◆ことばの話2705「辞任と辞職」
和歌山県発注の工事を巡る談合事件で、11月2日、木村良樹・和歌山県知事が辞職を表明しました。このニュースの表現をめぐって報道のH君から質問を受けました。
「辞任と辞職の使い分けはどうすればいいんでしょうか?この場合は辞任?辞職?」
「うーん、難しいな。『辞任』はその役職(任務)をやめることで、『辞職』はその職をやめることだというのは間違いないと思うけど、和歌山県知事が『辞任』するということはすなわち同時に『辞職』するということだからね。どちらも『あり』では?でも『辞任』だけだったら普通は、たとえばあるプロジェクトの委員を『辞任』するけど職員としてはそのまま残ることもありうるので、そういった意味での使い分けは当然あるだろうから、この場合は『辞職』かな。」
と答えておきました。
「辞職願」はあっても「辞任願」はありませんね。(本島にないかな?)とすると、
「辞意を表明し、辞職願いを出して、辞任した」
という表現は「あり」かもしれませんね。
一応「「辞職願」「辞任願」をGoogle検索(=日本語ンのページ。11月7日)
「辞職願」= |
7万7200件 |
「辞任願= |
650件 |
でした。ついでに
「辞意表明」= |
8万5400件 |
「辞職表明」= |
13万8000件 |
「辞任表明」= |
3万1500件 |
でした。各新聞での表現を見て見ると、
読売、朝日、毎日、産経、日経の5紙はすべて
「辞職」
でした。最新の『大辞林』第三版を引くと、
「辞任」=職務を自分からやめること。⇔就任「首相を――する」「――を迫る」
「辞職」=職を自分からやめること。「議員を――する」
とありました。
2006/11/6 |
◆ことばの話2704「遺灰」
「情報ライブミヤネ屋」のナレーションを頼まれて下読みをしていた時のこと。
最近のお墓事情というVTRだったのですが、その中で、
「遺灰」
という言葉が出てきました。最初はそれを、
「いはい」
と読んだのですが、そのときハタと思い出したことがあります。その昔、当時のうちの会社の社長が、
「『降灰』という言葉をアナウンサーが『コウハイ』と読んでおる。あれは正しくは『こうかい』だ!」
と言っていたことがあったのです。そこで、
「この『遺灰』って『いはい』で良いのか?『イカイ』じゃないか?『降灰』が『こうかい』なら、『遺灰』は『イカイ』になるだろ?ちょっと確認してから読むよ」
とディレクターに断ってから辞書を引くと、『広辞苑』では「遺灰」は、
「いはい」
でした。『新明解国語辞典』でも「いはい」でした。
「遺体を焼いて灰にしたもの。いかい。」
とあったので、「イカイ」も間違いではない。でも、見出しは「いはい」だけしか載っていません。
『新潮現代国語辞典』『明鏡国語辞典』には「いはい」も「イカイ」も載っていませんでした。
『日本国語大辞典』では、「いはい」しか載っていませんでした。
また、ついこのあいだ出た『大辞林・第三版』にも「いはい」しか載っていませんでした。この『大辞林・第三版』には、「イナバウアー」が載っていてビックリ!でも10年後まで残る言葉なんですかねえ、イナバウアー。
2004年6月7日の日本テレビ「ニュースプラス1」でも「遺灰」を「いはい」と読んでいたというメモも出てきました。
ということで、「遺灰」は「いはい」と読むことが優勢だと分りましたが、「いはい」だと、
「位牌」
と間違わないかなあ?ちょっと心配です。
2006/11/6 |
◆ことばの話2703「しんにゅうか?しんにょうか?」
今年の1月のこと。朝日新聞のF氏から、
「漢字の部首『之繞』の読み方について調べています。別紙アンケートについてお近くの方のご意見を聞いてみていただけませんか。年齢層による違いがあるかが知りたいのです。」
というメールが来ました。
「之繞」
が、最初読めなかったのですが、おそらく、
「しんにゅう」
か
「しんにょう」
か、ということだろうなと思ったら、案の定そうでした。いつもお世話になっているので、喜んで協力しました。ちなみに、朝日新聞編集局のFさんの周辺での141人のアンケート(東京60人・大阪81人、校閲部員が中心)の結果は、以下のとおりだったそうです。
「しんにょう」=72人
「しんにゅう」=52人
「両方」 =17人
詳しく年齢別に見ると、
(年齢層) |
(しんにょう) |
(しんにゅう) |
(両方・覚えていない) |
(計) |
50代
(46〜55年生) |
0 |
31 |
1 |
32人 |
40代
(56〜65年生) |
34 |
18 |
6 |
58人 |
30代
(66〜75年生) |
21 |
2 |
8 |
31人 |
20代
(76〜85年生) |
17 |
1 |
2 |
20人 |
合計 |
72 |
52 |
17 |
141人 |
この結果を見てFさんは、
「40代が、どちらの読む方をするか揺れていて、それを境に、上下で割と明瞭に分かれているようだ」
という見込みを立てたそうです。たしかに50代は「しんにょう」は「0人」ですもんね。
私は読売テレビ・アナウンス部と報道局でちょうど100人に聞きました。結果は、
「しんにょう」=67人
「しんにゅう」=23人
「両方」 =10人
でした。「しんにょう」が多いですね。具体的には、
|
(しんにょう) |
(しんにゅう) |
(併記=両方) |
(計) |
50代 |
1人 |
11人 |
0人 |
12人 |
40代 |
13人 |
9人 |
3人 |
25人 |
30代 |
26人 |
3人 |
7人 |
36人 |
20代 |
27人 |
0人 |
0人 |
27人 |
計 |
67人 |
23人 |
10人 |
100人 |
ということで、朝日新聞とほぼ同じような結果が出ました。
ふだん部首の名前なんて、会話にあまり出てこないので気づきませんが、こういったところにも「世代差」というものがあるんですね・・・。
「しんにゅう」派の23人の中には、「しんにゅう」と習った人と、その後「しんにゅう」というのを聞いたことがある人が混じっています。
「しんにょう」と答えた1952年生まれのある人は、
「学校では『しんにょう』と習ったけど、周りの人がみんな『しんにゅう』と言っていたので、ずっと『しんにゅう』と言っている。『しんにょう』なんて『新尿』みたいでかっこ悪いやん!」
という意見でした。
30代もちょっと揺れているようです。20代の人は、
「『しんにゅう』なんて言う人いるんですか?年配の人とちゃいますか?」
という意見が大半でした。
なおこれらのアンケートを基にした生地は、2006年1月23日(月)朝日新聞の紙面『ことば力養成講座』というコラムの
「続々・しんにょう」
で発表されました。内容は、50代がほぼ全員「しんにゅう」、30代以下は逆に「しんにょう」が大多数、40代は揺れがある、ということでした。
理由は昭和30年代の小学校の国語の教科書は「しんにゅう」だけを示すものがあるが、40年代からは「しんにょう」だけか、「しんにゅう(しんにょう)」などと併記する形が増え、「しんにゅう」だけの教科書はなくなったことによるようです。
もっと歴史的に見ると、江戸時代には「しんにゅう」「しにゅう」が主流で、庶民は「しんにゅう」が普通でしたが、明治以降、本来の読みである「しんにょう」に立ち返る動きが出てきたということだそうです。
「延」の部首である「えんにょう(延繞)」や、「超」の部首の「そうにょう(走繞)」のように、こういった形の部首は、本来、「〜にょう」と呼ばれるようです。「しんにょう」は漢字では「之繞」ですからね。
以上、今年の1月の出来事を、11月になるまで書くのを忘れてほったらかしにしていたものでした。ゴメンチャイ。
2006/11/6 |