の子たちに実際に、「萌(ミン?)〜!」をどんな時に使うのか聞いてみると、
「幻想的で美しいものについて言う」
ということで、日本の「萌え」よりももっと幅広い意味で使われているようです。
さらに記事によると、台湾ではいま男女問わず学生を中心に、日本の「平仮名」も流行っているそうです。特に「は」「の」とかの文字が「丸くてカワイイ」ということで、手紙の中に部分的に使うことが多いそうです。たとえば、『我的書』(私の本)と書くとき、わざと平仮名を使って、
「我の書」
と書いたりするとのこと。へえー。たしかに「の」はかわいいですね。さらに文字だけではなく、「音」も若い人の間で人気となっていて、会話中にもそのまま助詞として「〜は」「〜の」と使ったりしているそうです。それって、日本人が英語を部分的に取り入れて「ゲットする」とかのように使っているような感じなのかな。ちょっと違うかな。
2007/8/4


◆ことばの話2929「新宿中央ドウリ商店街」

先日、出張で東京へ行った時のこと。久しぶりに新宿に寄ると、見慣れない時計台のような建物が立っていたり工事中のところがあったりと、いろいろ変わったなあと思いました。その際、新宿東口の方の商店街で見かけた旗の文字に、目が止まりました。
「ヨウコソ チュオウドウリ」(写真参照)
ヨウコソ チュオウドウリ

おや?全部カタカナなのはいいけれど、これ、いったんひらがなと漢字に直すと、
「ようこそ 中央通り」
ですよね。この「中央通り」の読み方は、
「チューオードーリ」
ですが、その場合に「通り」のカタカナでの正しい書き方は、
「ドオリ」
のはずなんですが、ここではなぜか
「ドウリ」
になっています。「通り」が「ドウリ」では「道理」が通りません。この「道理」は「ドウリ」でいいんですが。いったい誰が書いたんでしょうねえ、「ドウリ」。
「止マレ」を「止レマ」と書いてしまうのと似ているようで・・・ちょっと似てませんねぇ。
2007/7/31


◆ことばの話2928「よしろく!」

映画の試写会に出かけ、そのあと別の場所で合流する予定の新人・吉田奈央アナウンサーが、会社から出発するときに、こう言いました。
「それでは、行ってきます!道浦さん、のちほど、よしろく・・・よろしくお願いします。」
すかさず私は、元気にこう、あいさつしました。
「よしろく!」
つまりこれは、「ろ」と「し」が入れ替わってしまったのですね。ちょっとした違いなのに、これっておもしろくありませんか?私は結構、おもしろかったです。吉田アナは全然気付かずに試写会へ行ってしまいましたが・・・。
音の入れ違いによる間違いって、なんだかおもしろいですよね。ついこの間も、私はホームページの原稿に、ちゃんと、
「ボーイング787」
と書いたつもりだったのに、広報宣伝部のI君からこんなメールが。
「道浦さん、『ボイーング787』になっていますよ。』
ホームページを見てビックリ!本当に、
「ボイーング」
になっているではありませんか!伸ばすところが違うと、こんなに音の印象が変わってしまうのですね。文字で見るとつい見逃してしまうぐらいの小さなミスに過ぎないのに・・・。
ちょっと、恥ずかしかったです。よしろく、ボイーング787!
なおgoogle検索(7月20日)では、
「よしろく、よろしく」 = 607件
「ボイーング」 =128件
「ボイーング、ボーイング」 =39件
でした。「よしろく」だけだと、「お寿司屋さんか何かの屋号のよう」でもありますね。でも、ネット(2ちゃんねる)では「よろしく」の意味で「よしろく」がちょっとだけ使われているようです。結構「ボイーング」も多いですね。さぞ、グラマラスな機体なのでしょう。
2007/7/20

(追記)

そういえばその昔、業界用語っぽい言葉で、
「よろしこ」
とか、
「よろぴく」
なんてのもありました。「よろぴく」小林よしのりかな?Google検索では(8月4日)、
「よろしこ」=37万件
「よろぴく」=19万7000件
ふえー、まだ随分使われているのだなあ!「死語ドットコム」というサイトでは、
(http://shigo.com/removed.html)
「『よろぴく』は死語だが、『よろしこ』は、まだ現役」(2004年5月)
と書いてありました。
2007/8/4


◆ことばの話2927「政見放送の原稿」

選挙公報の番組をご覧になったこと、ありますか?いわゆる「政見放送」の番組です。
今回の参院選で、そのナレーションの録音の仕事がまわってきました。何年か前にもやったことがありますが、今回は原稿を見ていて「おや?」っとなった点がありました。
原稿の文字は50字と決まっているのですが、それは文字数なんですね。だけど、そこに出てくる「記号」に関しては読み方が決まっています。たとえば、
「(株)」
は常識的に考えれば、
「かぶしきがいしゃ」
と読みますが、あくまでこれは、
「かぶ」
と読めと、ディレクターからのお達し。選挙管理委員会との打ち合わせで、そう決まったのだそうです。問題は西暦の場合の読み方です。
「04〜07年」
と書いてあった場合の読み方で、普通は、
「ニセンヨネンからニセンナナネン」
と読みますよね。また、
「87年〜91年」
と書いてあったら、上二桁の「19」を補って
「センキューヒャクハチジュウナナネンからキュージューイチネン」
と読みますよね。しかし、そう読むと「字数がオーバーするからダメ」というのです。だからこれは、
「ゼロヨンからゼロナナネン」
「ハチジューナナからキュージューイチネン」
と読めというのです。なんで前半に「ねん」をつけて読んではいけないのか?納得できませんでした。しかも「0」は、アナウンサーの日本語の読み方では、原則、
「レイ」
と読むのです。なぜなら「ゼロ」は英語だからです。そうすると、
「レイヨネンからレイナナネン」
となりますが、それはおかしいので、「ニセンヨネンからニセンナナネン」と普通に読むのですけどね。それはダメだと。なんかヘンな感じ。
そのほか、大阪選挙区からは9人が立候補したので、その9人分の経歴書を読んだのですが(実際は1人未提出だったので8人分)、提出された原稿を見ていると、やはり現職など選挙慣れしている人と、初めて立候補した人で差がありました。
慣れている人は、50字の字数にきっちり納まるように書いてあるのはもちろん、なんと50字すべてが「漢字」だったのです。すごいですよ。つまりこんな具合です。
「○○大学卒。参議院当選三回。参議院行政監視委員長等歴任。現在党大阪府本部代表。」
中国語のようです。これに気付いたときには、さすがにビックリしました。漢字の「体言止め表現」が、選挙広報には一番だということを、よくわかっているのでしょう。
それに対して初めて立候補をした人は、ひらがなが多い。こんな具合です。
「○○高校卒。全日本空輸(株)入社。チーフパーサーとして乗務員育成指導に携わり平成十四年退職。現在一児の母。」
似ているようで、微妙に違います。これを漢字風に改めると、
「○○高校卒。全日本空輸(株)入社。チーフパーサー。乗務員育成指導従事。平成十四年退社。現在一児の母。」
これで、ほんの数文字ですが節約できて、リズムも出てきます。そういうものなのだなあ。
この差は大きいと思いました。
いやあ、何事も勉強になりますね。
2007/7/31


◆ことばの話2926「LOOK BLOOD」

毎週月曜日、近くの駅前に献血車がきています。その献血車の後ろに、
「献血友だちになってください」
と書いてあります。「献血友だち」というのも、わかるようなわからないような表現ですが、もっとわからないのが、この標語の横に書かれた英語です。
「LOOK  BLOOD」
これって直訳すると、
「血ィ、見ろ!」
なのではないでしょうか?ケンカ売ってんのか?大阪では・・・「じゃりン子チエ」の世界では、
「血ィ見るど!」
というのは、ケンカの際の「脅し文句」ですが。よくわからんけど。
おそらく、意図してるのは、
「献血に注目!」
なんだろうけど、これでいいのでしょうか、英語的には?
そもそも「献血」を英語では何と言うのかな?そう思って和英辞典で「献血」を引いてみると、
blood donation
と出ていました。「提供者」は、臓器移植などでかなり一般的になった言葉「ドナー」ですから、その動名詞の「提供すること」「donation」なんですね。例文で「献血にご協力を!」が、
Give me blood.
でした。そんままやなあ…。「ギブミー・チョコレート」みたい・・・。でも皆さん、献血にご協力を!
2007/7/31
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