◆ことばの話1670「プレミアとプレミアム」

「週刊トラトラタイガース」という読売テレビの番組が、」昨日4月4日で、1000回を迎えました。放送21年。自分の局の番組ですが、おめでとうございます。
さて、その記念番組の中で、タイガース戦チケットの視聴者プレゼントをやっていました。その告知をする時に、Nアナウンサーが、
「プレミアム・チケット」
言いました。それを聞いてふと思ったのは、
「プレミアとプレミアム。違いは何やろか?同じ意味なのに、たった一文字、省略しているだけなのだろうか?」
ということです。
インターネットでGoogleで検索(4月5日)したら、
「プレミア」=48万1000件
「プレミアム」=70万5000件

ありました。その中に、
「『プレミアム』を一字略したのが『プレミア』」
と書かれたたものと、
「『プレミア』は『プレミアム』の略ではないのではないか。前者はpremier、後者はpremiumのカタカナ表記だと思う。」
という意見もありました。で、『新明解国語辞典』で「プレミアム」を引くと、
「プレミアム」=(premiumお礼のかね)(1)(債券などの)額面を超えた金額。(2)(入場券などの)割増金。プレミア。「プレミアがつく」
とありますから、やはり、「プレミア」は「プレミアム」の「一字省略」なのです。イングランドのプロ・サッカーリーグの「プレミア・リーグ」の「プレミア」と、「プレミア・チケット」の「プレミア」は、別のものなのです。
「プレミア・リーグのプレミア・チケット」もありうるのですが、その場合の最初の「プレミア」と後ろの「プレミア」は、原語ではつづりが違うということですね。
ついでにGoogleでもう一つ、二つ。
「プレミアチケット」= 2930件
「プレミアムチケット」=3140件
「プレミアがつく」=2540件
「プレミアムがつく」623件
「プレミアが付く」=1670件
「プレミアムが付く」=416件

ということで、ネット上では「チケット」の場合は、
「プレミアチケット」 < 「プレミアムチケット」
「つく(付く)」という成句では、
「プレミアがつく(付く)」 > 「プレミアムがつく(付く)」
ということのようですね。

2004/4/5




◆ことばの話1669「寝せて」

3月30日、アメリカ・メジャーリーグの開幕戦「ヤンキース対デビルレイズ」の試合が、日本で初めて東京ドームで行われました。その試合に中継で解説として出演していた、ジャイアンツOBのおなじみ江川卓さんの話の中で、気になった言葉がありました。それは、
「バットを寝せて」
という一言。この「寝せて」です。私なら「寝かせて」というところです。「寝せて」、あるいは「寝せる」とは言いません。これは「寝かせる」から「か」が抜けた状態ですね。終止形は「寝せる」でしょうかね?それとも「寝す」かもしれません。
Google検索してみました。(4月1日)
「寝せる」=1520件
「寝せて」=3520件
「寝す」  =760件

けっこうあるものですね。どういう風に使われているかというと、
「地べたに寝せてみろ」「体を寝せて」「どこで寝せていますか」「一人で寝せておけない状態」「静かに寝せてくれ」
といった具合。これに対して標準語の形は、
「寝かせる」=4万0500件
「寝かせて」=8万5000件

やはり圧倒的です。
東京出身のAアナに「『寝せる』って言う?」と聞いたところ、
「言いませんねえ」
とのこと。同じく東京出身のUアナウンサーも、
「うーん、よく耳にするけど、私は絶対使いませんね。」
とのこと。
この「寝せる」「寝せて」というのは、どこかの方言なのでしょうか?江川さんは作新学院の出身、ということは「栃木弁」?そこで、「寝せて」と「栃木」をキーワードに検索したところ、
「寝せて・栃木」=39件
でした。関東一円の県名で同じように検索してみました。
「寝せて・群馬」= 37件
「寝せて・埼玉」=101件
「寝せて・千葉」=162件
「寝せて・茨城」= 47件
「寝せて・東京」=779件
「寝せて・神奈川」=72件
「寝せて・山梨」= 23件

意外や意外、東京、圧倒的に多いです。779件。ということは「栃木弁」ではないのか?
ついでに東北・北海道も。
「寝せて・福島」=  77件
「寝せて・宮城」=  42件
「寝せて・岩手」=  40件
「寝せて・青森」=  70件
「寝せて・秋田」=  78件
「寝せて・山形」=  77件
「寝せて・北海道」=375件

おや?北海道、多いですね。そこで北海道出身のSアナウンサーに聞いたところ、
「『寝せる』、言いますよ。だって、『着る』→『着せる』って言うでしょう?じゃあ『寝る』→『寝せる』で、おかしくないじゃありませんかあ!」
そうかなあ?「着せる」は「着せる」「着させる」があるな。でも「着る」は上一段活用で「寝る」は下一段活用だから、きっと違うんだよ。
関西はどうでしょうか?
「寝せて・大阪」=357件
「寝せて・京都」=180件
「寝せて・兵庫」= 32件
「寝せて・奈良」= 60件
「寝せて・滋賀」= 31件
「寝せて・和歌山」=37件

これも意外なことに大阪では、よく「寝せて」が使われているようです。もちろん、この2つのキーワードの検索で、その土地で「寝せて」が使われていることと同義ではありませんけど、多少関連はあるでしょう。お、静岡出身のHアナウンサーが夜勤で出勤してきたので聞いてみました。
「絶対使わない」
そうでしょう、そうでしょう。ええい、面倒だ、ここまで来たら、各県、調べたれ!
「寝せて・静岡」= 61件
「寝せて・長野」= 71件
「寝せて・三重」= 36件
「寝せて・愛知」= 44件
「寝せて・岐阜」= 43件
「寝せて・新潟」=126件
「寝せて・岡山」= 64件
「寝せて・福井」= 32件
「寝せて・富山」= 44件
「寝せて・石川」= 50件
「寝せて・鳥取」= 20件
「寝せて・島根」= 27件
「寝せて・広島」=133件
「寝せて・山口」= 74件
「寝せて・高知」= 25件
「寝せて・愛媛」= 17件
「寝せて・香川」= 15件
「寝せて・徳島」= 20件
「寝せて・福岡」=245件
「寝せて・佐賀」= 44件
「寝せて・熊本」=105件
「寝せて・宮崎」= 79件
「寝せて・大分」=282件
「寝せて・長崎」=126件
「寝せて・鹿児島」=65件
「寝せて・沖縄」=147件

ハアー、疲れた。
ということで、100件以上出てきた都道府県を順に並べてみると、
東京=779件
北海道=375件
大阪=357件
福岡=245件
大分=282件
京都=180件
千葉=162件
沖縄=147件
広島=133件
長崎=126件
新潟=126件
熊本=105件
埼玉=101件

以上の13都道府県ですね。九州・沖縄から5県というのが目立ちますね。
『日本国語大辞典』を引いてみると、「寝かす」(「かす」接尾語か)は、1750年の用例が一番古い。また、「寝かせる」も、1750年が一番古い用例。
これに対して「寝せる」は・・・載っていました。一番古い用例は、なんと1663年の「俳諧・落穂集」です。「寝せる」の方が古いんだ!一番新しい用例は、1920年の横光利一の『火』という作品。横光は福島県出身です。
ということは、古くは京都(上方)で使われた「寝せる」が今も周辺地域には残っているという「方言周圏論」なのでしょうか?同時に、北海道のように上方からの移民が多い地域には「寝せて」が残っているということでしょうか?断定は出来ませんが。
でも「寝かせる」の場合、「か」はなんなんだろうか???
うーん、わからん!誰か、教えて!!!

2004/4/1



◆ことばの話1668「ミディトマト」

スーパーで「プチトマト」=「ミニトマト」を買おうと棚に手を伸ばすと、その横に普通のトマトよりは小さいけれども、ミニトマトよりは大きいトマトがありました。そのトマトが入った袋には、こう書いてありました。
「熊本産ミディトマト」
え?ミディ、トマト?初めて目にしました。「ミニ」ではなく「ミディ」です。おそらく「まんなか・中間」という意味の「ミディアム」は短くなって「ミディ」なのでしょうが、「ミニトマト」と区別がつきにくいですよねえ、物の区別はつくけれども。それに言いにくい舌、噛みそう・・・。
Googleで検索してみました。(4月1日)
「ミディトマト」=969件
中に「正式には『ヘルシーミニトマト』という」と書いてあるページもあったのでそれも検索してみました。
「ヘルシーミニトマト」=8件
これはもともと「日本たばこ産業」が持っていた商標権だったものを、青果物流部門からの撤退に伴ってほかの会社に譲渡したみたいです。「ミディトマト」のほうは一般名称なのかな。ついでに「プチトマト」「ミニトマト」も検索しました。
「プチトマト」=3万6300件
「ミニトマト」=4万6800件

やっぱり、さすがに「ミディ」よりは古くからある品種なので、定着していて、件数も多い!アルバイトのI嬢に聞くと、
「ミディトマト、食べたこと、ありますよ。ミニトマトよりは酸っぱくなくて、おいしかったですよ。」
とのこと。アナウンス部で女性アナウンサーに知っているか聞くと、
「え?ミディトマト?知りません。フルーツトマトとは違うんですか?フルーツトマトは甘いですよね。」
というので、今度はフルーツトマトというものを検索してみました。
「フルーツトマト」=1万0300件
けっこうあるな。さらに、
「桃太郎っていうのもありましたよね」
と言われたので、それも入れて検索すると、
「フルーツトマト、桃太郎」=433件
「桃太郎」は「フルーツトマト」の代表的な商品名のようです。
トマトの世界も奥が深い!

2004/4/1
(追記)
昨日、スーパーで「ミディトマト」(熊本産)をまた見つけたので買ってみました。その「ミディトマト」の袋の裏には「フルーツトマト」と書かれていましたが。
ついでに買った「ガーネット」と札に書かれた、ミディトマトよりも少し細長い北海道産のトマトの袋の裏には「ミニトマト」書かれていました。家に帰って食べたところ、味はともに、
「プチトマトと同じ」
でした。何が何やら…。

2004/5/20



◆ことばの話1667「抜きつ抜かれつ」

えー、今回は「抜きつ抜かれつ」の「つ」です。なんか、急に気になったんです。同じような「つ」には、
「行きつ戻りつ」
「ためつすがめつ」
「持ちつ持たれつ」

といったところを思い出しますね。『新明解国語辞典』を引きました。

「つ」(接助)=(助動詞「つ」に基づくという。一人で同時にはすることの出来ない動作・作用が、相手との間に行われることを表わす。(「たり」よりは用法が固定的)
「とつおいつ」「追いつ追われつ」「抜きつ抜かれつ差しつ差されつ」「組んづほぐれつ」「行きつ戻りつする」「持ちつ持たれつ」


とたくさん用例が載っていました。ああ、そういえばありますね。でも、ここにも書いてあるように「たり」ならば、どんな動詞でもつなげるけど、この「つ」は、ある程度、型が決まっているような感じですね。
けっこう限定的に使われる「つ」の「つ」かい方を覚えれば、日本語遣いの懐も広がるのかもしれません、と思いつつ。「つつ」はまた違うかな。

2004/4/1



◆ことばの話1666「ひっぺがす」

3月22日、佐々淳行さんの現役時代に遭遇した事件を振り返る「報道ドラマ」のようなものを日本テレビでやっていました(「スーパーテレビ特別版・佐々淳行極秘メモ・警察指揮官が残した現場手帳74冊」)。その中に出て来た、浅間山荘事件に関して佐々さんがビッシリ記された「極秘メモ」の中に、

「屋根ひっぺがし」

という文字が見えました。「ひっぺがす」は、「引き」+「剥がす」がくっついたのだと思っていました。しかしそうすると、なぜ「はがす」の「は」が「ぺ」になるのかが不思議に思いました。「『はがす』に『ひく』が付くと『は』→『ペ』になるのは、なんかヘンだな。」と思ったのです。でももしかしたら「へがす」あるいは「へぐ」という言葉があるのか?と思って辞書をみると、なんと、あるではないですか!
でもまだ、確信がもてないのですが、「ひっぺがす」は「引き」+「へがす」なのでしょうか?また「はがす」と「へがす」はどちらの言葉が古いのでしょうか?『日本国語大辞典』を引いてみると、「はがす」は万葉集から、「へがす」は1700年代の書物から用例がありますが、「はがす」の方が古いのかどうか?「はがす」が変化して「へがす」ができたのかどうか?
「はぐ」と「へぐ」(あるいは「はがす」と「へがす」)に意味の違いはあるのか?
それとも「方言」なのかどうか?疑問は募るばかり。そこでネットの掲示板「ことば会議室」に質問を書き込みました。以下、いろんな方からコメントをいただきました。

岡島昭浩さんからは『「へがす」の用例は新しくても、「へぐ」が古くからあるようだから、「へがす」が新しい言葉であると断定することは出来ない。「へぐ」は「減る・減す」と関係ありそう』という意見を、またYeemarさんからは『「へぐ」という言葉、方言辞典によれば、現在では静岡県、島根県などで使われているようだが、私は小さいころ、郷里の香川でしばしば聞いたような気がする。使い方は、「竹ひごをへぐ(けずる)」「ゴムへらについた生クリームをへぐ」という感じ。本体と一体化した薄いものを引き離すという語感があるように思う。「はぐ」は、「ふとんをはぐ」というように、本体と一体化していなくてもよいように思う。「ひっぱがす」と「ひっぺがす」の違いはあまり感じないが、「愛し合う二人をひっぱがす(ひっぺがすは密着している場合?)」「柱にくっついた千社札をひっぺがす(ひっぱがすも可)」という微妙な用法の違いがあるように思う。あくまで私の語感だが。「はぐ」のほうが「へぐ」よりも意味が広くてよく使われてきたということは言ってよいのではないか。』、そしてNISHIOさんからは、『「へぐ」「へぎ」はよく聞いた。木の皮をへぐのは「剥く」に近い。木材を薄くへいで「へぎおり」を作るのは、表面をカンナなどで薄く削り/剥ぎ取るイメージ。削り/剥ぎ取った薄片のほうが主役。半乾きの餅を薄くへいで「へぎ餅(かき餅)」を作るのも同様。「竹ひごをへぐ」は、私の感覚とはちょっと違う。「へぐ」は方言だと思っていたが、改めて辞書を引いてみるとふつうに載っているのが少々意外だった。』として、辞書の記述も載せてくれました。

■新明解国語辞典
 ひっぱが・す【引(っ)剥がす】(他五)〔東部方言〕力を入れて(無理に)剥がす。
 ひっぺが・す【引っぺがす】(他五)〔東部方言〕ひっぱがす。
 へがす(他五)〔口頭〕〔「はがす」と「へぐ」の混合〕 はぎとる。[自動]へげる(下一)

■東京堂出版『日本俗語大辞典』
 ひっぱがす(引っ剥がす)[動](「ひきはがす」の変化した形)乱暴に引き剥がす。荒っぽい語感。
 ひっぺがす(引っ剥がす)[動]「ひっぱがす」に同じ。[江戸]
 へがす[動]はがす。[江戸]

■旺文社『全訳古語辞典』
 は・ぐ【剥ぐ】(他ガ四)(1)物の表面をむき取る。はがす。
 へ・ぐ【剥ぐ・折ぐ】(他ガ四)薄く削りとる。はがす。また、減らす。

■『広辞苑』
 は・ぐ【剥ぐ】 [一]《他五》(1)表面をむきとる。はがす。へがす。
 へ・ぐ【剥ぐ・折ぐ】 [一]《他五》(1)薄く削りとる。はがす。むく。日葡辞書「イタヲヘグ」
 はが・す【剥がす】 《他五》はぎとる。ひきむく。「ポスターを―・す」「生爪を―・す」
 へが・す【剥がす】 《他五》はがす。へぐ。
 へぎ【折ぎ・剥ぎ】 (1)へぐこと。(2)「へぎいた」の略。(3)「へぎおしき」の略。〈日葡〉(4)「へぎおり」の略。
 へぎ‐いた【折板・剥板】  杉または檜の材を薄く剥いだ板。へぎ。
 へぎ‐おしき【折折敷・剥折敷】  へぎいたで作った折敷。へぎ。
 へぎ‐おり【折ぎ折・剥ぎ折】  へぎいたで作った折箱。へぎ。「―にすしを詰める」
 へぎ‐もち【折餅・分餅】 (→)欠餅(2)に同じ。
 かき‐もち【欠餅】 (2)餅を薄く切って乾燥したもの。あぶり焼いて食す。

■東京堂出版『上方ことば語源辞典』(堀井令以知編)
 ヘギ「折」と書き、杉や桧の材を薄く剥いで作った折箱。「ヘギにご馳走入れて持っていこ」。
  〔語源〕ヘギイタの略で、室町時代から使われている。薄く板を削り取るヘグから。

こういった答えを見ていて思い出しました。アナウンサーの滑舌練習でやる「外郎(ういろう)売り」のセリフの中に、
「へぎほしはじかみ」
というのが出てくるのですが、その「へぎ」の意味がようやくわかりました!「へぐ」んですね。そして「干す」んですね。そうした「はじかみ」なんですね。
ところで辞書を見ると「はじかみ」は、「さんしょう」だったり「しょうが」だったりするんですが、「へぎほしはじかみ」の「はじかみ」は、どっちなんでしょうか?山椒?生姜?と新しい疑問も出てきました。
これはまた、後日・・・。

2004/3/30


 
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